第6話 国の決断

 自室へ戻った創時そうじは見たことのない通知の量に驚いた。


「こんなにすぐバズるもんかね……」


 そう言いながら、常に震え続けている携帯を手に取り、アプリを開いた。

 大量のリプライを見て、感嘆の声を上げる。


 その中でも反応は千差万別だ。

 肯定的であったもの、否定的であったものなどあったが、全体的に見れば半信半疑であっただろう。


「でも、これだけバズれば動きはあるはずだ」


 あまりにも多くのリプが来ていることから、その全てに返信を返すことを諦めた。


 後日、配信にてこれについて紹介したいと思います。それまでに何らかしら国の方から発表が出るかもしれませんが、悪しからず。


 上記の内容を全体に向けて投稿した。

 その後、携帯の通知を切り、国への期待を胸に抱きながら、ベッドに身を投げた。

 これだけ話題になれば国も対応を改めてくれるだろう、そんな期待があった。


     *  *  *


 夏休みなのを良いことに、日中はダンジョンへ向かい、どんどんと瘴気を獲得していく。


 無論、親や優華ゆうかはそれを良しとはしないが、その制止は意味をなさない。

 優華たちはダンジョンが発生し、おおむね問題は起きていないものの、どのようなことが起きるのか不安に思っているのに対し、創時は一刻も早く強くならないといけないという、全く異なった考えを持っている。


 創時は配信を行って、民間人の被害を減らしたいと思う一方で、国の発表が起きていない間にそれを行ってしまうと問題があるだろうと考え、行動に起こしていなかった。

 もっとも何の音沙汰もなければ、動くつもりでいる。


 その生活を数日行ったころだろうか、その生活にも変化が起きた。


「お兄ちゃん! テレビ見てよ!」


 昼食時、スマホを見ていた創時に対して、優華は呼びかけ、テレビを指さす。

 そこでは、ダンジョン内部について発表が行われていた。

 防衛大臣だろう、貫禄のある男がマイクに向かって喋っていた。


 創時は内心、ようやく国が動いたかと若干その行動の遅さに呆れていた。

 スマホに注意をやりながら、時折テレビへと視線を向ける。


「この度全国各地で発生している洞窟ですが、その内部にて怪物が存在することが発覚しました」


 その後、重苦しい雰囲気の中、長々と会見が続けられた。

 その会見の内容はだんだんと暗雲が立ち込める。

 最初は楽観視しながら、会見を尻目にしていた創時だったが、会見を注視するようになった。


「おいおい、嘘だろ……」


 思わず言葉を漏らし、箸を落としてしまった。


「つきましては、このような怪物の駆除が済み、洞窟の安全が確保されるまで立ち入りは禁止とします。また、国民の皆様にはこのような洞窟を見つけ次第、通報をよろしくお願いします」


 最悪の発表だった。ほとんど一回目と変化がない。

 怪物が出るという情報が開示されているが、些細な変化に過ぎない。

 これは創時の動画の影響だろう。

 隠しきれないと判断し、情報を出すに至ったと考えた。


「これじゃ、前の二の舞だ……」


 けれども、流れは以前と変わっていない。

 自身の無力さと歴史の強制力を実感しながらもすぐさま行動を起こす。


 創時は慌てて昼食をかきこみ、部屋へと戻った。

 優華は急変した創時の様子に不信感を抱く。


「お兄ちゃんって、何やってんだろ。つい最近まで普通だったのに、なんか変わっちゃったな」


 女の勘というものだろうか、そんな鋭い考察をするも、当の本人はすでに家を飛び出していた。


「行ってくる!」

「ちょ、行ってくるってどこによ!」


 創時の声を聞き、優華は慌てて玄関へと向かうもののすでに扉は閉められていた。


     *  *  *


「一体、国は何考えてるんだよ」


 苛立ちを抱きながら歩を進めて行く。

 すでに交通網は復旧を済ませており、今日は電車を使って移動するつもりだ。

 鎧を使って移動すると、バズった影響ですぐにばれてしまう恐れがあったからだ。


 胸中で国に対する愚痴を言うのを我慢し、生放送の準備を行う。

 準備を行っていると、すぐさまダンジョンへ到着した。

 入り口にて、仮面を被り、スマホを準備する。


 自身のチャンネルを開き、生放送を開始する。


「どうも、皆さん。こんにちは。ダンジョン探索者です」


 開始と同時に視聴人数がどんどんと増えていく。

 仮面の下で動画作戦は成功したとほくそ笑んだ。


”あれは本当なのかよ⁉”

”早く教えろ”

”どうせ嘘松”

”挨拶なんていらないから早くしろ”


 コメントがどんどんと流れていく。話題性は抜群だ。


「皆さんが、私の動画を見て猜疑心さいぎしんを抱くのは仕方がありません。だって実際に確認したわけじゃないですからね。だから、今日はダンジョンへ潜り、あの動画が真実であることを証明します」


 ”ダンジョンって潜っちゃダメだって国の発表で出てなかった?”

 ”さっさと通報して国に任せておけよ”

 ”お前がダンジョン内で遭難すると余計面倒だし”


 ダンジョンに潜ると言った途端、コメントでは非難の嵐となった。


「まあ、私はこんなダンジョンどうとでもできるので。まず私が今いるところがダンジョンであることを証明します」


 そんな批判などどこ吹く風か、何事もなかったかのように創時はダンジョンの撮影を行う。

 周りは明るいのに、洞窟の内部は深淵に包まれている。

 これはまさしくダンジョンだ。


”ダンジョンだな”

”マジモンのやつじゃん”


「皆さんもこれがダンジョンだとわかりましたね。ではダンジョンへ突入していきたいと思います。画面が一瞬白飛びしますけど、機械の故障ではないので心配しないでください」


 そう言い、鎧を発動する。

 鎧によって発せられた光によって、スマホの映像は真っ白に包まれた。


”なんか光った!”

”これエフェクトでできるのか?”

”こんなリアルタイムの編集術見たことない……”


 そして、その光量に対して自動調整を施し、映像が復活した。

 そこには光り輝く創時の姿があった。


”マジで光ってんじゃんwww”

”これは現実じゃできないだろ”

”ってことはこれってガチモンかよ”


 コメント欄は爆発的に加速した。


「お、おう……さ、さあ気を取り直してダンジョン内部へ進んで行きましょう!」


 ここまでの盛り上がりは予想していなかった創時は一瞬驚いた様子を見せるも、何事もなかったかのようにふるまいダンジョンへと進んで行った。

 この時点で話題性抜群なこの配信は視聴人数が一万人を超えていた。

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