第6話 [無生物テイマー、闇ギルドに加入する]

 俺が住んでいる国――オルトゥス王国では三つのギルドが三つ巴のような状態となって牽制しあっている。

 一つ目は俺がさっきまでいた荒くれ者が集う『紅蓮の拳』。二つ目は高貴で騎士ともよく精通している『純白の羽』。三つ目は黒い噂が絶えない闇ギルドと言われる類の『蒼黒の心臓』。


 俺が職につけずにいた頃は後者二つのどちらかで悩んでいた。ぶっちゃけ一番の純白の羽は実力主義で入れないと思ったからだ。

 なぜ紅蓮の拳を選んだかというと、適当だ。正直どちらでもよかった。


「さぁて……行きますか。


 紅蓮の拳を脱退した後は、闇ギルドに加入しようとしている。気が狂ったわけではない。

 そこのギルドは仕事はキチンとこなすし、ビジネスパートナーとしてはうってつけのギルド。だから仕事がたらふく入って金も稼げるし、俺のこの変わった役職も受け入れてもらえると思ったからだ。

 流石に無職で魔物の換金をするのはまずいと思った。体を壊した時の手当などもないしな。


「確かギルドは町外れにあったな」


 オルトゥス王国にて人が全く寄らない辺鄙な場所。新規冒険者を募集してるのかもわからないが、兎に角行動するのが大切だ。

 足を動かし、ギルドがあると言われている場所に向かって足を動かした。



###



「ここ……だよな」


 噂を信じてたどり着いたのは、小さい城のよう建物だった。周囲の建物は壁が崩れたり木が剥がれたりしているが、その城だけはまるで作りたてのようだった。

 恐る恐るその扉をノックするが、返事がない。


「居ないのか?」


 ガチャリと扉を開けて一歩足を踏み入れた途端、全身の鳥肌が一瞬で立った。明らかに異質なナニカがそこにいた。


「アァ……ダァレ……?」


 のそのそとソイツは俺に近づいてきている。真っ黒なローブにトンガリ帽子を被っており、不自然に蠢いている。

 おそらくスキルは何も使っていないというのに体が一ミリたりとも動かない。すっかり間合いまで近づかれ、そして――。


「お、おおおおお客しゃま!? 待ってていますお茶を、あ痛ーーっ!! うぇーんまた服汚れた……」

「ん……?」


 俺の顔を見た途端に踵を返し、地面と熱烈なキスをする者。な、何をしているんだこの怪異は……。

 呆気にとられていると、帽子で隠されている顔が露わとなった。


「あああああ、えっと、私はここの、ギルド……あ、ギルド名は蒼黒の心臓って言うんだけど……ギルドマスターでね!? あ、私がね!!? えーっとえーっと……」

「あの……落ち着いてください」

「あ、ハイ」


 猫背になっているが180センチくらいはありそうな身長に、腰あたりまで伸びる黒髪青メッシュ。青い瞳はずっと泳いでおり、手も落ち着きがない。恐怖で気づかなかったが、かなりの美人だった。

 そんな彼女の姿を見て俺も冷静さを取り戻した。


「えっとー、何か御用かな? あはは……」

「まぁ単刀直入に言うとこのギルドに加入したいと思っt――」

「ギルドに入ってくれるの〜〜!?!? やったー! 初めてギルドに仲間が増えたー! わ、私ソフィ・グランデ! よろしくね!」

「え、あぁ……。アレンです」


 ……あれ、もしかしてもう加入したことになってんのか? まだ思ってた段階だったけれど。

 それと、そういう手法なのだろうか。この女性の力は紅蓮の拳のギルマスより遥かに上に値するだろう。だが、闇ギルドをしているほどの悪役には思えない。


「ここって闇ギルド……なんすよね?」

「ち、違うよぉ! 世間からはそう見られてるけど普通のギルドなの! あは……それもこれも、『厄災の魔女カラミティ・ウィッチ』っていう役職のせいで恐れられてるんだよぉ……」

「はぁ。でも今さっきの無様な姿みたらそんな印象拭える気がするけど」

「い、いつもはそんなんじゃないんだよ! うへ、が来たからテンション上がっちゃってね」


 なんのことだからさっぱりわからないが、どうやらここは闇ギルドではないらしい。その真偽はわからないのでまだ信用しないほうがいいだろう。

 それと、『初めてギルドに仲間が増えた』と言ったが、その言葉は本当なのだろうか。もし本当なら、一人でここまで駆け上がってきたと?


 相当な化け物がトップのギルドに加入してしまったみたいだ。

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