第7話 初ダンジョン配信その1

 予想はしていたものの、一万人という途方もない数値を見て緊張しながら、創時そうじはダンジョンの奥へと進んで行った。


”ただの洞窟みたいだな”

”岩しかないし、どこに怪物なんて出てくるんだ?”

”こんな入り口に怪物なんていたらダンジョンの外に出てくるだろw”


「そうですね、ダンジョンの入り口付近では魔物――ああ、怪物のことですね、は出てこないので安心してください。もっともダンジョン内に魔物が溢れかえっている場合はそうじゃないんですけどね」


 左手で撮影を行いながら、画面に映るコメントと会話をしていく。

 鎧の光で光量は十分確保できているため、映像にはなにも問題はない。


”こんなところよく入ろうと思ったな”

”危険じゃないんですか?”


「まあ、ダンジョン探索はいつもやっていることなので。危険か危険じゃないかといえば危険ですけど、魔物を倒す度、強くなれるので十分メリットはありますよ」


”なんで強くなるんだよwww”

”強くなりたいって戦闘民族かwww”

”いつもやっているってどういうことだ?”


「まあ、強くなる理由なんて、おっとようやく魔物が現れましたね」


 だらだらと会話を続けている中で魔物の影が創時の視界に映った。

 核心的なコメントに触れなくてもよい口実ができて、創時は内心安堵していた。


「スマホは設置しますけど、傾いていたらごめんなさいね!」


 三脚を立て、地面に設置する。

 現れたのは、毎度おなじみ、緑色の小鬼ことゴブリンだ。


”ガチでバケモン出てきてんじゃん”

”でも、こいつ前の動画にも出てきていたやつだろ? 使いまわしじゃねえの?”

”リアルタイムで俺らと会話しながら放送してるから編集は無理だっつうの!”


 これまで以上にコメントが素早く流れるが、スマホの画面から目を離している創時には確認することができない。


「この魔物は動画にもよく出てきていましたよね。こいつの名前はゴブリンです。こいつ単体ですと強くなく、だれでも倒せる程度です。ただ、群れると危険度は跳ね上がるので注意してください」


”まあ、あるあるのゴブリン設定だな”

”俺らでも倒せるってことか?”

”こいつの身体能力が高いから、もしかしたらこいつ基準の話をしているのかもしれない”

”視聴者がろくに説明を信じてなくてワロタwww”


 創時は説明を終えると、一瞬で距離を詰めた。

 鎧によって強化された身体能力の前では、カメラはしっかりとその姿を捉えることができなかった。


 指先に闘気を集中させ、ゴブリンの胸部に貫手を繰り出した。

 悲鳴を上げさせる暇もなく、ゴブリンの胸から魔石を取り出した。

 その神速の殺人術は断末魔を視聴者に聞かせることなく、目的を達した。


「これで私がダンジョンを攻略しても危険じゃないってわかりましたか」


 瘴気が体内へと取り込まれていく中、カメラの方を向く。


”早すぎwww”

”残像だったんだけど”

”これだけ強かったらそりゃ大丈夫に決まってるわ”

”なんか黒い霧出てない?”


「ああ、この霧は瘴気といいます。これを吸収すると、身体能力とか大幅に上がるんですよ。私もこれを取り込み始める前は一般人でしたけど、今ではここまで動けますもん」


”経験値みたいだな”

”体に悪そう”


「初めて体に瘴気を入れる際は、かなり体に負担があります。取り込む瘴気の量が多い場合は意識を失ってしまう恐れがあるので、気を付けてくださいね」


”毒じゃねえかwww”

”俺達でもここまでできる可能性があるのか……”


 創時は手に持つ魔石をカメラに映した。

 暗い紫色をしている、小石は鎧の光とゴブリンの血で怪しく光って見える。


「これが魔石です。エネルギー源になるらしいんですけど、よくわかりません。どんな魔物でも持ってる核ですよ。これさえ壊してしまえば、魔物は死ぬので覚えておいてくださいね」


”グロ注意”

”そんなもん見せんな”


「ああ、ごめんなさいね。それでは気を取り直してダンジョンを攻略していきましょうか」


 創時は魔石の血を拭い、ポケットに入れた。

 そして、スマホを回収し、再びダンジョンの奥へと進んで行く。

 度々現れるゴブリンを屠るものの、視聴者はその姿に驚くことはない。

 最初はただ直線しかなかった道も、だんだんと分岐していく。


「そろそろダンジョンも本格的になってくると思います。まず初心者の人に行っておくこととしては、このような分岐が見られたら引き返すことを視野に入れてくださいね。これまでのように単調な戦いじゃ無くなる可能性があるので」


”ダンジョンに誰もいかない定期”

”俺たち民間人は誰も潜らねえんだよwww”


 創時の言葉のとおり、立ちはだかる魔物の種類も変わってきた。

 成人男性ほどの背丈の骸骨が創時の進行方向に現れた。


「さあ、ようやくゴブリン以外の魔物を相手にしますよ。あいつはスケルトン。骨なので耐久力はありませんが、ゴブリンに比べてリーチが長いので注意してくださいね。武器は持っていませんが、直撃するとかなりの怪我を負いかねないので覚えておいてくださいね」


 攻略のアドバイスを残し、創時はスケルトンへ距離を詰める。

 ゴブリンとは異なり、その動きを察知していたスケルトンは、横薙ぎに放たれる闘気剣の攻撃を距離を取ることで回避する。

 剣を振るい、無防備になっている創時に対して、骨の拳による反撃を繰り出そうとする。


 創時は闘気剣を持っていない左手に闘気を集中させ、自身へ振るわれる拳の進行方向に置く。

 拳同士がぶつかった瞬間、爆発が起きた。

 砂埃が舞う中、創時はさらに一歩踏み込み、闘気剣で魔石を寸分違いなく、突き抜く。


 次の瞬間、スケルトンは体を構成していた骨が砕け散り、灰となった。


「ほら、ゴブリンとは違ったでしょう?」


”えぐすぎwww”

”これみるとゴブリンは一発だったし、楽勝なのかもしれん”

”煙幕焚いてから何が起きたんだよ”

”確かに敵のレベルが上がっているのかもしれん”

”どっちも強そうでなんも違いが分からん”


 地面に設置されていたスマホからの映像を見たコメント欄は更に沸き立った。


「一撃で倒すつもりだったんですけどね、まだまだです。もっと強くならないと」


”何がお前をそんなに駆り立てるんだよwww”

”すでに人類最強じゃねえの?”

”流石に銃には負けるから最強じゃねえ”

”銃を持ち出すのは違うやろ”


「え、銃ですか? フルオートじゃなければたぶん大丈夫だと思いますよ。闘気、ああこの白い光ですね、が削れるので長時間は耐えられないですけど」


”それだけでも十分おかしいんやwww”

”人外確定やwww”


「まだ人間だと思うんですけどね……」


 コメントと会話をしながら、創時はダンジョンの内部へと進んで行く。

 誰もが死ぬ気になっていた一周目のダンジョン攻略とは全く違う明るい攻略に笑いがこみあげてくる。


”急に笑い出した”

”このバトルジャンキーどうにかして”


 もっとも事情を知らない視聴者は恐怖に打ち震えているのだが。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る