理不尽な同窓会
第1話 同窓会の案内
同窓会は、嫌いだ。学生時代の階級が蘇るし、女子達に自分の価値を値踏みされるからである。だから、この同窓会も断りたかった。学生時代に騒いでいた連中、それが昔の栄光を「取りもどそう」としていたからである。彼は案内のハガキに隠された、マウントとの取り合い、見栄の張り合い、不倫のやり合いを察した。「くだらねぇ。同窓会なんか絶対に行くもんか!」
あんな場所に行くのは、本物のバカしか居ない。今の自分に自信が持てない連中しか行かないのだ。過去よりも未来を重んじる自分にそんな場所は不釣り合いである。彼はそう感じて、案内の欠席に丸印を付けた。そして、郵便ポストに「それ」を投げいれたのだが……。
どう言うわけか、あの案内がまた届いてしまった。今度も最初と同じ、「同窓会」と言う題がついて。文章の内容もまったく同じ案内が、彼の郵便受けに入れられたのである。彼は「それ」が怖くなって、案内のハガキをしばらく見てしまった。「ふざけるんなよ!」
相手にはちゃんと、「欠席だ」と伝えたのに。それをまた、送ってくるなんて。同窓会の幹事が見落としている可能性もあるが、それでもやはり許せなかった。あんなリア充万歳の同窓会なんて、頼まれても行きたくない。
間髪を入れずに「行きません」と断る。自分が学生時代に散々見下したくせに。今回自分を誘った理由もどうせ、「その優越感を満たすため」としか思えなかった。彼は案内のハガキを破って、ゴミ箱の中に「それ」を放り投げたが……。
それもどうやら、無駄な抵抗だったらしい。彼の家にハガキは届かなくなったが、代わりに別の場所、幼馴染の家に「それ」が届きはじめたらしかった。相手は彼に「断ったんだけどね?」と話して、この奇妙な現象に首を傾げた。
「怖い事はまだ、起きていないけどさ? それでも、怖くない? 一回断った同窓会の案内がまた、届くなんて。間違いにしては、怪しいよ。それが私だけじゃなくて、アンタにも起こっているなんて。『不気味に思うな』って方が、無理じゃない?」
青年は、その言葉に押しだまった。確かに無理である。行きたくない同窓会の案内がまさか、(それも断ったのにもかかわらず)二回も来るなんて。「幹事の間違い」とはどうしても、言えなかった。相手は意図して、それも悪意を持って、「こう言う悪戯を仕掛けている」としか思えない。
事実、別クラスの友人にも同じような事が起こっていた。断っても、断っても、送られてくる同窓会の案内。それに頭を抱えていたのである。彼は友人の話を聞いて、「これは、ただ事ではない」と思いはじめた。「こう言う事もある、わけないか? これはどう考えても、おかしい。一人だけならまだしも、十人以上の人間に起こっているなんて。これは」
心霊現象委の類。そう考えた瞬間に「動かなきゃ」と思った。こう言う事に明るくない彼だが、「素人には、どうにもならない事」は分かったらしい。例の幼馴染にも話して(彼女は、交友関係が広い)、専門の人間に事情を話した。彼は相手に今回の事を伝えきると、今度は神妙な顔で相手の答えを待った。
相手の答えは、「
青年は、その話に震えた。特に「亡霊」の部分、これには思わず叫んでしまった。彼は自分の気持ちを落ちつけて、受話器の向こう側にまた話しはじめた。「幽霊が同窓会に誘っているんですか?」
相手は、その質問に応えなかった。「応えられない」と言うよりは、「もう応えている」と言う風に。通話に無言を乗せては、それに重力を加えたのである。相手は何度か咳払いして、青年にまた話しはじめた。
「貴方のご友人で、亡くなった方は?」
「『居ない』と思います。疎遠になった人達は、居ますが。そう言う話は、まったく聞いていません。幹事の奴等とは、学生時代にほとんど話していないし。僕と同じような事になっている友人達も、基本は僕と同じような奴等です。クラスの隅に集まっているような、そんな連中がほとんどでした。自分からは、あまり……。だから、本当に驚いているんです。そいつ等から誘われただけなら……」
「どうしました?」
「あ、いえ、そいつ等の事は苦手でしたけど。俺達の学年でちょっと、嫌な事件があったんです。仲の良かった女子グループ? その全員に不幸があって。同学年の奴等も」
「ショックだった?」
「はい、俺の知っている範囲じゃ。それがショックで、休んだ奴も居ます。普段は、騒いでいた奴等も。その時は、とても落ちこんでいました。俺もたぶん、『年相応に落ちこんでいた』と思うし。あの事件は今でも、俺達の記憶に残っています」
青年は、過去の記憶に眉を寄せた。あの可愛らしいグループを、男子達にも好かれていたグループを。頭の隅にそっと、思いだしたのである。彼は優しげな顔で、記憶の彼女達に微笑んだ。「彼女達が今回の事に関わっているんですか?」
その答えは、「分かりません」だった。霊能者は相手の不安を察してか、相手がそれに取り乱しても、冷静な口調で青年に話しつづけた。「貴方から電話を頂いた時、それらしい気配は感じられましたが。彼女達が今回の事に関わっているかどうかは、わかりません。
友人の中で『亡くなった方は、いらっしゃらないか?』と訊いたのも、その気配が本当かどうかを確かめるためです。電話越しではどうしても、感覚が鈍ってしまいますからね? はっきりしない情報にはどうしても、注釈が欲しくなるんです。その意味で、今の情報が活きてくる」
青年は、その言葉に眉を上げた。「霊の専門家でも分からない問題」と言うべきか? とにかく分からなそうな問題が、「それだけで分かる」とは思えなかったからである。彼は霊能者の力に不安を抱いたが、この人しか頼れる人が居ない以上、その不安を「グッ」と押し殺してしまった。「分かりました。それで、俺は? 何をどうすれば、良いんです?」
霊能者は、霊能者は、その質問に微笑んだ。電話越しでは分からないものの、その気配が確かに感じられたのである。霊能者は青年の気持ちを鎮めて、それから青年に霊視の事を話した。
「都合良い時で構いません。貴方の事も含めて、『その家に届いた』と言う案内を見せて下さい。それにはきっと、解決の鍵が隠されている。私も相応の覚悟を持って、今回の事に挑みますから」
青年は、その話に「ホッ」とした。問題は何も、片付いていないが。それでも「ホッ」とせずにはいられなかったのである。この霊能者に頼めばきっと、良い方向へと進むに違いない。青年はそう信じて、霊能者に除霊の旨を頼んだ。
が、それを破る出来事が一つ。正確には複数だが、彼の周りで起こってしまった。彼の友人が一人、不幸な事件に巻きこまれたのである。友人は青年に案内の事を話していたが、それを話した次の日、飲酒運転の車に轢かれてしまった。
青年は、その情報に震えた。友人の一人が死んだ事はもちろん、それを伝えたもう一人の友人も事故に巻きこまれてしまったからである。友人は通り魔の男に刺されて、そのまま帰らぬ人になってしまった。
青年は、その情報にも震えた。その情報にも震えて、霊能者にも「それ」を話した。自分の同じような人間が、不幸な事件に巻きこまれた事を伝えたのである。彼は両手で自分の顔を覆うと、今度は地面の上に両膝を突いて、目の前の霊能者に「お願いします!」と叫んだ。「こんな偶然は、ありえない。これはきっと、アイツ等のせいだ。高校時代に死んだ、あの」
霊能者は、その声を遮った。彼の気持ちも分かるが、「ここはまず、冷静に」と思ったらしい。彼が自分にすがりついた時も、彼の手をそっと撫でていた。霊能者は彼の体を離して、その目をじっと見はじめた。「『そう』とは、限りません。この案内を視てみない限りは。今回の黒幕が、その子達とは限らない」
青年は、その言葉にうつむいた。確かにそうである。「あの子達が怪しいから」と言って、あの子達が「犯人だ」とは限らない。それらしい空気があるだけで、「彼女達が黒だ」とは言いきれなかった。彼は自分の推理を退けて、彼女達の霊に詫びを入れた。
「ごめんなさい。まだ、『犯人だ』と決まっていないのに。君達の事を疑って」
「そうですね。だから、真実を調べましょう。真実が分かれば、その解決もきっと近くなる筈です」
「はい!」
青年は「ニコッ」と笑って、霊能者の霊視を受けた。「それで、すべての真実が分かる筈」と信じて。
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