2-7 霊感探偵って、なんですか?
走ってきたのか前髪は少し乱れているが、ショートレイヤーの髪型と長いまつ毛、そして通常であれば目立たないはずの細身の体がまとっている不思議な雰囲気は、先日見た彼に間違いない。
彼がこの事務所に現れる事象自体は、経緯からして当然のことだ。にも関わらず、目の前で起こった現実に
ようやく、会えたのだ。
「
「
感動で停止していた
「あ……」やっと我に返り、慌てて立ち上がる。「そんな、謝るのは私の方です! 連絡もなしに来ちゃったし、
「え?」
相手はこちらの困惑を見抜いたように説明する。「霊視のことと、宝箱のこと、説明するって約束したよね」
「……はい」子供は声をしぼり出すと、再びイスに腰を下ろした。
大人が自分を気に掛けてくれていた事実を知ったことで、安心できた。
自分が勝手に抱いていた不安は、特段おかしなことではなかったのだ。
「そーゆーこと」後ろから
振り返ると、イスの背もたれに置いた腕に顎を乗せた体勢の
彼はやはり笑顔で述べた。「呼び出して正解だったよ!」
すると、
「いや、だいぶ急だったけどね」と
「えー、良かったじゃないですかー」すかさず
探偵はあきれた表情をしている。落ち着いた顔しか見たことなかったが、こんな顔で、このようなやり取りをするのか。まったく想像できない景色ではないのに、いざ目の当たりにすると言い得ぬ感慨深さがあった。
「じゃあ、本題に入ろうか」
「お茶持ってきますねー。冷たいので良いですか?」
「うん、ありがとう。冷たいので」
「お菓子もありますよー」
「いただくよ。今日はまだ何も食べてなくて」
「じゃあ、この後はお昼ですねー。
「えと、すいません、家で食べる予定なので」
「あら、そうなんだ。お菓子はまだ食べられる? まだまだあるよー」
「はい、いただきます。ありがとうございます」
「
「え、そうなんすか!?」
「そうなんですか?」
「そうだよ。本人の同意の有無に関わらず、客観的に『だまして連れ去った』と思われたら、誘拐になっちゃうんだ。脅したりしてついて行かせた場合は、略取ね。
「はい」
法律的に危ない場面であったのは驚きだが、
「気をつけまーす」
冷たい飲み物は別の部屋にあるのだろうか?
「ふう、だいぶ脱線したね」
「はい、よろしくお願いします」
相手は微笑むと、イスの肘掛けに腕を置いて指を組んだ。「さて、何から話そうか」
いよいよだ。
「えと……霊感探偵って、なんですか?」
「名刺に書いていた肩書きのことだね。宝箱を開けてもらった時にも、言ったっけ」霊感探偵は「ふふ」と挟んでから続けた。「変な名前だよね。普段の仕事は普通の探偵と同じ身辺調査とかなんだけど、霊視をすることもあるから、
「所長の
「うん。もしかして、会った?」
「いいえ。さっき、
「そうなんだ。パワフルで、強引な人だよ。
でね、霊視っていうのは、亡くなった人の遺品から、その人の記憶や感情を読み取ること。僕は、そういうことができるんだ」
「あの時も、霊視をしたんですよね」
「公園で、宝箱を開けてもらった時のことかな」
「その通り」
詳しい説明を求めて良いものか一瞬迷ったが、約束を守ってもらうことにした。
「ってことは、あの宝箱は、
そこで、
「どうして、そう思ったのかな。僕は、宝箱の正体は話していないよね」
口調こそ優しいままだが、笑顔から柔らかさが抜け落ちたような、感情の読み取れない表情になった。初対面の時を思い出す。
「私と
これに、
どうにか言い切った。
すると、
「おぉ~」
何となくむずがゆい気分になる。「
「え、そう?」
「駄目です」
「
「は~い」
話の腰を折られてしまった。気を取り直して
視線を受け止めた探偵の顔は、いつの間にか真剣な面持ちをなしていた。
沈黙。
それが何を意味しているのか検討もつかない間が2秒ほど続いてから、
薄い唇が開かれる。
「宝箱の正体は、
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