第4話 ダンジョン撮影
ダンジョンが大量に発生したことで、多くの人々は混乱し、交通網は全て麻痺していた。
そんな情報をスマホから手に入れた
「ひとっ走りするしかないか……前みたいに混乱しているとは言え、誰かのバイクとか奪うわけにはいかないし」
闘気によって強化した身体能力をもってすれば、電車を用いて二時間かかった道のりも同等の時間でたどり着くことができる。
創時は地面を蹴り、一気に加速した。人類最速ともいえる速度で駆け抜ける。
本人の体感として流しながら走っているようなものだが、闘気による強化がそれを可能にしていた。
途中で人に目撃されることはあったが、創時は一切それにかまうことなく、走り続けた。
目論見通り、二時間程度でダンジョンへとたどり着いた。
リュックを下ろし、その中に入っていた撮影道具を取り出し、仮面を被った。
「暗視カメラを買うことはできなかったけど、鎧の光で十分撮影できるよな」
ここにきて一抹の不安を抱くものの、もう引き返すことなど到底できない。
動画の撮影の準備を行い、ダンジョンへと足を踏み入れた。
動画にした理由は単純明快、登録者0人の配信者の生放送に誰が来るのかという点だ。
動画にすれば、多くの人の目に留まるだろう、そんな打算だ。
鎧をまとっていることで並の攻撃では傷を負うことはないものの、警戒は怠らない。
鎧によって発せられている光で照明を確保しながら、左手にスマホを持つ。
そのスマホの下側には常に三脚がついており、戦闘になればすぐに置いて撮影ができるようになっている。
ダンジョン内に入ってから、五分が経過したころだろうか。
ついにゴブリンがその姿を現した。
鎧によって発生している光によって、創時のことは丸わかりだ。
警戒を行い、じりじりと距離を詰めてくるゴブリンから目を離すことはない。
三脚を広げ、スマホを地面に設置する。
自身とゴブリンの両者が映っているだろうことを確認してからゴブリンの前に立ちはだかった。
全く攻撃を仕掛けることのない創時の様子を見て、ゴブリンは一気に距離を詰めた。
振り下ろされる拳を創時はバックステップで回避する。
一歩分届かなかった拳は宙を切った。
拳を戻してすぐに体勢を整えることを考えていなかったゴブリンは思わずたたらを踏んでしまう。
そんな恰好な隙を見逃すわけにはいかない。
創時は自ら開けた空間に飛び込み、無防備な顔面に対して右拳を叩き込んだ。
鎧によって強化された人外の膂力はゴブリンの命を一瞬で摘み取った。
首が飛ぶことはなかったが、骨の折れる音がし、ゴブリンは血を吐きながらその場に崩れ落ちた。
「うーん、これじゃダメだな」
あまりにも一瞬で終わってしまった。
戦闘自体がすぐ終わることは応援が来ないという点で喜ばしいことではあるが、動画を取りたかった今においては不適当だった。
魔石を取り出しながら、どのような撮影プランにするのか考える。
「もう少し、アクロバティックな戦闘をするのがいいのか? というか、魔物たちがフォーカスされればいいんだけどなぁ」
魔石を取り出した後、血の匂いを漂わせながら更にダンジョンの奥へと進んで行く。
その匂いにつられてか、一気に三匹のゴブリンと遭遇した。
「これなら十分良い画が撮れそうだな」
どこか監督のような口調を醸し出しながら、再びカメラをセッティングする。
今回はそんな隙を見逃すほど甘くなかった。
カメラを片手で支えながら、もう一方の手で肉薄してきた一体のゴブリンに対して、闘気を放つ。
体外へと放出された闘気は球状となって、そのゴブリンの
『闘気弾』、鎧同様闘気を扱う上での基本技だ。
その威力はすさまじく、一撃でゴブリンを仕留めるほどだ。
残る二体のゴブリンは一瞬で肉塊と化した味方を見て、警戒心を強めた。
そして、二体で連携するかのように同時に距離を詰めてきた。
創時はその場から動かない。
自身の掌に闘気を集中させ、その闘気を剣状に変形させた。
その闘気出てきた剣――『闘気剣』を両手で握りしめ、真一文字に薙いだ。
「ぐげ?」
ゴブリンの間抜けな声だけが残される。
その声を発すると同時に二体のゴブリンの胴体が分かれた。
地面に落ちると同時に瘴気が発生する。
「ふう」
タイムリープしてから初めての複数体相手に流石の創時も疲労の色が見えていた。
「あと一戦ぐらいだな」
そう呟きながら、スマホを回収しようすると、背後から殺気を感じた。
慌てて振り返り、戦闘態勢を取る。
飛び出してきたのは再びゴブリンだった。
一匹のゴブリン相手に苦戦することはない。
ただなるべく華やかに戦いを見せるため、創時はアクロバティックな動きを交えながら、その一匹を倒した。
「よし! これぐらいでいいだろ!」
ゴブリンを倒し、これまでの戦闘で十分な素材を手に入れていると思った創時はダンジョンから出て、帰宅する。
多くの瘴気を取り込んだからか、身体能力は行きよりも高いものになっており、帰りの時間は行きよりも短縮された。
「あ、ようやくお兄ちゃん帰ってきた! 遅い!」
「いや、ごめんごめん。ちょっと野暮用でさ」
「心配したじゃん!」
家に帰ると、扉の音を聞きつけた
「そういえば、母さんたちは?」
「まだ帰れないみたい。職場で待機だって」
「そうか。でも、もうそろそろ帰って来るはず。一日中ずっと職場から帰れないなんておかしいし」
空もだんだんと赤く染まってきた。
国からそろそろ何らかしらの報告が出る頃だろう。
そう考えながら、創時は自室へと向かう。
「リビング来ないの?」
「ちょっとやらないといけないことがあるから。まあ、すぐ終わるよ」
そう言いながら、階段を上がっていった。
自室に入るや否や、スマホに入っている動画を編集し始める。
適当なカット編集を行い、戦闘部分のみを切り抜いた。
CGなどを疑われないように余計なエフェクトは入れない。
だが、闘気だけでその映像は十分華やかなものだった。
そして、その動画を投稿するアカウントを作成する。
「えーと、名前は……めんどくさいし、ダンジョン探索者でいっか」
数秒悩み、安直なものに落ち着いた。
そして戦闘をまとめた一分程度の動画を投稿する。
その投稿には、「現在噂のダンジョン! その暗闇の中とは!?」という煽り文を入れる。
「よし、これで完璧だろ。このまま視聴者を増やしていって、ダンジョンを皆で攻略していかないとな」
投稿を終えた創時は満足そうにうなずき、スマホをベッドに放り投げ、リビングへと降りて行った。
そのため、投稿が行われた後、スマホが振動し続けることに気づくことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます