第4話 怪異の正体

「いやはや、大変ですね。毎日の仕事ですら大変なのに。二人の善意には本気で、頭が下がります。自分が同じ立場なら、ここまで流石に出来ませんからね。いやぁ、愛の力は偉大……うん? 何かおかしな事って? 


 僕はただ、事実を話しただけです。『二人の愛は、偉大だ』とね? 。愛する人のためなら、何でもできる。それがたとえ、『怪異が相手だ』としても。


 二人は、一歩も引かなかった。ここで彼を助ければ、隣のライバルを出し抜ける。互いの立場は分からなくても、その関係を少しだけ進められる。二人はそれぞれに経緯があるようですが、彼が好きな事に変わりはないようです。

 

 だから、おっと! 『リア充死ね』は、いけません。世の中には、色々な人が居る。才能溢れる青年も居れば、凡愚でしかないボッチ男子も居る。僕も人の事は言えませんが、彼の場合は間違いなく前者でした。


 二人の女性は、ある霊能者を探しあてた。そんなに有名な方ではありませんでしたが、格安の相談料と抜群の評判力で『これは、当たりだ』と思ったようです。二人は霊能者に事情を話して、相手に今回の霊視を頼みました。

 

 霊能者は、彼の霊視を請けおいました。業界の相場では、かなり安い金額で。病院までの交通費も、『要らない』と言ったそうです。霊能者は○○さんから事情を聞き、そこから様々な儀式を経て、怪異の正体を見極めたようですが……。


。 霊能者は怪異の真相が分かったようですがね、その真実をどうしても話したがらない。例の二人はもちろん、彼の家族から言われても、それに『ううん』と言いよどんでしまった。


 霊能者は悩みに悩んだ結果、後日に同僚の女性を呼んで、彼女に怪異の正体を話しました。。それも、上司の生き霊。彼女の恋敵である、女性の生き霊だったのです。


 彼女は『それ』を聞いた瞬間、その場に思わず倒れてしまった。彼女が目を覚ましたのは、それから一時間後の事です。霊能者の声を聞いて、椅子の上に座らされた。そして、霊能者の助手が持ってきたお茶を飲んだ。


 彼女は机の上にお茶を置くと、苦しげな顔で目の前の霊能者に向きなおりました。霊能者はじっと、彼女の目を見つめています。彼女は『それ』が怖かったようですが、生き霊の事も気になったので、霊能者から生き霊の話を聞きました。

 

 生き霊の話は、怖かった。彼女自身も生き霊の事は知っていましたが、彼女が考える以上に怖かったようです。最初は本体と重なっていた思念、つまりは生き霊の元が、何かの原因で本体から離れる。そして、思念が感じている対象、愛情や憎悪の対象に取り憑く。


 今回の場合は、上司の生き霊が彼に飛んでいったわけですが。生き霊は最初こそ透明でしたが、彼が同僚の彼女に怒った事(強烈な負の感情を抱いた事)が原因で、その姿を現したようです。

 

 生き霊は、本体の行動と同じ。遠目から彼の事を見つづけていた。彼と恋敵が(何だかんだで)良い関係になるそうなところを羨ましげに眺めつづけた。上司が部下の行動を見張るように。生き霊もまた、彼の事を見ていたようです。


 生き霊はエレベーターの中から出ると、今度は彼の事を言って、彼が住んでいる家にも行きました。そして、話に出て来た怪異を起こした。彼に自分の事を気づいて欲しくて。彼女なりの愛情表現を見せたのです。彼には『それ』が、ただの恐怖体験でしかありませんでしたが。


 生き霊は彼の身体に取り憑いて、今もその精神を侵しています。彼の精神をじわじわと。そう話したところで、彼女が話を遮った。彼女は上司の生き霊に腹が立っただけでなく、彼自身の不幸にも胸を痛めました。

 

 それゆえに躊躇いがなかった。霊能者の話を聞いて、それに『さっさと追っ払ってください!』と頼めた。彼女は霊能者の沈黙を無視して、相手に自分の意見を押しとおした。『私にできる事があれば、何でもする』と、そして、『上司の事は決して、許さない』と。その初心な気持ちを燃やしたのです。


 彼女は自分の好きな人を守るため、霊能者から言われた指示を守り、朝のお祈りを欠かさず、休みの日は(可能な限り)神社に行って、神様の助力を願いつづけました。ううん、凄い精神です。会社の方はまだ、辞めていないようですが。彼女は霊能者の言い付けを守って、今も約束の儀式を続けています。愛する人を守るために……。ですが」

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