2-8 君のおかげだ
宝箱を開けた本人であることは彼女自身の発言から知ったが、レナと言い合いをしたり、幸せそうにお菓子を頬張る様は「天才」という単語と今ひとつ結び付かなかった。真面目ではあるのだろうが、年相応に無邪気で元気な印象がやや勝る。
しかし、
何故か自分が話し掛けると「その言い方、なんか駄目です」などと「知的」とはかけ離れた言葉づかいになってしまうものの、この中学生がキレ者であることはよくよくわかった。
――面白い子だ。
現時点の評価を胸に、
「ありがとうございます」
――良い子だ。
今までそうしてきたように、湧いてくるまま言葉を口に出す。「どういたしましてー」
と、
「宝箱を開けるのは、霊感を使った調査の一環だったんですね」
彼の前にカエルまんじゅうと大福を、どちらも小分けの袋のまま置く。探偵は片手と会釈で意思表示した。
「宝箱の中身も、USBなんかじゃなかったんですね」
「あ……」不意の指摘に、
自分より先輩で年上の男が深々と頭を下げる。
少女の方はと言うと、頬を膨らませたのも束の間、自分を見上げるカエルと目が合うなり笑いを堪えるように口元を強張らせた後、長めのため息ですべてをごまかす。
「ダイジョブですよ。守秘義務があったから、仕方なかったんですよね」
とても面白い一続きの変化に、いつまでも頭を下げていた
マヌケな霊感探偵は顔を上げ、真剣な面持ちで述べた。
「あの時、亡くなった
「解決、したんですか?」
空気が変わった気がする。
「うん。ご遺族は報道とかで傷ついていたんだけど、そんなものよりもずっと大切な、
「……そうなんですか?」不安そうに震えた声で
「君のおかげだ」
断言した。力のある眼差しが相手を射抜く。
それは霊感探偵が時折見せる目だった。
彼が「相手に必要な言葉」を見極め告げる時に見せる目。
相手を捉えて放さない、強さと鋭さを持った目だ。
そのまま、3秒ほどの沈黙。
それが何に起因したものか、
ただ何となく、その間は、少女の心の中で何かが氷解する時間であったように感じた。
「はい……」返事と言うよりもつぶやきのような声の後、
今にも泣き出しそうな顔でゆっくり深呼吸すると、彼女は顔を上げた。
とてもまぶしい笑顔が現れる。
「お役に立てたなら、良かったです!」
憂いから解放された、元気な声が響いた。
――成り行きで協力はしたんですけど、それが本当に正しかったのかどうか――
――もしかしたら、その箱は、私なんかが触っちゃいけない物だったのかもって――
人助けをして、どうして不安になるのだろうか? その時は、そんなことを思った。
今なら、彼女の心情も理解できる。真面目で賢い彼女だからこそ、
軽々しい気持ちで遺品に触れたことへの負い目か、はたまた本当に役に立てたのか自己満足なのか判断できない状況への恐怖か――芽生えた不安は深刻な悩みとなり、今まで彼女をむしばんでいた。
女子中学生が一人で、知らない探偵事務所へやってくるほどに。
しかしその勇気によって、彼女は確かめることができたのだ。
自身の行動が自己陶酔に終わる程度の行為ではなく、
本当に正しい善行であったことを。
たたえられるべき事実を。
「やっぱり
天才少女がイスの上ではねる。「うわ! ビックリした!」
「あはは! ごほうびに大福もう1つプレゼント!」
「え! それ、僕のでしょ!」
「何言ってんすか! 恩返しが足りないでしょ! 冷淡探偵!」
「冷淡!?」
「えと、もうお昼だし、私、帰るのでダイジョブですよ」
「いやいやダイジョブ! 3時のおやつにすればダイジョブだって!」
「うああ! いちいち言い方をマネないでください!」
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