第5話 [無生物テイマー、紅蓮の拳を抜ける]

 ――翌朝。

 清々しい気分で迎えた朝だったが、紅蓮の拳のギルドマスターから早急にギルドに来るようという手紙を頂いた。

 心底嫌な顔をしたと思うが丁度いい。紅蓮の拳を脱退しようと考えていたからだ。


 水分が全く含まれていないパンを一つだけ頬張った後、宿屋を後にしてギルドに向かった。


「お、おい来たぞ!」

「本当にガットさんを倒したのか!?」

「でもギルマスにゃ勝てねぇって」

「アレンと戦ったら力を失うってマジ?」


 ギルド内に入るや否や、俺を影から見ながらコソコソと話している。どうやら昨夜の噂がもう広まっているらしい。

 いい気味だ。今まで馬鹿にしてきたのにすっかり畏怖の対象になってるなんてな。


 薄ら笑いを浮かべながら受付嬢のとこまで行き、ギルマスのいる部屋へと案内される。


『入れ』


 中からそう聞こえたので、俺はドアノブをひねって中に入る。そこには椅子に座る筋骨隆々の男の姿があった。

 紅蓮の拳ギルドマスター、ドラ・ドラグマ。役職は『竜拳者ドラゴ・ナックルマスター』。簡単に言えばガットの上位互換だ。


「まぁそこに座って茶でも飲め」


 近くにいた召使い的な女性が紅茶を注いでいた。何も喋らず、ソファに座った。そして一瞬だけ紅茶に手をかざした後、それを飲んだ。


「よし、取り敢えず事情聴取だ。ガットらを倒したのはお前か?」

「ああ」

「クク……効いてるな」


 何やら不敵な笑みを浮かべているが、知らんぷりしてもう一度紅茶を口に注ぐ。

 何が面白いのか、ずっと笑っている。俺は全く面白くないしつまんないから早く帰らせてほしいものだ。


「では次だ。ガットをどうやって倒した」

「……さぁ? 黙秘します」

「なッ……!? 薬が効いていないだと!?」

「薬、ねぇ?」


 推測に過ぎないが、紅茶内に入れていたのは自白剤とかだろう。それを飲ませて正直に話させるといった魂胆か。

 俺は予めにこの紅茶を【使役テイム】していたから、良からぬものをきちんと分離してくれていたみたいだ。


「ギルドマスターであろう方が薬とかいうこっすい手を使ってまで俺に夢中だなんて。嬉しくないからやめてください」

「ふんッ!!!」


 ――ガシャン!!


 ギルマスが机を殴ってボロボロにしていた。


「では小賢しいマネはもうやめだ。答えろ、何を使った!!」

「それ義務ですか? 言いたくないこと言いたくないっす。少しは自分で行動して探してみたらいいんじゃないすかね」

「キ・サ・マ……!!! これ以上のらりくらりとしていたら、このギルドを脱退させるぞ!!!!」

「え、マジっすか? んじゃこれにて」


 ソファから立ち上がり、部屋の外に出る。そして、ギルドさえも後にした。

 ポカンとしたギルマスだったが、フツフツと怒りが込み上げて顔がマグマのように真っ赤となったのは後から聞いた話だ。


 俺の仕打ちを無視していたギルマス……。近いうちに、お前の役職も奪ってやる。精々毎夜、震えてオネンネするこった。

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