1-7 子供の交通事故があったのよ
そこにある自宅へ
玄関の鍵を開けてドアを開けると、ふくよかな体型の女性が出迎えた。
「ただいま!」
「おかえり」
「どしたの?」娘は緊張する。
対して母は疑り深い顔で答えた。
「あんた、どこで寄り道してきたの?」
「寄り道なんかしてないよ!」
「本当? 猫でも見つけて触ってたんでしょう」
「触れなかったよ! お母さん、クシャミ出ないでしょ! 塾で話し込んでたの!」
「塾に電話したら、授業は予定通り終わって、あんた、さっさと帰ったって言ってたよ」
「あぅ」
しまった。バレていた。
しかしながら――
「しかも触れなかったってことは、猫を触ろうとしたってことでしょう。元気に『ただいま!』なんて言ってもごまかせないよ!」
「あぅ」
あきれた声で追い討ちを掛けられると、もう逃げ場はなかった。
「
「また、あんたは。ウソなんかつかないの、まったく」
親はため息まじりに子の頭をペチンとはたく。
「さっさとお風呂入っちゃって。ご飯の用意しとくから」
「はーい」
今日は散々だ。
そんな思いを巡らせながら2階の自室にバッグを置き、制服をつるす。着替えはタンスの中だ。
時刻は夜9時15分少し前。お腹がすいた。
塾の時間が遅いと、夕食が遅くなるので参ってしまう。授業中もお腹が鳴りそうで困る。
入浴を済ませて浴室を出た頃には空腹に耐えられなくなり、ドライヤーはそこそこにパジャマを着て洗面所を出た。
「おかえり。遅かったね」
リビングに入ると、まずはソファーに座ってテレビを見ていた兄の
「うん、ちょっとね」
「この子ったら、猫なんか探してたんだよ。こんな遅くまで」
しかしダイニング・キッチンから響く
頬を膨らませる妹に、兄はわざとらしく笑った。
「そうだったの? 母さん、心配して塾に電話してたんだぞ。俺にも『捜しに行け』なんて言ってさ」
彼はしゃべりながら立ち上がり、空のコップをシンクに持って行く。
「そうなの?」
高校3年生の兄は父の
「当たり前でしょう! 子供が寄り道なんかして。
前も子供の交通事故があったのよ、可哀想に。あんた達も気をつけなさい」
質問に回答したのは母親だ。
「はーい」
お説教には兄妹そろって返事した。
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