Episode6
それから、3日が経った。
愛華は、毎日のように通ってきている。
面会時間目一杯いるようになった。
その日、彼女が来る前に医師がやってきた。
「間宮 宗吾さん、お目覚めですね。
午前に検査をして、問題なければお帰りいただけますよ」
そう医師は、告げると病室を出て行く。
宗吾は、その後検査をした。
血液検査と問診だけだったので、大した時間は掛からなかった。
愛華が、来た時には彼は着替えを済ませている。
「先輩、来ました・・・あれ?私服」
「ああ、今日退院になったんだ」
「そうなんですね、じゃあ行きましょう。
私、車なので送っていきますよ」
宗吾は、彼女の車に乗ることにした。
荷物は、少しだけしかない。
入院して、約5日間だった。
着替えも来た時の物だけで、入院中は病院着を着ていたから。
あとは、小物くらいだろう。
料金の支払いをして病院を出て駐車場へ向かった。
「・・・愛華くんの運転か。不安だ」
「先輩、酷いです」
彼が、愛華の運転を信用できないのは仕方がない。
2か月で何度も事故に遭って、事故を起こしているのだから。
よく、免許停止にならなかった物だと思う。
駐車場には、愛華の軽自動車が停まっていた。
そして、車に乗り込む。
「愛華くん、すまないが途中で市役所に寄ってもらえないだろうか」
「もちろんいいですよ、向かいますね」
結局、運転は愛華のままである。
宗吾は、入院資料と一緒に入れてきた離婚届を開いた。
「・・・先輩」
「ああ、すまない・・・ボールペンはあるかな?」
「あ、はい。えっと、確か此処に「いや、待って。俺が悪かった。今は運転に集中してくれ」」
愛華の声を遮って彼が声を上げた。
なぜなら、彼女がボールペンを探し始めたことで蛇行運転になったからである。
宗吾は、恐怖したため声を上げたのだった。
彼の背中は、冷や汗でびっしょりになっている。
「記入は市役所でするから、そのまま安全運転で向かってくれ」
「わかりました」
愛華は、笑みを浮かべていた。
宗吾が、隣にいてくれることが嬉しいのかもしれない。
それほどまでに、彼の事が好きなのかもしれない。
30分ほどして、何とか市役所に辿り着いた。
愛華の運転は、なかなかに散々な物だった。
信号無視はするわ、急ブレーキはするはとなかなかデンジャラスな運転だったのである。
ペーパードライバーのような運転技術と言えるだろう。
「愛華くん、次は俺が運転するから」
「え?私、運転しますよ。先輩、病み上がりなんですから」
「いや、君の運転の方が病み上がりに悪い」
宗吾は、車を降りると市役所の窓口へと向かった。
愛華も、後ろから追っていく。
筆記台で彼は記入をし捺印をする。
印鑑は、彼女が持ってきてくれていた。
用意周到と言うべきだろうか。
宗吾は、それを窓口に提出した。
「すみません、お願いします」
「はい・・・はい、受理いたします」
彼の表情は、とても重たく暗い。
提出した後は、胸を押さえている。
「先輩・・・行きましょう」
「ああ、ありがとう。愛華くん」
彼女がいなければ、宗吾は動けなかったかもしれない。
それほどに、彼の顔色は悪かった。
宗吾は、車へ辿り着くと運転席に座ることにする。
「あの・・・先輩。私、運転しますよ?」
「いや、俺がする」
そう言って、愛華に車のロックを解除してもらって運転席に乗り込み運転をするのだった。
更に、30分ほどして宗吾の家に辿り着くと彼は運転席から降りようとする。
「あ、先輩。お邪魔してもいいですか?」
「そうだな、世話にもなったし。お茶でも飲んでいってくれ」
宗吾は、自身の家の車庫に愛華の車をバックで駐車する。
本来は、あるはずのもう一台の車が無くなっているので停めることが出来た。
そうして、2人は車から降りると玄関を開けて中へと入っていく。
「じゃあ、まあ入れ」
彼は、愛華を招き入れた。
宗吾の後ろに付いて玄関へと入る彼女。
「お邪魔します」
言うが早いか愛華は、玄関を閉め施錠もした。
それと同時に、宗吾を後ろから抱きしめる。
「えへへ、先輩の匂い」
「おい、愛華くん。放してくれ」
「いやです」
彼は、背後から抱きしめられているため、引き離すことができない。
「君は何がしたいんだ」
「先輩が好きだから、先輩が欲しいだけです」
愛華と彼とでは、身長差があるため彼女の頭は肩に届いていないほどだ。
「先輩、先輩。はぁはぁ」
愛華は、息を荒げる。
宗吾は、少し怯えた顔をしていた。
いくら力を入れてもどうしても彼女を引き離すことが出来ないからだ。
「先輩」
その声と共に、愛華は前方に回り込み、正面から抱きしめてくる。
そして、次の瞬間。
宗吾の唇は、彼女の唇で塞がれた。
その行為はエスカレートしていく。
口の中を舌が蹂躙していく。
じゅるじゅるぴちゃぴちゃと淫靡な音が響く・
それは、長いこと。
どれほどの長さかわからないほどに。
堕ちていく。
心まで愛華と言う女性に蹂躙されるかの様に。
「先輩を私なしじゃ生きられないようにしちゃいますね」
そう耳元で彼女は囁く。
宗吾は、もう考えることを放棄していた。
やがて、2人はベッドで抱き合っていた。
すっかり、宗吾は彼女に依存してしまった。
もう、離れたくないとまで思えるほどに。
愛華の言うように、彼は彼女なしではもういられないかもしれない。
「愛華・・・くん」
「せん・・・宗吾」
何度も何度も唇を重ね、身体を重ね合わせる。
宗吾の顔が、甘い幸福感の中にいるように蕩けていた。
先程までの絶望感は彼の顔からは見受けられない。
「宗吾、もう私以外見ちゃダメ。
私だけを愛して」
「愛華、好きだ」
宗吾は、堕ちていった。
愛華の深すぎる愛に。
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お待たせしました。
「絶望の淵」の5.君だけしかまでのリメイクでした。
次回からは、その後の2人のお話になります。
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