最終話 普通の人間

「うん? 『ここで終わりじゃないのか?』って? 僕も最初、そう思いました。『理不尽な生き霊から愛する人を守る話だ』と、そんな風に思ったんですね。しかし、現実は違う。こんな話になる事も、そして、ハッピーエンドになる事も。怖い話には、怖いオチがある物です。


 。上司の生き霊に見えて、本当は彼女の生き霊だった。霊能者は自分の前に関係者を、つまりは○○さんの上司を呼んで、彼女に事の真相を話した。彼女は、その話に言葉を失った。恋敵から自分の罪を責められて以来、それに罪悪感を覚えていたからです。会社での関係も悪くなったし、彼の御家族からも疎まれている。


 正に針のむしろです。僕ならきっと、壊れる。彼女もまた、そうなる一歩手前だったのでしょう。霊能者の意図はどうであれ、その行動は許せない。自分に無実の罪を着せた、そんな霊能者が許せない。

 

 彼女は霊能者の弟子達が見守る中で、相手に罵詈雑言を浴びせました。ですが、それに怯む霊能者ではない。自分がこの状況を作った以上、それを受けいれるしかありませんでした。霊能者は彼女の罵倒を上で、彼女に自分の意図を話した。


 霊能者の意図は、除霊です。一も二もなく、ただ生き霊を祓うだけの。霊能者は彼女に自分の行動を謝り、彼女がそれを聞きいれたところで、彼女にまた除霊の意図を話しました。除霊の意図、つまりは今回の作戦でしょうか。


 霊能者は、生き霊の強さを知っていたんですね。彼への思いが強くなる程、その力も増していく生き霊。生き霊は本体から離れて、それに実体を持ちはじめた。彼がエレベーターの中で感じた視線、そこから姿を得て。生き霊は彼の私生活を見張り、そして、その領域にも入りこんだ。

 

 ううん、正に悪霊です。生き霊を『悪霊』と呼べるかは、分かりませんが。とにかく、怖い。とにかく、恐ろしい存在です。僕も正直、怖くなりました。霊能者は『生き霊が悪霊よりも厄介な場合がある』として、ある種のミスリードを作ったんです。彼女の意識を逸らす、『ダミー』としてね。


 些か嫌な手では、ありますが。生き霊を祓うためには、仕方ない。それは投稿者の方も、分かっているようです。『これが、最善の手だ』と。事実、上手く行ったようですしね。『上司が生き霊の本体だ』と思いこんだ彼女は、霊能者から教えられた方法を守り、自分で自分の生き霊を浄めたわけです。


 毎日、毎日、神社に行ってね。神様に祈ったわけですよ。『彼に取り憑いている虫を祓って欲しい』と、そう何度も願っていたわけです。彼女は上司との関わりを絶ち、彼の両親とも会わず、自分の恋心にだけ従った。そうして、自分の闇を祓った。『生き霊』と言う、悪霊を除いた。


 彼女は霊能者に自分の近状を話して、相手から除霊の成功を聞いた。除霊の成功と、そして、これからの事を聞いた。自分と彼、そして、上司とどう付き合うか? その未来を聞いたのです。


 彼女は、霊能者から『彼と別れるように』と言われました。上司が生き霊の本体になっている以上、彼との関わりは、生き霊の再登場に繋がってしまう。『だから、彼との関わりを絶たなければならない』と、そう諭したわけですね。実際は、彼女の生き霊を鎮めるためでしたが。彼女は悩みに悩んだ末、彼への恋を諦めました。

 

 悲しい話です。一つの怪異が、一つの失恋を生んだ。第三者の僕にも、辛い話です。こう言う人には、できるだけ幸せになって欲しい。それがたとえ、難しい話でも。人の不幸はやっぱり、聞きたくないですね。


 ですが、それが現実です。怖い話は大抵、怖い形で終わる。今回の話も、あれ? 不思議に思いませんか? 当チャンネルは、投稿者の怪談話を取り上げるチャンネル。投稿者が怖い話を投じなければ、このチャンネルでも取り上げません。

 

 。この話に関わった、正確無比なソースが。情報源は、生き霊の本体。つまりは、彼を愛する女性です。彼に残業を助けられ、その誠意を受けた彼女です。彼女はふとしたキッカケで、この話を知った。愛する男が、恋敵と交わる会社のオフィスで。壁の外側から、その話を聞いてしまった。


 彼女は『二人の仲を裂こう』としましたが、残念。霊能者の御守りが、それを許してくれない。台所の果物ナイフを持ったところで、『ハッ!』と我に返ってしまう。彼女は、物理での復讐を諦めた。そして、情報での復讐を企てた。


 情報での復讐なら物理よりも、直接性が薄められる。そんな感じで、このチャンネルに話を投じたのです。怖い話は、本当か嘘か分からない。世の中には、こう言う話を信じない者も人も居る。彼女は理屈でそう考えたのかは分かりませんが、そう言う作戦を考えた。そして、このチャンネルに……。

 

 皆さん、人の思いは怖いですね。。世の人々が怖がる悪霊は、元々は普通の人間ですからね。普通の人間が怒りに狂った時、『生き霊』と言う魔物を生みだす。あなたも、そんな魔物を生みだす一人になるかも知れませんね。


 おっと、思った以上に長くなってしまいました。すいません、どうやら熱くなってしまったようです。人間の世界に潜む怪異。当チャンネルはこれからも、そんな怪異を扱っていきたいと思います。では、またの機会に」

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