第3話 非戦闘員と思われる少女と遭遇。妖精が騒がしい。
呼吸はある、ただ眠っているだけだ。
推定17歳、身長160センチ、痩せ型、金色の髪に白い肌。
肉付きや骨格から女性と推察。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『金髪美少女キターーーー!!』
【転生しても名無し】
『ちょ……超かわいい! お人形さん!?』
【転生しても名無し】
『今すぐお風呂に入れてキレイにしてあげないと!
一応言っておくが不純な気持ちは一切無い!』
【転生しても名無し】
『ガタッ! 飯食ってる場合じゃねえ!!』
【転生しても名無し】
『●REC』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
なんだか、今までで一番盛り上がっている気がする。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『気にするな』
【転生しても名無し】
『気のせい気のせい』
【転生しても名無し】
『俺らに気を使わず、進めて進めて』
【転生しても名無し】
『全裸待機』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
……まあ、いいか。
少女の様子を観察する。
身につけているマントは軍事用のものではなく風よけとわずかな防寒機能しか持たない、民間仕様のものだ。
マントの下の衣服は長袖のシャツに長ズボンと革製のブーツ。
アイゼンブルグの民間人が逃げ込んできたのだろうと推測。
そして僕は少女のマントのフードを再び被せると、立ち上がり、先に進んだ。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『ちょっと待てえええええええええ!!』
【転生しても名無し】
『そして僕は————じゃねえよ! なんでスルーしてるんだよ! バカなの!? 死ぬの!?』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
身なりや体型からして軍人ではないこの少女の戦闘能力は皆無。
確かに、ここに残しておいても死を待つだけだろう。
衰弱死ならまだいいが、追っ手に捕まったりすれば、より残酷な結末も覚悟しなければならない。
それならいっそ――
僕は、手を貫手の形に変え、神経を集中させる。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【◆ヘロー】
『逆ぅーーっ!! ソッチジャナイ!!』
【転生しても名無し】
『とどめさせって言ってんじゃねえ!! ぶっ殺すぞ!!』
【転生しても名無し】
『そうだ! もったいない! 俺はもうパンツ脱いだぞ!』
【転生しても名無し】
『↑お前も違う』
【転生しても名無し】
『助けてやれってことだよ。言わせんな』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
助ける? 何故だ?
僕もダメージが回復しきっていないし、この洞窟から脱出できる目処も立たない。
戦闘能力のない少女を助けることはリスクでしか無い。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『ホムホムがクールすぎて辛い』
【転生しても名無し】
『貴重な金髪美少女がぁ……』
【◆野豚】
『ちょっと待って。ホムホム。
彼女を見捨てることは、僕たちの「生きろ」って命令に反するんじゃないのかい?』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
どういうことだ?
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【◆野豚】
『「生きる」っていうのはね、ただ命を永らえさせることじゃないんだよ。
何も感動せず、何も求めず、何も変わらず、何も変えない。
それじゃあ、ただ死んでないだけなんだよ。
生きるってことは、感動して、求めて、変わって、変えて――
そうやって命を活用していくことなんだ。
きっと君はそのことの意味も価値もまだ分からないだろう。
君は生まれて間もないし、君を産んだ人たちは君に生きることを望んでいなかっただろうから。
だからこそ、君は他人の命や他人の人生に触れることで生きることの意味を学んでいかなくてはならないんだ。
さしづめ、今の君がすべきことは目の前の消え行く命を救うことだ。
長文スマソ』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
僕は野豚の言うことを、咀嚼しようとするが首を傾げてしまう。
生きるというのは生命活動以外の何物でもない。
蜘蛛の巣に絡まって身動きが取れない虫であっても、寝たきりで目も耳も使えない老人であっても、死なない限り生きている。
野豚の言う、「生きる」と言うのは拡大解釈が過ぎる気がする。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【◆野豚】
『お、名前読んでくれたね。ありがとう。
偉そうなこと言っちゃったけど、見捨てるのも仕方ないかなとも思う。
実際、君も余裕ないしね』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
そのとおりだ。
仮にこの地下から城塞都市の外側に脱出できたとしても、近隣の町までは歩いて3日はかかる。
見たところ、少女は脚を負傷している。
服の袖の部分がひどく汚れているのはここまで這ってきたからだろう。
足手まといの少女を連れていれば、その倍はかかるだろうし、人間は食料や水分の補給頻度が高い。
道中、魔物に魔王軍、野盗にも襲われる可能性もある。
ここを出たところで少女が無事生きられる保証はどこにもないどころか、望みは薄い。
それをリスクを背負ってまで助ける?
全くもって非合理的だ。
……だが。
僕は少女の元に寄り、頬を軽く叩いた。
「う、う……ん?」
重そうな瞼を開けて少女は僕を見た。
その表情は虚ろで、恐怖を感じているのか警戒をしているのか読み取れなかった。
「寝ぼけていても良い。意識を保っていろ。
眠りに落ちている生き物は担ぎにくい」
僕は彼女を抱え上げ、肩に担いだ。
体重は驚くほどに軽い。
「助けて……くれるの?」
少女は掠れた声で尋ねてきた。
「助けられるかは分からないが、出来る限りのことはする」
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『キターーーーーーー!』
【◆バース】
『ワイはホムホムのこと最初から信じてたんやで。(テノヒラクルー)』
【転生しても名無し】
『よっしゃ、その決断を応援するよ!』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
僕だってあなた達に助けられた。
本当なら街の中で夜が明ける前に破壊されていただろう。
あなた達は僕に「生きろ」「生きてほしい」「死ぬな」と言ってくれた。
何故、あなた達がそうしたのか、その理由は分からないが同じことをしてみようと思った。
「生きる」為に何をすべきか、僕は自分で探さなくてはならない。
まずは、あなた達の行動を解析させてもらう。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『うん。良いと思うよ。た~っぷりkaisekiして』
【転生しても名無し】
『いちいち理屈で考えるところも今後なくしていったほうが良いと思うぞ』
【転生しても名無し】
『おもしろいか、おもしろくないか、判断基準なんてそんなもんよ』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
頭の中が騒がしい。
肩にのしかかる重みは足取りを重くする。
それでも、前を向いて歩くことに何の抵抗も覚えなかった。
少女を担ぎながら、かなりの距離を歩いた。
その間に損傷部分の自然治癒はほとんど完了した。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『てか、視界が暗くてよくわかんねえな』
【転生しても名無し】
『つーか、何時間も何も起こらないし、退屈』
【転生しても名無し】
『カワイ子ちゃん起きないかなあ?』
【転生しても名無し】
『ホムホム〜。その子の名前聞いてよ』
【◆ダイソン】
『俺そろそろバイトの時間だ』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
頭の中の妖精さんたちは変わらず騒ぎ続けている。
どうやらこの状態は自然治癒しないらしい。
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【転生しても名無し】
『おいおいwww俺達をwwwステータス異常みたいに言うんじゃねえよwww』
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ん?
僕は足を止めた。
足場がこの先なくなっている。
ルークスの出力を上げ、前方を照らしてみた。
すると、眼前に巨大な地底湖が浮かび上がった。
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【転生しても名無し】
『あー。やっぱ地底湖に繋がったか』
【転生しても名無し】
『出口ないの!?』
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ない。
岩壁で囲まれた球状の空間に溜まるような形で地底湖が形成されている。
完全な行き止まりである。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【◆助兵衛】
『湖の底から外に繋がる穴があるかもしれないが……』
【◆野豚】
『女の子担いだままじゃ無理だね。
ホムホムが無事でも彼女が溺れ死んじゃうよ』
【転生しても名無し】
『別のルート探すか?』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
僕が落ちたところからここまで一本道だった。
見落としている箇所がないか、調べてみるか――
「あ……あ……」
担いでいた少女が目覚めた。
目と口を開き、何かを欲しがっている。
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【転生しても名無し】
『水がほしいんじゃないのか?』
【転生しても名無し】
『ああ、確かにここの水はある程度キレイそうだ』
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たしかに、血や脂で濁っていた下水ではなく、澄んだ水が湖に溜まっている。
僕は彼女をゆっくりと湖のそばに下ろすと、彼女は這いずり飛び込むように湖の水に顔をつけた。
ガブッガブッと音を立てて水を飲み、ゲホゲホッとむせ返る。
そしてまた、口を水につけて飲み始めた。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『うわー、これ相当喉乾いてたんだなあ。
いいよ、好きなだけお飲み』
【転生しても名無し】
『下手すると、あの町が陥落してからずっと地下道に逃げ込んでたかもしれないしな。
そうすると……一週間以上!?』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
彼女を横目に僕も両手で器を作り水を掬って飲み干す。
舌の上を通り抜ける水は冷たく甘い。
喉を過ぎた水が体内に落ちて全身に染み渡る感覚は心地よいものだ。
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【転生しても名無し】
『おいしいかい?』
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うん。これはおいしい、ということなのだろう。
はじめて知る感覚、いや感情だ。
もっと欲しいと僕も彼女のように湖に口を付けて勢い良く水を飲んだ。
たっぷり、水を飲むと彼女は落ち着いたようで、水で顔を洗い手で拭うと僕の方を向いた。
「ありがとうございます。
おかげで助かりました」
そう言って彼女は頭を下げた。
「まだ助かっていない。
ここは行き止まりなんだ。
この洞窟には生き物もいないし外に出られなければ数日で餓死する」
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『ホムホムもうちょっとオブラートに包んで』
【転生しても名無し】
『カワイコちゃんが泣いちゃうよ!』
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泣く? いや、彼女はむしろ笑みを浮かべている。
「大丈夫です。ここまで連れてきてもらえたなら――」
彼女は手のひらを地面につけ、詠唱を始めた。
「『小人たちは隠れるように大葉の影に住まいを作らん』【
彼女の手の下から一筋の緑色の光が地面を走り、幾何学的な軌跡を描く。
光は加速し続け、壁に達すると高さ2メートル程の扉の絵を描いた。
扉を描く緑色の光は赤色に変わり、霧散した。
すると光の扉があった場所の岩壁は崩れ、人が通れる大きさの穴が露見した。
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【転生しても名無し】
『すっげー!! なにこれ! 魔法!?』
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解錠魔術だ。
魔術的に偽装した空間の偽装を解除する魔術。
名の通り、鍵のようにあらかじめどのような魔術式で組まれた偽装であるかを把握していないと効果はない。
「あなたはこの仕組を知っていたのか?」
「ええ。トーマス卿から聞き賜っておりました。
下水道から繋がっている洞窟の奥に、偽装された抜け道があるから……と」
トーマス・パールトン。
僕らの救出対象であったサンタモニアの司令官だ。
「トーマス卿は私を逃がすために、自ら槍を取って魔物たちを引きつけてくださいました。
おかげで私はひとり、逃げ延びて……」
少女は涙ぐんでいる。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『おい、優しい言葉の一つでもかけてやれ』
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なんだと?
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【転生しても名無し】
『カワイコちゃん辛いんだよ。
自分が生き残るために他の人を犠牲にしちゃったんだからさ』
【転生しても名無し】
『そうそう、「気にするな」、とかそういう慰めの言葉をかけてやれ』
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そんなこといわれても……
とりあえず、やってみるか。
僕は、彼女をまっすぐに見つめて口を開く。
「カワイコちゃん――」
彼女は目を丸くした。
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【転生しても名無し】
『アホかああああああああ!!』
【転生しても名無し】
『違うだろおおおおおおお!!違うだろっ!!』
【転生しても名無し】
『カワイコちゃんは名前じゃねえ!!
俺らの間で便宜的につけていた呼び名だよ!
それを面と向かって言うな!』
【転生しても名無し】
『その場にいない俺達がカワイコちゃんをカワイコちゃんっていうのと、お前がカワイコちゃんをカワイコちゃんって呼ぶのは全然違うんだよおおお!!』
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「気にするな」
「は、はあ……」
彼女の涙はひいて落ち着きを取り戻したようだ。
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【◆バース】
『めっちゃ気になるわ!』
【転生しても名無し】
『落ち着きを取り戻したんじゃなくて呆然としてるんだよ!!』
【◆微課金】
『ダメだこのホムホム……なんとかしないと』
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さて、とりあえず道もひらけたし、進もう。
「あのっ!」
彼女は呼び止めるように僕に声をかけた。
「私の名前は――メリア。
メリアと呼んでください」
少女の名前はメリア――インプット完了。
「分かった。行くぞ」
僕は再び彼女を担ぎ上げた。
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【転生しても名無し】
『オイオイオイオイ。
何してるんだあ、お前も名乗らんか』
【転生しても名無し】
『識別番号を言うんじゃないぞ』
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僕に名前はない。
あえて言うなら、あなた方が言う「ほむほむ」くらいだ。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『ちょっとそれもなあ……』
【転生しても名無し】
『なんか気が抜けちまうというか、俺らがそう呼ぶのは良いけど』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
メリアと行動を共にするようになって、どんどん妖精たちの注文が多くなっている気がする。
他者と共にいることは状況を複雑化させるからか。
名前も一人でいるのなら必要のないものだ。
人間は他者と共にいるために名前を呼び合うようになったのだろうか。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【◆野豚】
『ハイハイ!
【クルス】とかでいいんじゃないか。
ホムンクルスだし』
【転生しても名無し】
『いいね!』
【転生しても名無し】
『世界観的にもそれがいいね』
【転生しても名無し】
『ホムホム、お前はそっちの世界でクルスと名乗れ』
【◆バース】
『ワイらはホムホムって呼び続けるがな』
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クルス――インプット完了。
僕は肩に乗ったメリアに伝える。
「僕の名前はクルスだ」
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