Episode13

クリスマス当日。

耕太と萌香は、呉羽を連れて遊園地に来ていた。


「呉羽ちゃん、なに乗りたい?」

「クマさん」


呉羽は、目の前にある大きなクマを指差している。

クマは、入場ゲートの傍にあった。


「クマさんってあれ?」

「うん」

「じゃあ、乗ろう」


自走式の乗り物で、コインを入れると動くメロディペットと言うらしい。


「呉羽ちゃん、耕太さんと乗る?」

「もえかせんせとのりたい、だめ?」

「いいよ」

「ええ、呉羽。それはないよ」


耕太がそう言うと、萌香と呉羽は「クスクス」と笑う。

結局、彼は一人でパンダのメロディペットに乗ることになった。

萌香は、呉羽を前に載せ二人乗りでクマのメロディペットに乗る。

クマのメロディペットが先に動き、パンダが追いかける形になった。


「えー、歩く方が早くない?

あー、2人共待って~」


耕太が叫んでいる。

メロディペットは、時速1kmほどである。

のそのそ動いている。

それに合わせるかのような陽気なメロディが流れている。


「にぃにおそい」

「そうだね」


萌香が、呉羽と笑い合っている。

耕太もその表情をみて嬉しそうだった。


「呉羽ちゃん、次はどうしようか?」


そう言うと、呉羽はクマの上でキョロキョロする。

やがて、指を差した。

それは、コーヒーカップだった。


「コーヒーカップかなぁ?」

「うん、クルクルまわるの」

「じゃあ、クマさんにはそこまで頑張ってもらってバイバイしようか」

「うん」


そうして、一同コーヒーカップへ向かった。

やがて、メロディペットから降りる3人。


「じゃあ、クマさんにバイバイしよっか」

「うん、バイバイクマさん」


呉羽は、クマを撫でる。

それを見て、2人は微笑ましく見ていた。


「よーし、呉羽。今度は、僕も一緒に乗れるからね」

「にぃにもいっしょ、もえかせんせもいっしょ」

「私も一緒だよ」


それからは、遊園地を満喫した。

いつしか、呉羽は眠ってしまった。

今は、耕太がおんぶしている。


「萌香さん、いつもありがとう」

「耕太さん、私の方こそありがとうございます。

2人と過ごす毎日が楽しくて」

「僕も萌香さんと過ごす毎日が楽しいよ」


2人の頬が朱に染まっている。

遊園地から出た2人は、トボトボと家路に向かって歩いていた。


「あの」と2人の声が重なる。


「えっと、萌香さんから」「耕太さんから」


すると、2人は揃って「あはは」と声を出して笑い合う。


「じゃあ、せいので言ってみる?」

「・・・うん」


お互いの顔を見合う。

それぞれが、頬を朱に染めているのはお互い分かっている。


「せーのっ!好きです」と2人の声が揃う。


そして、2人はまた「あはは」と笑い合った。


「僕は、いつも明るくて優しい萌香さんが好きなんだ。

初めて見た時、萌香さんに実は一目惚れしてたんだ。

蹲っていた時に、声を掛けたのも好きな人とお近づきになりたいって打算もあったのかもしれないけど、苦しそうな萌香さんを放っておけなかったんだ。

一緒に過ごすうちにさ。萌香さんのこといっぱい知った。

悲しいことがあっても必死で耐えている萌香さんを見るのは辛いよ。

だから、萌香さんが辛いときは隣で寄り添っていきたいよ、僕は。ずっとさ。

まだまだ、頼りないかもしれないけど。

結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」


彼は、真剣な眼差しで萌香の目を見つめながらそう告げた。

そして、彼女もまた耕太の目を見つめている。


「一所懸命で、誠実な耕太さんの事。私、好きです。

前に、会社の前で蹲っていた私を助けてくれた時から耕太さんの事が好きだったんです。

呉羽ちゃんが初めて来たときは、耕太さんが既婚者だったのかと思って泣きそうになりました。

でも、こうして2人と過ごす毎日が温かくてずっと一緒に居たいって思っていたんです。

私には、肉親と呼べる人はもういません。

でも、耕太さんと暖かい家庭を作っていきたいと思うんです。

えっと、不束者ですが・・・末永くお願いします」


萌香は、涙を流しながら彼にそう告げた。

耕太は、彼女に近付く。

抱き締めたかったけれど、呉羽をおんぶしていてできなかった。

すると、萌香が彼の胸に顔を近づけた。


「萌香さんが辛いときは僕が隣にいて、一緒に泣くよ。

楽しいときは、一緒に笑い合お」

「はい、耕太さん・・・ごめんなさい、もう少しだけこのままで」

「もちろんだよ、そこは萌香さん専用だから好きなだけね」

「うふふ、ありがとうございます」


しばらく、2人は寄り添い合った。

しかし、そうしている時だった。


「にぃにともえかせんせ、こいびとさん?」


急に、呉羽の声が聞こえた。

萌香は、彼の胸から少し離れる。

耕太の肩先を見て、目を丸くする。

彼の背中におんぶされた呉羽が目を開けていたから。


「う、うん。そうだよ。呉羽ちゃん」

「じゃあ、ずっといっしょ・・・くれはともいっしょにいてくれる?」


呉羽は、不安げな表情で彼女に尋ねる。

萌香は、優しく微笑む。


「もちろんだよ。呉羽ちゃん・・・これからは、耕太さんがパパで私がママじゃダメかな?」


呉羽は、首を傾げる。


「にぃにがパパ?もえかせんせがママ?」

「呉羽、僕がパパじゃだめかな?

姉さんももういないから寂しいと思うけど、僕らはずっと呉羽の傍にいるから。一緒に家族なろ」

「いいよ。にぃにがパパで、もえかせんせがママ。えへへ」


呉羽は、満面の笑みを浮かべる。

この日、彼女がサンタにお願いしていた物。

それは、「家族」だった。

ずっと傍にいてくれる人。

そして、その繋がり。

それは、呉羽にとって・・・唯一の家族を失った少女にとって必要な必要な物だった。

心から通じ合える「家族」と言う繋がりが。

こうして、新たな「家族」が誕生するのだった。


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これで、第3話は終了です。

次回から第4話になります。

次は、仕事納めのあとの忘年会からのお話になります。

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