Episode12

それから、数日時間が経った。

もうすぐ、クリスマスがやって来る。

現在は、深夜。

耕太と萌香が、彼の家のリビングにいる。


「耕太さん、呉羽ちゃんなにがほしいかなぁ?」

「うーん、なんだろう」


2人はそれぞれ首を傾げていた。

そして、「うーん」と唸る。


「どこか、お出かけでもする?」

「あ、それいいかも。姉さん、忙しい人だったから遊びには行けなかったと思うし」

「あ・・・わたしもあんまり遊びに行ったことない・・・」

「・・・僕も」


2人の間の空気が暗く重くなる。

学生時代は勉強とバイト三昧だったからである。

その為、どこかに遊びに行くということはなかった。


「耕太さんは、どこにいってみたい?」

「僕?僕は・・・どうだなぁ。どこがいいだろう。

遊園地とか水族館とか・・・」

「遊園地!いこ、遊園地行こう」

「う、うん・・・萌香さん。遊園地好きなんだね。

きっと、呉羽も喜ぶと思うよ」


耕太は、目を輝かせる彼女にそう声を掛けた。

萌香は、少女のようにはにかんだ笑顔になっている。

その日から、彼女の笑顔は絶えることはなかった。


そして、クリスマスイブ。

2人は、金曜日ともあって仕事に行っていた。

萌香は、保育スペースでオルガンを弾いていた。

彼女は、多才だ。

今日は、会社をあげてのクリスマス会をしている。

保護者や役員が保育スペースに来ていた。

仕事と言っても今日はイベントと言うことでほとんどの業務は休止している。

といっても、耕太は業務をしている。

人事部の雑務をさせられてしまっている。

保護者なのにである。

そして、呉羽は後ろをチラチラ見ている。

表情は、とても暗く泣きそうなほどだった。

その様子を見て、呉羽を知る間宮夫妻も、早間夫婦も首を傾げる。

弓弦と宗吾が、所狭しと社員の入る通路を抜けていく。

彼らは、廊下に出ると上層へと向かう。


「なぜ、耕太がいないんだ?」

「わからん、人事部は確か社食で設営だったよな」


2人は、エレベーターに乗って5階の社員食堂へと向かった。

そして、2人が見たのは社員食堂で一人準備をする耕太の姿だった。


「耕太!」


弓弦が、叫ぶ。

宗吾は、耕太へと近づき肩を掴む。


「え、社長?間宮課長?」

「お前以外の人事部はどこだ?」

「今朝からいないんです」

「はは、マジか・・・人事部がここまで腐ってたとはな。

俺の見る目ないな」

「おう、弓弦。ドンマイ。

それよりも、耕太。いますぐ、呉羽ちゃんの所に行け。

ここは、俺達がどうにかするからよう。なあ、弓弦」


弓弦は、首肯する。

それを見るなり宗吾は、耕太の背中を押す。


「すみません、お願いします」


耕太は、走って社員食堂を出て行った。

エレベーターを待ちきれないほどに焦っていた彼は階段を駆け下りていく。

息を切らせながら耕太は保育スペースへと辿り着いた。

のだが、入口になかなか辿り着けない。


「すいません、通してください」


そう言って、割って入っていく。

奥からは、クリスマスソングが聞こえる。

それを歌う子供たちの声も。

やっとの思いで奥まで来た。


「遅いよ、耕太くん」と晴夏と愛華。


呉羽は、泣き出しそうな顔を今までしていたが耕太が来たことでパアっと笑顔になった。


「すみません、会場準備してて」

「え?確かに人事部が担当のはずだけどなんで耕太くんが」

「あー、なるほど・・・弓弦が帰ってこないってことはそう言うことか・・・困った人たちだね」


晴夏の目に明らかな怒りが宿るのを感じた。

そうしていると。オルガンの音と歌声が終わる。

それと共に、拍手が起こる。


「子供たちによるお歌でした。

お聞きいただきありがとうございました」


再び拍手が起こる。

やがて、静寂が訪れる。


「ごめんね、みんな。

私から1つ連絡事項があるの」


愛華が、声を出す。

社員の視線が集まる。


「ちょっと人手が足りなくなったみたいだから、会場の準備を手伝ってほしいの」


それを聞いた社員たちはぞろぞろと保育スペースから出て行く。

それとは入れ違いに子供たちと一緒にいた萌香と後を追う呉羽が耕太の所にやって来る。


「耕太さん、遅いですよ」

「にぃに」

「ごめんなさい、会場準備してて」


呉羽は、彼に抱き着いた。


「ごめんな、呉羽」


耕太は、彼女の頭を撫でる。

そうしていると、愛華と晴夏も退室していった。

ただ、2人は不穏な単語をつぶやいていた。

その後は、子供たちを帯同して社員食堂でクリスマス会の続きを行うのだった。


さて、土日を挟んで月曜。

今日で仕事納めである。

この日、人事部では人員整理が行われていた。

人事部は、クリスマスイブのあの日。

誰一人としていなかった。

全員が、無断欠勤をしていた事が発覚している。

役員総出で盛り上げているイベントであり役割も振られているにも関わらずである。

人事を預かる部署としては、信用を失う結果となった。

彼らが抜けた穴を他部署の者全員で会場設営をした為、余計に処罰が重くなった。

実は、人事部以外にもサボった社員はいるのだが・・・それはまたのお話で。

人事部延べ15人懲戒解雇となる。

無断欠勤だけの理由ではなく、他にも多くの悪事が浮き彫りになったからである。

弓弦、宗吾の2人が徹底的に調べ上げ不正の証拠を回収した。

もしも、耕太に仕事を押し付けてサボらなければ発覚することはなかったかもしれない。


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次回、3話最終Episode!

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