1-4 いっぱいついてる
推理が停滞してから数分、やがて大人がため息をつく。
「やっぱり、無理そうだね。ごめんね、こんな時間に付き合わせちゃって。もう夜も遅いから、君は帰りなさい」
子供は「そんな殺生な」と思う。ここまで来て諦めようと言うのか。
こうなったら、とことんやってやる。「手掛かりよ、どうか見つかってくれ」と願いを込めて手をのばす。
「帰りが遅いと、親御さんが心配するよ」と
「もう少しだけ!」
ヒーローらしき人や怪獣のオモチャ、あと自由帳がある。自由帳を引っ張り出して中を見た。きっと目の前にいる探偵も同じことをやったのだろうが、やらずにはいられなかった。
自由帳の中は、力任せに鉛筆を押しつけたような落書きが一杯だ。
角を生やした人物が火か何かを出しているようなものや、カービィみたいな一頭身、猫と思われるものに、後は……うまく描けなかったものを塗り潰したようなグシャグシャも幾つか。
「猫、好きなの?」不意に
「この子が好きなのは、ヒーローとか怪獣の方じゃないですか?」
答えたものの、その線で考えようにも
「いや、君が」
「え?」
一応、答える。「まあ、好きです」
すると、
「あぁ、どうりで」探偵は納得したような顔をした。その目は
「なんですか」
「いっぱいついてる」
視線を追ってから「あぁ、そんなことか」と納得した。
しかしキーホルダーの数は1つだけ。彼にとってはそれが「いっぱい付いてる」なのだろうか?
「さっきも、猫を追い掛けてたね。いつもしてるの?」
「人聞き悪いですね。なでさせてもらってるんです」
「野良猫が、なでさせてくれるものなの?」
「はい、いつも、なでさせてくれますよ」
「あ、本当だ」
「知りませんよ」
答えながら違和感を覚えた。地面に置いてあった? 依頼人から預かったのではなく、探して拾ったということだろうか。
それにしても、妙なことを気にするものだ。折角見つけた探し物ならば、もっとキレイに扱ってあげたら良いのに。ここも減点だ。
改めてリュックサックを観察すると、外側のポケットに猫のワッペンが付いていることに気づいた。デフォルメされたデザインで、自由帳の絵はこれを描こうとしたのかも知れない。
この子も猫が好きなのか――
気づきにもとづいて、ダイアルを回す。
2828(ニャーニャー)、2800(ニャーオ)と、もう1つ。
鍵が開いた。
「やった!」と
「開いた! やった! え、すごっ!」
子供みたいな反応だ。
「はい、どうぞ」宝箱を開けて返してやる。
「助かったよー、本当にありがとう!」心底うれしいのだろう、
先ほどよりも相手の声が明るくなっていて、
「リュックに猫ちゃんのワッペンがあるでしょう」リュックサックを指差し、説明した。「猫が好きなのかなって思って、『猫の日』の2月22日を試したんです。0222。そしたら開きました。イタズラ坊やは、どうやって猫の日を知ったんですかね。御両親に聞いたとか、テレビ番組で見たのかも知れませんね」
役に立てただろうか。ワクワクしながら
彼の顔から笑顔は消え去り、笑い声も途絶えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます