第50話
「わざわざ外からお客さんまで招いて、パーティの招待かい? ま、もっとも、お連れの皆さんの顔つきは随分と剣呑でいらっしゃるようだけど」
そう言いながら、レジーロはアインをじっと見た。
「まさか
「噂だと?」
「ああ。東の果ての海岸でそれらしき姿を見たとか、大陸の西側に生き残りがいるらしいとかな。俺の知り合いに、ちょっと
「その知り合いというのは、赤毛の人族ではないか?」
アインの一言で、レジーロの表情がにわかに鋭さを見せた。知っている。
「――さて、それはさておき、だ。リリコにティコ様。一体、何をしに参られたので?」
「レジーロ。お前に見せたいものがあってな」
「俺に? なんだよなんだよ、森に帰ってきた俺にあらためて贈り物ってか? 長になったお祝いってんなら気が早いし、もしかして、俺と番になりたいとでも――」
ベラベラとしゃべり続けるレジーロの前にあるテーブルに、リリコは無言で歩いていき、例の木箱を置いた。そして、ちらっとティコを見る。ティコは小さく頷き、小さく口を動かし始めた。看破の魔法を使い始めたのだろう。
「この中にある物が、お前の所有物かどうか、問いたい」
言いながら、リリコは蓋を開いた。そして、箱をひっくり返す。中に詰めていた布や葉っぱに続けて、あの錫杖が転がり出た。先端の歪な石からは、やはり闇の粒がチラチラと漏れている。その場にいた全員が、ざわついた。
「なんだ、この禍々しいものは!」
「これが、レジーロ、お前のものだと?」
「おいおい、待ってくれよ。いきなりこんなものを見せられて、俺のものじゃないかだって? 疑うべきは、こんな奇妙なものを持ち込んできたリリコの方だろうが」
「レジーロおじさん」
ティコがレジーロを見据えて口を開く。
「これは、おじさんのもの?」
冷たい沈黙が流れる。
「いや、違うぜ」
瞬間、広場で風が巻いた。
「この風は……」
「看破の魔法だ。こんな高度な魔法を使えるのは――まさか、ティコか?」
「
ティコの目が強く光る。
「ティコのお父さんを風に還したのは、おじさんなの?」
その場にいた全員が、息をのんだ。
トリルは、胸の石に手を当てた。
「……」
レジーロは何も言わない。
「看破の魔法が反応出来ないように口を閉ざしているのか? その沈黙こそが答えということだろう!」
リリコが語気を荒らげる。
「ふーっ……」
レジーロが長い息を吐きながら、空を仰いだ。
「そいつらの入れ知恵か?」
「ああ。彼らが教えてくれた。その禍々しい錫杖を用いれば何が出来るのかをな」
レジーロは、笑っていた。状況的には追い詰められているはずなのに、その表情には余裕があった。
「やれやれ――俺はただ、森の外の世界に触れて、それを
「
「ああ、そうさ。この杖の、
風が巻いた。
「魔法がなくても、そんな言葉は誰も信じないよ、レジーロおじさん。おじさんは、森のためを思ってなんかない」
ティコが立ち上がる。
「せめて真実を語りなさいよ、卑怯者!!」
ティコの目から、大粒の涙があふれ流れた。それでも、彼女の目は父親の仇を強くとらえて離さない。心なしか、風がさらに強く渦巻いたような気がした。ティコの感情の高ぶりに、
誰も口を開かなかった。 ただ、レジーロの両隣に座っていた二人の
「聞きたいんだけどさ」
レジーロが口を開いた。
「森の長がすげ代わって、森は良くなんのかよ? 定められた役割なんてもんに縛られて、どれだけの
「――ティコは、氏族による役割の仕組みをなくすつもりだよ」
トリルの言葉に、レジーロが顔を歪める。
「長としての権限で、か? それがいつまでも叶わねぇから、俺がこの手を汚して森に自由をもたらしてやろうとしてんだろうが! 俺が
周りの
『トイ、トイ、トイ……』
レジーロの口から『力在る言葉』が紡がれる。
『
「みんな、伏せて!!」
ティコの叫びで、全員が姿勢を低くした。
『イン・ボッカ・アル・ルーポ!!』
鋭い風の流れが悲鳴のような音を上げた。
「アイン!!」
「魔法で命を傷つけるなんて……!」
トリルは顔をしかめてレジーロを見た。レジーロは、もう二度と魔法を使えない――精霊に声を聴いてもらえない。そのレジーロはテーブルの上に立ち、その手には、闇の錫杖が握られている。
「聞き及んでた奥の手に頼らなきゃ、この場を切り抜けるのは難しそうだな。まぁいいさ。ここで長の血筋を絶やし、森に自由をもたらしてやる。俺が
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