冬至の祭り
幸運と豊穣を願いながら木を燃やしつづける。三つの根が幹を支える大木は神木と崇められ、
何百年の前には火を焚いて、乙女を生贄として捧げていたらしいが、アストリッドは信じていない。この国には
そのせいか、
本土から来た使者はアストリッドたちが無事に送り届けた。野盗の襲撃があったのもあの宿だけで、彼らが道中危険に晒されるようなこともなかった。
護衛のおじいさんは話し相手がほしかったのか、レムを馬車に乗せた。
たのしそうな話し声がきこえるなかで、アストリッドとロキはただ黙って
なにかあったのだろうか。ロキは使者たちをちゃんと守ったというけれど、野盗なんてはじめてだ。こわかったのかもしれない。
しかし、その後は彼を気にするまもなく
養父のイヴァンはいつもよりたくさん食べたし、たくさん喋った。アストリッドもたのしい二日間を過ごせた。たぶん、イヴァンはアストリッドを励ましてくれたのだ。
それから、三日目にはふたりで
イヴァンは
アストリッドは演習場へと呼ばれた。今日も先客がいた。金髪のお嬢さまだ。アストリッドに負けたあの日以来、彼女の髪は短い。ざんばらでみすぼらしい金髪は、きっと自分の手で
ほどなくして、長身の女性が来た。アストリッドたちとおなじ
「私は隊長です。いまから
アストリッドは背筋をぴしっと伸ばした。すこしでも怠惰な姿勢を見せればすぐ叱責されそうだ。
「まずは着替えを。これはワルキューレの隊服です」
手渡された隊服を見て、アストリッドは目をしばたいた。まさかここで着替えろというのだろうか。演習場には普段少女たちしか出入りしないとはいえ、回廊からは丸見えだ。他人の前で下着姿になるなんて。動揺するアストリッドをよそに、金髪のお嬢さまは服を脱ぎはじめた。慌ててアストリッドも彼女を追った。
「よく似合っています。これで、あなたたちは誰の目から見てもワルキューレです」
銀色のシルクのケープには優美な花の刺繍が施されている。針を入れたのは
「では、あなたたちふたりに命じるのは、
「はい!」
元気の良い返事をきいて、隊長はすこし微笑んだ。
「よろしい。なにか指示があればすぐに伝えます。困ったことがあればすぐに言いなさい。私が近くにいなければ、他の先輩たちに伝えること、いいですね?」
「はい!」
「良い返事です。もちろん休みは交代で取らせます。家に帰ることはできませんが、
「はい! ありがとうございます!」
余計なお喋りなど一切なし、隊長はそれだけ告げると行ってしまった。しばらく隊長の背中を見つめていたアストリッドは、自分の相方へと視線を戻す。目が合った。
「あ、あの、えっと……」
「あなた、自分の対戦相手の名前も知らなかったわけ?」
図星だった。アストリッドは固まった。
「ヘルガよ」
「えっ……?」
金髪のお嬢さまはとびきりの美人だけど目力があり、言葉もちょっときつい。小柄なアストリッドに比べてすらっとしているし、女性らしい膨らみも見える。おそらくアストリッドよりふたつくらいは年上だ。
「それから私、べつにお嬢さまなんかじゃないから」
アストリッドの心を読んだみたいに、ヘルガは言った。これから数日間ずっと一緒だ。うまくやれるだろうか。アストリッドはちょっと不安になった。
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