第3話 ダンジョン大量発生
体の変化が落ち着くと、
その石は未来で魔石と呼ばれていた。
高密度のエネルギーを秘めており、未来では、ダンジョンの被害を受け、復興する際にエネルギー源として重要な役割を担ったものだ。
魔石を取り出した後のゴブリンの死体には用はない。
ナイフが突き刺さったままの死体を放置して
死体はダンジョンによって吸収されるため、腐敗の心配がないのだ。
傷を負っていないが、命のやり取りをしたというだけで疲労が重い。
だが、まだ気を抜くわけにはいかない。
ダンジョンから出るまでは常に命の危険に晒されている。
警戒を行いながらも、無事魔物に出会うことなくダンジョンの外に出ることができた。
そして、近くの小川で血を落とし、血まみれな私服をビニール袋の中に入れ、制服に着替え直した。
「ふぅ」
創時は大きく息を吐いた。
ゴブリンなど過去であれば、一撃で
だが、まだただの一般人で、進化をしていなかった創時には十分荷が重い敵であることは間違いなかった。
しかし、ゴブリンを無事倒すことができ、自身の進化を実感することができた。
これで目論見は十分達成された。
一週目では、国によって発見されたダンジョンはすぐに封鎖されてしまい、一般人が入ることができなくなった。
今回もそのような流れになるのか不明だが、その前に進化を済ませておきたいという意図があったのだ。
創時はうまくいったことに喜びの色を見せながらも、疲労が隠せない足取りで帰路へとついた。
* * *
家に着くと、すぐさま自室に戻った。
進化しただけでは、まだ魔物に対抗することはできない。
その能力を開花させる必要がある。
「さあ、始めよう」
ベッドに腰掛け、目をつぶり、自身の内側に集中する。
内側にある、違和感を発見すると、その違和感を体外へと放出するイメージを作る。
すると、次の瞬間、創時の全身から白い光が吹き上がった。
その勢いで机の上に無造作に置かれていた荷物が床へと飛び散った。
創時はそんな自室の散らかり具合に目をくれることなく、ひたすらその白い光に集中した。
時間が経つとその光は体外へと零れていかず、創時の身体の周りにとどまるようになった。
「よし! とりあえず、鎧はできるな」
創時は思わず大声を上げた。
この白い光は『闘気』と呼ばれており、人類が魔物に対抗する唯一の手段である。
闘気は体内に取り込まれた瘴気に対抗するために生まれたもので、自身の生命エネルギーそのものだ。
より多くの瘴気を取り込むことで、闘気の量は増えていく。
そして、今創時が行ったのは闘気を使う上で基本となる技、『鎧』だ。
闘気を身にまとうことで、己の肉体を保護し、その
この技を使うことで、闘気を体外へ放出させるのではなく、維持できるようになるため、長時間の戦闘が可能になるのだ。
これができない者が
ゴブリンのような弱い魔物ならともかく、大勢で押しかけてくる魔物の大群に勝るにはこのような闘気を用いた技を身に着ける必要がある。
ある程度の強さになってくると、銃火器が効かず、闘気を用いた攻撃のみが通じるからだ。
創時はその後もひたすら闘気を扱い続けた。
扱い方は未来と変わらないため、そこまで苦労することはなかった。
しかし、闘気の絶対量が少なく、疲労感を拭うことはできない。
扱いに慣れているとはいえ、多少のロスが生じる。
そのロスによって、どんどんと闘気が消耗していくのだ。
闘気を扱い続けて、一時間が経っただろうか。
創時は全身のいたるところから汗を拭きだし、肩で呼吸をしながらベッドに倒れ込んだ。
「よし、これなら……」
ダンジョンが発生する前までに必要最低限の闘気技を覚えることができる。
そう確信しながら、疲労感に任せてその意識を手放した。
* * *
創時が闘気を扱い始めて一週間が経った。
その間、創時はダンジョンに潜ることなく、ひたすら闘気技を磨き続けた。
いくら知識があるからとはいえ、未来とは実力は雲泥の差である。
少しの油断や力量差が命を脅かすとなると、慎重にならざるを得なかった。
夏休みで訓練以外これと言ってやることのない、創時と
二人ともスマホを見ているが、創時はただそのふりをして、体内の闘気の扱いに集中していた。
「お兄ちゃん、なにこれ……日本どうなってんの……」
その集中は、優華の呆気にとられたような言葉によって途切れた。
優香の視線はテレビに釘付けになっている。
テレビでは、渋谷のスクランブル交差点に突如として発生した洞窟が放送されていた。
スクランブル交差点の大部分を占めるような大きなダンジョン。
そこはすでに異様な雰囲気になっており、通行人たちは各々自身のスマホでその光景をとらえていた。
だが、その中に誰も入ろうとはしない。
光が洞窟に差し込んでいるはずなのに、その中は何も見ることができない。
そんな不可思議なところに突っ込もうとする命知らずはいなかった。
状況を知らない車からクラクションが鳴り響く。
そうなっても誰も近づこうとはしない。
根源的な命の危険を感じているからだろう。
「ついに来たか……」
創時は小さくそう呟いた。
ダンジョン大量発生の皮きりだ。
その後二人はひたすらテレビを見続けていた。
渋谷のダンジョンの光景はすぐに打ち切られてしまった。
スタジオに映像が戻り、状況を伝えていた。
状況を伝えながら、慌ただしくカンペを読み上げる。
次々とダンジョンに係る情報が集まってきた。
東京だけでない、日本各地、いや、世界各地からダンジョンが発生したという情報が流れてくる。
テレビだけでなく、SNSでも大騒ぎだ。
すぐに各国が自衛隊や軍などを準備し、その調査へと向かった。
ここまでは未来と同じ筋書きをたどっている。
そして、ここから一か月が正念場だ。
一か月後の九月一日、日本を恐怖に陥れた
「かかって来いよ、ダンジョン。今回の俺たちはしぶといぞ」
テレビの前に移り続けている、ダンジョンに啖呵を切った。
創時はある準備を行い、家を出ていこうとする。
すると、優華が今にも家を出ようとしていた創時に対して、声をかけた。
「お兄ちゃん、どこ行くつもりなの? 今外行くと危なくない?」
「まあ、ちょっとな。ここからだとダンジョンも遠いし、問題ないでしょ。夕飯までには戻ってくる」
何か言いたげな優香を残して、家を出た。
創時一人では惨劇を防ぐことはできない。
ならばどうするのが良いか。
決まっている、世界中の人々に協力してもらえばよいのだ。
世界が地球にいる全員に対してダンジョンの危険を伝えなかったのが、未来での過ちだ。
その危険を伝え、適切な対処方法を教えることで、災害を防ぐことができる。
国の防衛機構だけでは防ぐことができない災害。
だが、全員が協力することで防ぐことができる。
世界中のみんなに知らせるためには何が最適か。
この一週間、創時はひたすら考え、一つの結論に達した。
「さあ、ダンジョン放送の時間だ!」
ダンジョンの内部を撮影して、それを知ってもらうことが最適だと。
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