第3話 伝説の鍋
ゼネストポリスはまだ冬——————
カインのいる木のすぐそばには川が流れていて、雪解けを心待ちにしていた。
相変わらず一人では入口のドアが開かない。
「おーいピッピ君」
「はーい」
2人がかりで何とかドアを押してドアは開き、カインは入り口から苦しそうに抜け出した。かかった雪を振り払う。帽子を被り直したカインは街の入り口まで小走りで駆けていった。お仕事がある証拠だ。
街の入り口で30分程待っていたが、お客様が来なかった。カインは双眼鏡を取り出し遠くを覗いてみる。と、4人程の小さい塊が見えて来たではないか。
これはどういうことだろう。親はいないのだろうか。
小さい4人は雪なんてもろともせず、歌いながらこちらへやってきた。だが奥深く足を取られるため歩行は遅めだった。正直苦手な客だった。親が監視していない子はやっかいだが、辛抱強く相手の到着を待つ。
「わー背が同じだー!」
「どんぐりみたいね!」
お客はおてんばぶりがハンパない。
「ようこそゼネストポリスへ。僕たちは何しにここへやってきたのかな?」
「雪踏鍋を食べにきたのー!!」
紅一点の女の子が元気に言う。
「雪踏鍋?」
「うん!ゼネストポリスでしか食べられない伝説の鍋を食べたいの!」
「うーん、聞いたことがないな…これは調べる時間が必要だ。僕の事務所で待っていてくれたまい」
それからカインは事務所の資料室で資料をあさり始めた。手書きの文字で書かれた資料の山だ。冒険案内者の中で代々受け継がれているこの山をカインは徹底的に調べる事にした。
「皆さんミルクティーを…うわわ」
ピッピがお茶を入れてくれたようだが、お客は事務所を走り回って仕方が無かった。
「結構広いんだねーここ」
「これなら春までいてもいいや~」
春までいられたらたまらない。カインは必死に資料を漁った。と、『鍋』というジャンルのファイルを見つける。ここにあるに違いない。カインは集中して鍋のファイルを見ていった。
あった。雪踏鍋。レシピが書かれているので見てみると、ありきたりの材料の中に『雪踏キノコ』というものがあった。味美味しく、汁をまろやかにするらしかった。
鍋を作るにはこのキノコを手に入れるかどうかにかかっている。
「ピッピ、4人をよろしく頼むよ」
「どっか行くの!?」
「材料取りに行くの?」
「僕も行く~!!」
4人が騒ぎ出した。こうなるともう仕方が無い。
「わかった、わかったから!おとなしくしてるんだよ」
事務所の入り口のドアを子供4人にも手伝ってもらって開け、なんとか外に出る。
もうすでに夕方だ。まずい予感がしたが子供4人を連れてキノコ探しに出かけた。
しかし探すとしても辺り一面雪に囲まれていて、資料によると白いキノコなので捜索は困難を極めるだろう。それでもキノコが生えていそうな場所を探して回る。雪に足を持っていかれる。子供はあちこちにばらけて遊んでいた。
「こら、僕の元を離れるんじゃない」
そうしているうちに夜になった。もう今日はこれ以上捜索は無理だ。そう思って子供に振り返った時、子供が1人消えている事に気付いた。しまった!
「アインがいないよ~うえ~ん!!」
うっかりしてしまった。全員紐でくくっておけばよかった。僕らは近場でアインを探した。
「アイーン!!」
「いるかーアイン!!」
しばらく吠えていると、心弱い声がどこかから聞こえて来た。
「案内人さ~ん……」
声の元をたどってみると、崖の枝に引っかかっている危険な状態でアインが見つかった。カインは常に携帯している紐を取り出し
「アイン!今から紐を投げるから、自分の腰にくくり付けるんだ!」
「キノコが生えてる…」
「え?」
「白いキノコ」
「…そうか、それじゃそれも引っこ抜いておくんだ」
皆でアインを引っ張って、無事救出した。一安心だ。
「このキノコは…」
「雪踏キノコなの?」
「分からない。事務所に行ってピッピに鑑定してもらおう」
—————————
「はーい、雪踏鍋ですよ~!」
ピッピ特製の雪踏鍋が顔を見せた。歓声が上がる。キノコはピッピの鑑定により雪踏キノコと判明したのだった。
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