第10話 [無生物テイマー、面倒な女と出会う]

 目的地に着くまではとことん暇だ。馬をわざわざ操縦したり、餌を与えたり、休憩させたりなどなどは全く必要がないからだ。

 馬車内でソフィから貰った本を読み、酔いそうになったら窓の外を眺めを繰り返している。


 だいぶ長い間馬車に揺られていると、ピタリと止まった。


「ん? 到着か? よっと」


 外に下りてまず目に入ってきたのは、俺の身長の何倍もある丸い岩だった。どうやら山から岩が崩れ落ち、削られ削られでこの道のど真ん中で止まったらしい。

 これが依頼の一つだな。なす術があるって素晴らしいことだなぁ。


「簡単だな。【使役テイム】。そんでもって……〝召喚サモン・解除〟」


 岩は消滅し、道が切り開かれる。ちなみに今後よく使いそうな物は名付けることにしたので、岩は『サクスム』と名付けた。


 特に汚れていないが手をパンパンと払い、周囲を見渡す。


 一つの依頼は終わった。この辺りから明鏡草が生える地帯となっているのだが、あまり見かけない種類の薬草だ。

 明鏡草は気分を落ち着けたり痛みを過度に感じさせなくなる成分を含んでいる薬草で、医療など麻酔などによく使われるため重要だ。

 本来なら人海戦術で探すべきだが、俺一人だからもちろん無理だ。


「さてどうしようか……。手がかりになるものを探して、それをテイムして後を追うかぁ」


 残りの泥魔棒を持つスワンプツリーという魔物は見つけやすいから大丈夫。調査の依頼は多数のギルドが受注し、複数の調査結果から現場を確認するといった感じなので急がなくても大丈夫だ。


 まずは一番困難な明鏡草を探すべきなので、手当たり次第にこのあたりを調べてみることにしよう。

 ……そう思ったのだが……。


「ちょっと待ちなさいよあんた!」

「ん? なんだお前」

「今の今までのを見させてもらってたわよ!」


 荘厳な白銀色の鎧を身に纏う少女。赤髪を後ろで結び、翡翠色の瞳をギラつかせている。

 見た目は完全に聖騎士だ。国のために最前線で戦い、魔を絶対に許さないという意思を持つ者のこと。


「(とりあえずあれ使ってみるか。【鑑定】)」



 △ △ △


 ◾︎エリサ・ルーメ


 役職:聖騎士パラディン光園エデン


 ▽ ▽ ▽


 鑑定を初めて使ったから名前と役職しかわからなかったのだろう。もっと使い込んでいけば役職の詳細や、所持しているスキルが見えてくるらしい。

 正直言ってなんの役にも立たない。役職が聖騎士の上位互換で超強いってことしかわからないからだ。


「貴方が最近巷で噂の山賊ね!? ワタクシが成敗するわ!」

「いや、俺はここで依頼を……」

「悪人との話なんて無用よ!」

「……俺は人の話聞かねぇやつと驕り高ぶってるやつが嫌いだ。特にお前みたいな」

「正体を現したわね、邪悪な山の賊!」

「あ〜言えばこう返す。一つの可能性しか考えられねぇ単純思考騎士様がよぉ」


 嫌いな人種の一種だが、強いことは確かだ。

 けれどこれは好機と考えた。騎士は対象の相手をなるべく殺さず、捕らえることを優先すだろうから、俺と戦っても殺しはしないだろう。

 俺がどこまでこの騎士に通用するか確かめたくなったのだ。まぁ後から問題だと言われても、ふっかけてきたのはこの女だ。罪をなすりつけれる。


「成敗するわっ!」

「真っ直ぐな騎士さんだな。込めた意味としては堅物バカだがなぁ!」


 戦いの火蓋が、切って落とされた。

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