第5話 周囲の反応

ダンジョンの内部を撮影したとかいう動画について語るスレ


1 名無し

 おい、あれどうなってんだよ?


2 名無し

 流石にCGじゃないのか?


3 名無し

>>2

 だとしてもダンジョンが発生してからこんな短時間で動画作ることができるか?

 そんな奴いたら映像業界で大金稼ぐことができるだろ。


4 名無し

 だとしたら、あれは本物なのか?


5 名無し

 本物だろ。


6 名無し

 どの動画だよ。


7 名無し

>>6

 どこのサイト見ても多分動画は上がってるはず。

 短いやつだと、1分ぐらいでまとまってるから、すぐ見れる。

 さっさと見て来い。

 端的に説明すると、ゴブリンみたいなやつを仮面被った男が殺しまくってる動画。


8 名無し

 仮にあれが本当だとして、どうして国はまだダンジョンの情報を隠しているんだ?

 さっさと俺らに教えろよ。


9 名無し

>>8

 隠してるっていうか、まだ潜入したばかりで情報の精査ができていないからに決まっているだろ。

 流石にこんな大事なことを隠すわけないし。


10 名無し

>>7

 動画見てきたわ。

 あれヤバいな。

 変な緑色の人間みたいなやつを光ってる男が何かで切り裂いてるじゃん。

 血も噴き出てるし、滅茶苦茶リアル。


11 名無し

>>10

 それな。

 人間も光ってたし、何かしらのからくりがあるはず。


12 名無し

 この動画の投稿主にみんなリプ飛ばしているんだけど、まだ返信がない。

 こんな時にだんまりすんじゃねえよ。


13 名無し

>>12

 落ち着けwww

 動画が出てからそんなに時間たってないだろ。

 投稿者だってこんな反響が出るなんて思っていないかもしれないんだからさ。


14 名無し

>>11

 人が光るって普通に考えたらおかしくね?

 俺はやっぱりCGだと思うわ。


15 名無し

>>14

 それで言ったら、今世界で起きている現象そのものがおかしいんだって。

 大量に洞窟ができるなんてありえないだろ。


16 名無し

>>14

 だとしても人間が光る理由にはなってないだろ。

 洞窟ができたのは異常現象かもしれないけど、人間が光り始めたら、もうそれは別の生物じゃね?


17 名無し

 洞窟ができたのと同時に俺たちも進化した説。


18 名無し

>>17

 それはないwww

 それだったら俺たちも進化するはずやんwww


19 名無し

>>18

 俺たちニートが進化するはずないだろ。

 何にも経験積んでないからなwww


20 名無し

>>19

 自虐でワロタ。


21 名無し

 でも、本当に洞窟の中にゴブリンがいるんだったら色々問題じゃないか?

 どうやって対抗するんだよ。


22 名無し

>>21

 こいつが対応できているんだから、その方法教えてくれるはずだろ。

 「ダンジョン内部で起きていること」とか言うタイトルとしても何か知ってそうな雰囲気あるし。


23 名無し

>>22

 勝手に洞窟の名前をダンジョンって決めてやがる。

 これでただの中二病だったら面白いわ。


24 名無し

 中二病でこの動画作ったんだったら、編集技術最強すぎ。


25 名無し

 俺たちはこの投稿主がどんな情報を出してくれるのを待つしかないな。


26 名無し

>>25

 国忘れんなwww


     *  *  *


 ネットでは半信半疑であった一方、この情報が真実であることに気づいている集団がいた。


「隊長、この情報なんですが……」


 隊長と呼ばれた迷彩柄の服を着込んだ人物は、渡されたスマホの動画を確認する。

 その動画を見ると、はっと息を呑んだ。

 そのままスマホの画面にのめり込み、動画が終わるまで無言で画面に穴が開くかのように凝視し続けた。


「これはうちの隊員が行ったことではないな」

「はい、別の動画もあったのですが、どうやら我々が確認している洞窟ではない場所でとられた模様です。ですので、一般人がこの動画を撮影したのだと思います」


 スマホを返すことなく、そのまま手で持ち続け鋭い目を更に鋭く研ぎ澄まし、思慮に耽る。


「このことは上は知っているのか?」

「はい、おそらく知っていると思います」


「そうか。だが一応、潜入している部隊から情報を仕入れ次第、情報と共に動画のことを上に上げる。この動画が本当に真実であるとするならば、この男は確実にこの現象について何かを知っている。絶対に逃がすわけにはいかない」


 彼らは陸上自衛隊。

 突如として全国各地に発生したダンジョンの一つである、渋谷のダンジョンを探索するために選ばれた一個中隊である。

 ダンジョンの周りは常に戦車の砲身が向けられており、もしもの時に備えて厳重警戒態勢で待っていた。


 二人が会話をしていると、通信が入った。


「隊長! 藤崎二尉率いる第二小隊の多くの者が急に意識不明になり、撤退してきました!」

「被害状況は! 藤崎二尉は無事か⁉」

「意識不明者多数。すでに小隊としての活動は不可能です。藤崎二尉ですが、意識は失っていないものの、胸を押さえて苦しんでおります」

「分かった。第二小隊を下がらせろ。そして、藤崎二尉はこちらに運んでくれ。彼から何が起きたのか訊きたい」


 そう言いながら、隊長はチャンネルを変え、他の部隊に命令した。


「洞窟内にいる全部隊に次ぐ。退却せよ。洞窟内部に毒物などの危険がある。一時退却せよ」


 各部隊から、了解という返事が届いてから数分、若く、背の高い男がその場に現れた。


「藤崎二尉、体調は大丈夫なのか」

「はい、今は問題ありません」

「何があった」


 藤崎はその言葉を皮切りにダンジョン内で起きていたことについて次々と述べた。

 光が届かない暗闇であること、ダンジョン内にはゴブリンがいたこと、ゴブリンと意思疎通は図れず、こちらを襲ってきたため、射殺したこと、そしてそのゴブリンを殺害後黒い靄が近くにいた隊員に吸い込まれたことなど多岐にわたった。


「その霧を吸い込んだ者たちが意識を失っていると」

「はい、そういうことになります。小官はそこまで多くの霧を吸い込んでいなかったので、倒れずに済んだのだと愚考します」


「分かった。緑色の人型の死体は回収したか」

「はい。殺害したものは全て回収しております。捕縛を行おうと試みたのですが、抵抗が激しく不可能でしたので、小銃を用いて殺害を行いました」

「そうか。それでその相対した相手はこのようなものだったか?」


 そう言いながら、隊長は動画を見せる。

 藤崎はその動画を食い入るように見て、肯定する。


「どうしてこのような動画が上がっているのですか?」

「それはこちらもまだ情報が不足している。だが、上が許可すれば今後この人物から聞き取りを行う予定だ。その際はついて来い」

「承知しました。それで次の命令は」


 仕事熱心でぎらついている目線をやってくる藤崎を見て、ため息を一つ。


「さきほどまで戦闘不能に近かったのに何か行動を起こそうとするな。内部調査は打ち切りだ。この洞窟を包囲して、上の指示を待つ」

「承知しました」


 創時が上げた動画は本人の思惑通り、国を巻き込んだ大事へ発展していた。

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