第7話 [無生物テイマー、厄災の魔女を懐柔する]

「と、とりあえず中に入ってよアレンくん! ぱ、パーティーしよ! いぇーい!」

「無理にテンション上げなくても……」


 ギルドマスターのソフィさんに手を引かれ、荘厳な佇まいな城内に連れ込まる。

 外だけのハリボテというわけではなく、内装もしっかりとしている。シャンデリアに真紅のソファ、机や椅子もどれも高値で取引されそうなものだった。


 言われるがままフカフカのソファに座らされ、向かい側にソフィさんも座る。


「えっと、お水しかなかったけど乾杯〜!」

「はぁ。乾杯」


 どこからかカップがフヨフヨと運ばれてきた物を手に取り、そう言う。


「わ、わからないことあったらなんでも言ってね? 私頑張るから!」

「あ、あざす……。じゃあ早速なんですけど、他のギルドメンバーっていないんすか?」

「うん! 私ひとりぼっちなんだぁ……」

「……なんかすいません」


 ニパッと可愛らしい笑みを浮かべるが、すぐさま深淵に突き落とされたかのように暗い顔になる。

 中々面白い人だが、それが他の人には伝わっていないんだろう。


「ギルマスはなんでこのギルドを設立したんです?」

「……それ聞くかぁ。うん、わかった。大事なギルメンだしね」


 はにかみ笑顔で俯くが、決意したかのようにこちらに顔を向ける。


「昔は友達がいたんだ。けど役職授与の時にこれを受け取ってから、周囲の対応が変わったの。村人の大人たち、友達、ましてや両親も。迫害対象になっちゃったんだ。

 それからなんとか頑張って生きてたけど、やっぱ寂しかった。友達が欲しかったの。だから、ギルドを作ればメンバー集まって友達もできるかな〜って思ったらこのザマでね」

「…………」

「あはは、なんか暗い話してごめんね」


 一緒だった。

 テイマーとしての役職を得たのにも関わらず魔物がテイムできず、友人は消え、親から追放され……。

 ただのらりくらりと生きていたいならギルドに所属なんかしなくとも、魔物や魔獣の素材の換金だけすればよかった。わざわざまたギルドに入ったのは俺も……。


「……一緒ですよ」

「え?」

「俺もつい最近まで自分の力の使い方がわかんなくて虐げられてきたんすよ。似た者同士ってやつかもしれないですね」

「へ、へー! うへへ、一緒なんだ。じゃあこの勢いで友達になっちゃお〜! なんちゃっt――」

「あぁ、いいですよ」

「…………ふぇ?」


 ソフィさんはあっけからんとした表情で俺の顔をじっと見つめ、水を飲んでいた手も固まっている。

 今まで俺はいろんな種類のクズを見てきた。だが、いろんな種類のいい人もみてきた。出会って間もない、明らかに異常な存在の厄災の魔女だが、今までの経験上から後者に分類されていた。


「……不躾だったっすか? じゃあまぁ、普通のギルメンとして……」

「いやいやいや!!! よ、よよよよっ、よろしければおおおお友達になりたい所存です!」

「ふっ、何すかそれ。じゃあよろしくお願……いや、友達に敬語って使わないか。……よろしく、ソフィ」


 久しぶりに優しい笑みが溢れた気がする。自分でも内心心が踊っていたのかもしれない。

 ……あと普通に敬語は苦手だし。


「っ!!? よ、よろしくね、アレンくん!」


 この日俺は、厄災の魔女と友達になった。



###



 二人が友人となった後、ソフィは少し席を外していた。


 いくら経っても収まらない心臓の鼓動と火照る体。彼女は今までに感じたことのない感覚に襲われていた。


「と、友達……うへへ、友達できた、けど……何なんだろうこの気持ち」


 厄災の魔女として生きて約15年間。その前に現れた自分の力と対等に成り得る存在。自分と対等になった関係の構築。

 夢だった友人。


「どうしよう〜……。心臓止まってよぉ……!」


 畏怖の対象、最恐の存在である厄災の魔女は自分で気づいていないが――初恋をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る