第5話 ミステリアスな男

ゼネストポリスは未だ春————————

桜は散りかけていますが、まだ春なのです。

今日は1人お客さんの依頼が入っているので、早めに起きて着替えをすませる。

もさもさキューブを食べ、外へ——————

今日もいい天気だ。こう快晴だと気持ちも晴れやかになる。

「やあ!カイン!」

「こんにちは」

通りがかりの人と挨拶をする。

今日のお客さんは果たしてどんな方なんでしょうか。カイン自身も分かりません。

なので街の入り口でいつも待つのです。いつも通り汗をかきながら到着しました。

しばらく待っていると、身長も髪も長い、一人の男が現れました。

「ようこそ!ゼネストポリスへ!」

男はしばらくカインの風貌をジロジロと眺めていたが、やがてボソッと言った。

「お前が案内人か?」

「え?ええそうですが」

「…そうか。じゃあこの街の名所案内を頼む」

「名所案内…ですか。分かりました付いてきてください!」

意外な注文に驚いたカインだったが、お安い御用な依頼だ。カインは事務所の方へパタパタと向かっていった。男もそれに習って付いて来る。

「ここが名物ゼネス川です!飲めるほど綺麗な川が流れてるんですよ!と言っても事務所の隣にある川なんですけどね」

しばらく男は川を眺めていたが、

「本当に飲めるのか…?」

と言ってきた。カインはヒシャクを取り出して、

「もちろん飲めますとも!これですくって飲んでみてください」

雪解け水なので冷たさもバッチリだ!男はすくって飲むと、

「…まぁまぁだな。次行ってくれ」

あまりご期待に応えられてない様子。カインもヒシャクで水を飲んでから、

「次は小高い丘をのぼりますよ~」

と言ってぴょんぴょん跳ねて進んだ。男も黙って付いて来る。


——————


「はぁはぁ…着きましたここですよ~」

「どんだけ登らせやがる」

「まぁまぁ…ここはゼネストポリスの街を一望できるスポットなんですよ。どうです綺麗でしょう?」

男は丘の端に立ち、街を端から端まで無言で眺めた。

「…ここも、まぁまぁだ。もっと他には無いのか?」

「はぁ…じゃあまた戻りましょうね」

「下ってくのかよ、くそっ」


——————


「んはぁっ…!ここが一番のスポットですよ」

「ここは…」

ここは街の中心街。人々が忙しそうに賑わう街の大動脈です。

そこへ少年たちがこちらへやってきた。

「ゼネス兄ちゃんじゃないか!久しぶり~」

「ゼネス兄ちゃんか~」

ゼネスと呼ばれた男はバッグを捨て、大号泣していた。


後から聞いた話だと、ゼネス青年は3年前、この街から家出したそうで、反省して戻って来たとの事でした。

カインがこの街を引き継いだのは1年前なので、どうりで顔がわからなかったはずです。ピッピ特製の桜餅を振舞うと、ゼネス青年はこの街にもどる決心をしたそうです。カインの観光案内も伊達じゃありませんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る