23.戦の鐘が鳴り響く…

セントーラ王国全土及び各国にて、大空襲による火種が落ちてから翌日…

カイ達はセィタン領から早々に引き上げ、実家であるキクルス領に戻った。


あの攻撃の後、セィタン公爵家とベルフェ公爵家による連合国設立宣言とセントーラ王国に対する宣戦布告を上げられ、その狼煙として大規模空襲と電撃作戦を行ったと魔導機による全土への放送をされた。


しかし、宣戦布告よりも先に奇襲してきた事は卑怯者として扱われ、甚大な被害を受けたセントーラ王家とその民は激怒し、怒りと共に立ち上がって戦うと、王国側から通告してきた。

これに加え、セントーラ以外でも被害を受けた人間が支配する各小国もまた連合国に対して布告無しによる先制攻撃した事は非道と断定し、王国と同盟を結び、青の同盟と名乗って参戦する事になった。


対して連合国に賛同した一部の人間小国と亜種族が主体の国家、特に最大勢力の鉄血と呼ばれる穏健派魔族国家と東に位置する獣人族が支配する獣皇国は連合国と同盟を結び、赤の枢軸レッドアクシスと名乗った。


最も、赤の枢軸と呼ばれたセィタン・ベルフェの同盟は連合国設立前から結ばれていた事は、王国側には知られていなかった。




そんな情勢であるのか、枢軸の連合軍による電撃作戦は主要都市を破壊する事に成功し、反撃するまでの時間を作らせないようにした。

しかし、その電撃作戦を行った戦車部隊である機甲師団は攻撃した各地から引き上げ、領土拡大を行わなかった…




「急激な領土拡大を行わず、じわじわと攻撃を行いながら戦力と人力を奪うと言うわけか…」


キクルス領の屋敷に戻ったカイが、屋敷に届けられた新聞を見ながら最初に呟いた言葉がそれだった。

連合軍が行ったのは、一時占領した土地に住まう人間達を強制収用させ、選別を行った。


女神教の教徒であるか否か…


平民・貴族を問わずに行われ、女神教の教徒であるならば廃教するならば長期労働、しなければ強制収容所と呼ばれる施設に送り込まれる…


労働の場合は過酷な探鉱などではなく、工場等の生産労働を従事させられ、成果を上げれば賃金も支給されるほどである。

対する強制収容所は…言葉に表せないものであった。

少なくとも、収容所施設に収監された人間は生きて出る事は出来なかった…

それだけで全てを物語るほど、中の様子を伺わなくても想像が出来た。


「ねぇ、カイ…あの施設で作られた新薬とか兵器の弾って…」

「恐らくは、そういう実験なんだろうな…」


カイはそう言った後、読んでいた新聞を折りたたんだ後にミリーが煎れたコーヒーを飲んだ…





談話室で休憩後…


カイは自動車に乗って、屋敷周辺の町を視察し始めた。


「すまないな、ティファ。帰ってきて早々に」

「いえ、大丈夫ですよ。それに、車を運転するのは結構楽しいものですよ」

「そうか。…馬を使わないで走る車は便利だよな」

「確かに便利ですね…争いがなかったら、これが日常の乗り物になるのですね」

「ああ…本来なら、王国に技術献上するはずだったけどね…」


ティファに対してそう呟いた後、カイは隣に座っているミリーから書類に目を通しながら、町郊外で行われてる線路建設を眺めた。

線路建設は順調であり、均一に作られた鋼鉄のレールは寸法通りに組み立てられていく姿に、何も悪い気はしなかった。

ただ、あのレールの上を走るのは豪華な列車ではなく、大砲や戦車などの兵器を運ぶ軍用列車であった…

兵器だけではない、平気を使うための燃料の石油石炭や、弾薬などの火薬等の物資も運搬される。

勿論、それらの物資はカイが乗っている自動車の大型化したトラックなどでも運べるが、より多くの物資を運ぶには巨体な乗り物が必要…

それゆえに、今の情勢を補うには本来平和的運用を目指した列車にも目を付けられるのは必然であった…


そんな事情の為に鉄道事業を進める事に、カイは少し感傷的な目で見ていた。



と、その時であった。



線路組み立てを作業していた工員達から悲鳴が上がり、爆発音が鳴り響いた。

それに気付いたティファはあたりを警戒し、車を物陰代わりである茂みに隠してから車を止めた。


「なんだ?」

「王国の工作部隊ね。ティファ様、カイをお願いします」


ミリーはカイに説明をした後、通信用の魔導具で最寄の軍部隊に連絡し、運転していたティファにカイを護る様に促してから車のトランクに備えていた小銃と弾薬を取ってから現場まで進んだ。


爆破現場では、未だに工員の悲鳴と爆発音が鳴り響き、あたりには焦げた油の臭いで充満していた…

そして、爆発後の焦げ跡からは魔力の残滓が残っていた…


「…爆破魔法による奇襲?」

「恐らくは魔術師部隊による攻撃ですね」


コレットは魔力の残滓を元に、己の能力である探知を使用し、攻撃してきた魔術師達を探した。

通常の者なら難しい探知能力である索敵を、コレットの元聖女の加護である暗殺者の異能により直ぐに察知した。


「見えました。現場より約200m先の林」

「了解。援軍が来る前に始末、狙撃地点に移動する」


ミリーとコレットは未だに攻撃し続ける魔術師達に見つからない様に移動し、線路の丘からギリギリ頭出せる位置まで辿り着いた。


「よし。…弾込め完了。…ボルトのレバー良好。…風力はなし」

「敵、状況確認…準備よし。スコープ、距離200mに設定。何時でも狙撃可能」


二人はうつ伏せになって小銃を獲物の方向に伸ばした後、射撃体勢に入った。


「タイミングはそっちに任せるわ」

「了解。指揮をしている男から殺る。ミリー様は私が撃ち漏らした獲物を仕留める様に」

「了解。3…2…1…」


ミリーが0と言ったと同時に、コレットは息を吸って呼吸を止め、狙いを定めた小銃から火を噴いた。



高笑いしながら爆破命令をし続ける魔術師の指揮官は頭から血の花を咲かせた後、頭に命中した物体の衝撃で勢いよく倒れていった。

指揮官だった男が倒れた事で、残っていた魔術師達は当たりを見渡し、中には探知魔法や結界魔法を使って攻撃してきた者達を探そうとした。

しかし、狙撃を行ったミリー達はそんな魔術師達に隙を与える暇も無く狙撃、特に探知魔法と結界魔法を使おうとした魔術師達を徹底的に急所を狙撃した。


この攻撃に魔術師達は完全に不利になったと分かり、隠れていた全身鎧の盾兵達を林の奥から姿を晒した。


しかし、既に時遅し…

ミリー達の連絡が早く、最寄に待機していた機甲師団の一部隊が駆けつけ、軽戦車の機関砲が盾兵達に向けて放たれた。


「…終わりましたね」

「ええ。カイの所に戻りましょう」


反撃によって攻勢が逆転して敗走する王国の奇襲部隊を余所に、ミリーとコレットは敵に気づかれる事なく戻っていった…





掃討後…


合流を終えたカイ達は、一部生き残って捕虜になった兵達を尋問して詳しい内容を聞いた。


「お前達のような女神の信仰を捨てた血の涙もない悪魔達によって王国は大打撃を受けた!これは女神の力を無視した機械などという道具を破壊する為、お前達悪魔を滅ぼす為の聖戦だ!!」



指揮官の死亡後に部隊を指揮していた男は高々と宣言し、魔力を使わない産業文明を神への冒涜と揶揄した。

しかし…


「だから、どうしたというんだ?祈っても何もしない神などに縋って何になるんだ?」


機甲師団の部隊長は魔術師部隊の指揮官代理にそう言いながら蹴飛ばし、後からやって来た護送用のトラックに捕虜となって生き残った仲間と共に鮨詰めに乗せられ、そのまま連れて行かれた…


「彼らを尋問するのか?部隊長殿」

「いえ、尋問するまでもありません。そのまま収容所に行って貰うまでです」

「そうか…お勤め、ご苦労様。警戒は怠らない様に」

「ハッ!ご協力、感謝であります。キクルス次期伯爵殿」


部隊長がカイ達に敬礼をした後、負傷した工員を治療する衛生兵達以外の兵士達は元居た駐屯所へと引き返していった。



「王国側の抵抗勢力による奇襲は今後もありえるな…」

「私達も更に警戒しておいた方が良さそうね…」



カイとミリーの二人はそう言いながら、魔術師達によって破壊された鉄道のレール郡を眺めていた…

未だに燃えて赤く帯びる鋼鉄の残骸は、夕日と合わさって更に赤く染まっていた…







同時刻…



セントーラ王国の東側では激しい紛争が起きていた…


「うふふふ…文明機器である航空機と頂点種であるドラゴンを相手に無双するなんて…やはり勇者という”神造兵器”は敵いませんこと…」


東にあるとされる最果ての島国、亜種族の中で一番多い種族である獣人族が支配する獣皇国に従えてる黒九尾の狐…

第一航空の師団長アカギは恍惚な表情を浮かべながら、天から無数に放たれる雷によって打たれて燃え落ちる鋼鉄の飛行機とドラゴンの群れを眺めていた。


その雷光の攻撃を放つ人間…勇者セシル・アスモデは無表情で次々と飛行機を破壊し続け、地上部隊の鋼鉄の戦車達を切り捨てていた…


たった一人で、セントーラ王国の地に入り込む敵陣の中を突っ走り、敵である亜種族を殺害し続けた。


その姿を、かつてのセシル・アスモデを知る者が見たら「あの優男に狂戦士ベルセルクが取り憑いてしまった」と嘆くほどの豹変っぷりであった。



「あのセシル様がああなるなんて…」

「これも女神様からの試練なのでしょうか…」


同行していた聖女達はそう嘆きながら、天に向かって祈りを捧げていた…



現在、この戦場に勇者セシルと聖女達の他に、亡き国王の娘である第三王女も参加していた。


「第一王女様は心労で倒れました王妃様の代わりに王城に残っておりますが…」

「セシル様を覚醒させた第二王女様は何処に行かれましたのやら…」


あの空襲後、あの喚き散らしたセシルを叩いて戦場に送った第二王女ティアナは焼かれずに済んだ王城の地下図書館に出向いた後、「私の役目が見つけました。私なりの戦い方をやります」と言い残し、護衛も着けずに一人で城を飛び出した。


王国の兵士達は勇者の護衛と各地の紛争に派遣している中、ティアナの捜索にまで兵を割るわけにも行かず、追いかけることをせずに懸賞金をかけて行方を追う形に留めたが、現在も見つかっていない…



「追いかけたいところですが、今は魔物と亜人族の掃討をしなければなりません…」

「ですね。早くしないと、あの枢軸連合軍の攻撃が…っ!?退避!全軍退避!!」


聖女達の叫びと共に、勇者を除く王国の兵士達は一気に散開して逃げ始めた。

それと同時に、雲の上から巨大な飛行機が姿を現し、胴体の腹部分を開いて爆弾の雨を降らしてきた…



「あらまぁ…痺れを切らしたのですね…これもまた一興…ですわ」


アカギはクスクスと笑いながら、東の術士が使う式神の札を使って身代わりを生んだ後にゆっくりと消えていった…

後に残された獣人達は師団長が居なくなった事に気付いても、退却をせずに突撃していった。


「帝様!バンザーイ!!」


一人の獣人は獣皇の支配者である帝の名を呼んだ後、万歳と叫びながら銃剣を突き立てて勇者セシルに突撃していった。

しかし、セシルはそんな獣人の事を気にせずに切り払って、獣人を胴体真っ二つにした。


だが、その獣人の身体には爆弾が巻きついていた…


胴体真っ二つになって宙に浮いた獣人は、最後の一搾りに爆弾を起爆させ、勇者に自爆攻撃を行った。


盛大な爆発音と閃光の熱がセシルに包み込み、辺りを焼き払った。

しかし…


「どうして…どうしてお前達はそんな非道が出来るんだ…」


勇者の加護を持ったセシルにとって、ただの爆薬による自爆など無傷で済ませる事が出来た。

だが、その命顧みない攻撃は、ただでさえ無慈悲な戦争によって壊れかけているセシルの心を蝕ませていた…





この一時間後、セントーラに侵攻していた東の獣皇国軍は撤退、航空部隊・地上部隊の三割ほど失う結果になったが…

未だに王国への攻撃を緩める事はなかった…






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