21.復讐の華は開花間近…
元婚約者達がキクルス家に来てから三日後…
カイはミリー・ティファ・コレットを秘書としてサポートさせながら執務を行っていた。
「公共事業費の概算要求が高いな…」
「やはり、必要設備に負担掛かっているのではないでしょうか?」
「かもな。今度、有識者を招いて会談してみるか」
カイは書類にサインをし、出来上がった分を纏めた後は席から立ち上がり、他の者達の様子を見回る事にした。
「ユリアーナ嬢。調子はどうかな?」
「おかげ様で、計算は嫌でも覚えましたわ…」
「キクルス家はこんなのと毎日見ているのか…」
ユリアーナとオーギュストの二人は、カイ達の補佐する形で手伝い、先程から廻ってくる書類を片付けていた。
ただ、どちらも実家よりも沢山来る書類に四苦八苦しながらも計算を間違わずに処理していた。
一方、その後ろではルルナとアインが税収などの経理作業を黙々と行っていた。
「ルルナ…うちの実家がこれほど裕福だったら…」
「アイン様、キクルス家の財政は自由には使えないのですよ…」
「そうだったな…」
二人はそのようなやり取りをしながら、再び経理作業に戻っていった。
その様子を確認したカイは二人に「お疲れ様」と軽く挨拶をして部屋を後にした…
屋敷の外に出て、町の外にある草原にてジュディとディック、ミシェルとシグルスの二組がそれぞれ得意分野での訓練を行っていた。
ジュディは同じ騎士団所属だったディックを相手に木剣での稽古を。
ミシェルは魔法学科のライバルだったシグルスの二人で魔法の練習を。
結論から言うと、この二組はユリアーナ達みたいに執政業務はせず、かといってベルフェ・セィタンの連合軍に所属しない形でこちら側に付く事を決めた。
特に、ミシェルとシグルスの二人は魔族国への亡命を考えてはいたが、例え逃げたとしても戦禍から逃れられる保障など何処にも無いと判断したからである。
騎士団とは違う軍隊を指揮する技量もなければ、従来のような剣や魔法、古い銃や大砲の戦い方しか知らない二組にとっては新式の装備や兵器による訓練などは出来ないと判断した上で、自分達や周辺を守る程度の自主訓練を始めた。
(本当は彼女達を無理やりでも亡命させたかったが…文化も違う上に貴族の生き方しか知らない彼女達にはキツイかも知れなかった…ある意味、これでよかったのかもしれない…)
カイは静かに思いながら、カイに気付いた二組から挨拶の礼をされたので、カイも同じく礼をしてからその場を去った。
屋敷に戻り、カイは一人で中庭にある白いテーブルの椅子に座り、昔を思い出した…
クリスとレイアの二人が純粋だった頃の、ミリーと自分を交えた四人と楽しく笑いあったあの茶会の思い出を…
―自分で分かったつもりで、結局は彼女達を見ていなかった…―
カイは自分を責めながら右手で顔を仰ぎながら、静かに泣いた…
そんなカイをミリーは静かに近付き、お茶を入れた後にカイの背後に回ってから抱きしめた。
「…ごめん。酷い姿を見せてしまった」
「泣いても良いんだよ。私達に気にかけていたんだから…」
ミリーの言葉にカイは小さく「ありがとう…」と返した…
と、その時であった…
かつて、クリスが座っていた席に黒い鳥が降り立ち、足に括りつけられた手紙を取れと鳴き続けていた。
カイとミリーは静かに頷いた後、カイが黒い鳥が持ってきた手紙を足から取ると、黒い鳥は霧のように砕け散って消えた…
「…使い魔か」
「手紙はなんて書いてあるの?」
ミリーに促されて、カイは手紙の中を読み始め…顔をしかめた後に言葉を発した。
「今夜0時にて、領境界の橋で待つ。次期当主カイ・キクルス、その従者”ミハエル”の二名のみで来い…ブラウン伯爵当主代行、クリス・ブラウン」
カイは思わず手紙を握り潰そうとしたが、ミリーがすぐさま差し伸ばして止めた。
怒りを抑え切れなかった自分に不甲斐無さを感じながら、止めてくれたミリーに感謝をしながら、冷静になって言葉を発した。
「…この事は父上に話そう」
「ええ。して、この落合時間にはどうする?」
ミリーの問いにカイは迷いなく答えた。
「会おう。そして、問いかけるとしよう」
日付が変わる深夜0時…
カイとミリーは目立たぬ様に黒外套を羽織って、真っ暗な新月の闇夜に包まれた街道を歩いていた。
念の為、コレットを背後に隠れながら護衛をさせる形で付いて来させた。
「こんな時期だから、盗賊に紛れた暗殺者が居てもおかしくないからね」
「そうだね…大丈夫よ、カイ。いざとなったら私が守る」
「それは僕の台詞だよ、ミリー。いくら君があれから力をつけたとはいえ、何時までも守られっぱなしではいけないからね」
カイはそう言いながら、懐に隠し持っていた拳銃を再確認していた。
実戦経験や他の職業スキルがないとは言え、素人よりかは射撃訓練などを続けたカイにとって、執政以外は何も出来ないただの貴族で居る事が出来なかった。
最も、これに限ってはミリーも同じであり、聖女の力を含めた加護を失っても守りたいという気持ちの上で、カイと同じく執務の合間に訓練し続けていた。
だが、今から合う相手はそうじゃない。
現に聖女の候補として選ばれ、選ばれる前から魔法に長けていた元婚約者で旧友クリスとの再会はそんなものは通用しない可能性があった。
その上、剣術が得意な元義妹のレイアも加われば一気に劣勢になる事もありえる。
それゆえに、暗殺者目的以外で護衛を付けたかったのだが…向こうが秘密裏に会うと設定してくるならば話が変わる。
信用せずに相手の思惑を潰せば、自分達の面子にも関わるし、クリス達に何らかの影響を与えて王都に知れ渡れば、主であるニつの公爵家の作戦を潰す可能性もある。
念のために色々と策を練って向かう二人であるが、クリス達が未だにどう出るかが不明な状況で迂闊な事が出来なかった。
そんな風に警戒をしながら街道を歩き、キクルス領土とブラウン領土の境目である川に架かる橋まで辿り着いた。
領境の検問である兵舎は双方の領土側で明かりは消えており、巡回中の兵士以外は中の者達は眠りに着いているだろう…
そんな状況の中、カイとミリーは巡回中の兵士に身分証を見せて声を掛け、無言で敬礼をした兵士に見送られながら橋の中央まで歩いていった。
そして…中央に辿り着いたと同時に黒い渦が巻き起こり、渦からゆっくりと人影が現れた…
「お久しぶりですわ…カイ様」
「こんな形で会いたくはなかったな…クリス」
カイが身構えようと懐に手を伸ばそうとした時、クリスは音を立てずに近付き、強引にカイの唇を奪ってキスをし、同時に扇子の先に籠めた魔力をカイの喉元に突きつけた。
「うふふふふ…以前よりかは勇ましくはなりましたが…まだまだですね」
「…ご丁寧にどうも。僕の口についた君の口紅、拭っても良いかな?」
「駄目ですわ。それは私からの今夜の愛の証…ですわ」
「浮気をしたいのかね?あの男から」
「いいえ。確かに、
「止めてくれ。少なくとも、あのおぞましい光景を見せ付けた君からそんな言葉を」
「あらまぁ…本当にアレを見られてしまったのですね。やってくれましたわねぇ…ミリー?」
そう言いながら、クリスは殺意の眼差しを作りながらミリーの方へと顔を向けた。
一方のミリーは背後から現れたレイアに剣を突きつけられて動けずにいた。
「本当…カイ義兄様と常に傍に居て…男の格好をしてまでそんなに傍に居たかったのかしら?このメスが」
レイアは怒気を籠めながら、ミリーの執事服に剣を突き立てて、上服だけを切り裂いて胸元を開かせた。
中の下着ごと切り裂いた為に隠していた胸が露出し、そのミリーの胸をカイに見せ付けるように仕向けた。
恐らくは二人を性的に屈辱を与えようとしたクリスとレイアであったが、カイとミリーは冷静に対処するように互いに頷き、カイが静かに手を上げて、ゆっくりと振り下ろした。
その瞬間、暗闇の中から銃声が鳴り響き、レイアが持っていた剣が弾かれ、地面に落としていった。
「…!?これは…」
クリスはそう呟いてから銃声の方向に顔を向けた瞬間、ゆっくりと手を上げてからレイアにミリーから離れる様に指示を出した。
クリスが見た方角から数百メートル先の茂みに、狙撃用の小銃を構えたコレットの姿があった。
しかも、射撃を終えたコレットが既に次弾装填済みで構えている事もクリスは気付いていた為、素直に扇子を手放して手を上げて降参した。
「なるほど…キクルス家は凄腕の
「いや、あれでも元は聖女だったんだがね」
「まぁ…暗殺者の特性を持った聖女が居たなんて…セシル様は見誤ったですね」
「少なくとも、お前達には関係のないことだ。あと、お前達を狙ってる奴は俺達やお前達の声が聞こえる道具を持っている。隠し事は無駄だぞ」
カイのその言葉に、クリスは「ふぅ…」と溜め息をついた後、レイアにも手を上げてこっちに来させ、ブラウン領側の茂みに隠れていた弓兵達も下げさせた。
一方、カイも同じくしてコレットに付けさせてる集音魔導具に向けて音声発信の魔導具を起動させた。
「コレット。警戒しながら武装を解除を。但し、相手が妙な動きをしたら撃て」
『了解です、カイ様。あと、増援部隊も到着しました』
「増援部隊も待機させろ。繰り返す、増援部隊は待機させろ。この場は”僕達”しかいないと伝えろ」
『…了解です』
カイの指示に了承したコレットは通信を遮断した。
それを確認したカイは服を破かれたミリーを此方に引き寄せた後、改めてクリス達の方へと顔を向けた。
無論、その光景を見たクリスは笑みを浮かべながらも血が出るほどの握り拳を作って震わせた。
「…本当に、憎らしいですね。貴方達は」
「嫉妬なら、”勇者が魔王討伐を終えた”なら幾らでもしてもいいぞ」
「そのような機会が来るのでしょうかねぇ…」
「なんだ、あの男を信用していないのか?」
「ええ…貴方達の計画を知ってしまえば…あの方の最後は恐らく惨めな最後を迎えるでしょう。王国全土にある女神教の教会及び総本山の教都への爆撃計画、ベルフェ・セィタンの二連合による王都への陸空総攻撃計画。そして、二連合と穏健派魔族による亜種族連合軍による合同魔物掃討作戦計画を」
「使い魔以外の情報がそちらに流れてるみたいだね…一度、派閥に属してる貴族達を調べ上げるか」
「その必要は御座いませんわ。こちらにその貴族の名簿が載っておりますのでお渡しします」
クリスはドレスのスカートにあるポケットから封書を取り出し、カイに手渡してきた。
カイはその封書を受け取り、初級の明り魔法を使った後に開封して中身の手紙を確認し、明り魔法を解いた後はその手紙を元に戻してミリーに持たせた。
「中身を確認させて貰った。後日、こちらで”整理”をさせて貰おう。して、君は一体何しに僕達を呼んだ?ただ、敵にエールを送るために国や勇者を裏切るつもりではないだろうな?」
「…違いますわ。遥か東の国で起きた武将の言葉を借りますなら、敵に塩を送っただけ…ですわ。勿論、それなりの見返りを求める上でですが」
「ほぅ…では、その見返りとは?」
カイがクリスに質問をぶつけた時、クリスは両手に魔力を込めると同時に地面に落とした扇子とレイアの剣を拾い、レイアに剣を渡した後にカイに向けて扇子を突きつけた。
「私、ブラウン伯爵当主代行クリス・ブラウンはキクルス伯爵次期当主カイ・キクルスに応じ願います。我々ブラウン領に対しての一切の軍事行為による不可侵の約束をする事をお願い申し上げます」
クリスのその言葉に、カイは静かに…そして鋭い眼差しで相手であるクリスを見て口を開いた。
「…前当主殿はどうされた?」
「我々の手で処断しました。あれだけのアスモデ家の恩赦を受け、取り潰されたベモンド男爵領を受け取ってもなお腐敗しきった政治手腕で領民を駄目にするような無能は、例え実の親でも許しがたいものでした。故に…」
「殺したのか…」
「いえ、追い出しただけです。もっとも、平民である領民がそれを許すわけでは有りませぬが」
「なるほど…追い出して見殺しに…ところで、使用人として雇っていた例のベモンド家はどうされた?」
「あら…ブラウン家との交流を断絶して情報が入らないと思っておりましたのに…」
「生憎だが、イライザ母上の地獄耳は君でも知っているだろう?」
「そうでしたわね…新しい職場を与えましたわ。ああ、別に変な意味では御座いません。少々、役所の真似事を始めまして…その人員として再雇用しました。ただ、あの浮気男であります元ベモンド男爵当主は”行方不明”でございますが…」
それを聞いたカイはミリーを一瞬見てから、再びクリスの方へと顔を向けた。
家族に対して未練はないとはいえ、ミリーの父親である元ベモンド男爵も裏で処分した事に、クリスの容赦ないやり方に更に警戒をした。
その一方、クリスはカイ達に緩和するように扇子を広げて口元を押さえながら話を続けた。
「そう警戒は為さらずに…悪い話では御座いませんので」
「本当に、君は変わってしまったな…昔の君なら、そんなことすら躊躇するほどの優しさがあったのに」
「人は変わるものですわ。私はあれ以来、王都の穢れと言うものを、人間の穢れと言うものを見てきました。確かに、私とレイアはあの方に魅了され、洗脳されるような肉欲の快楽を味わいました。しかし、それは時が経つと共に快楽が薄れて行き、やがては渇望を求める様になりました。同時に、あの方が私達よりも更に美しい高貴な女に溺れ、肉欲を満たす光景に、私達の渇望はあの方では癒せないと断じ、今まで快楽の余韻を引き立たせる香草を頼りながら娼館の主として君臨しました。しかし…」
「結局の所、中央の権力抗争に中途半端に負け、あの男からはただの女コレクションの一つとしか見られない事に気付いたから、よりを戻したいというわけか…違うか?」
カイの冗談にクリスはクスッと笑いながら殺意を篭った眼差しでカイを見つめた。
同時に、それに気付いたミリーはすぐさまカイの前に出て庇う姿勢を見せた。
「警戒する必要は御座いませんわ。私も未だ準備中ですので…ですが、ああ…何故…私はそこの女と同じく男に抱かれて穢れてたのに…何故お見捨てになったのか…何故助けて下さなかったのか…貴方が貴族の性として、保身に走ったのかと思う度に、貴方への憎悪と愛情が湧いてくるのです…ゆえに…私は貴方を殺す為の準備をしたい。貴方は工業という既に強大な物を手にいれ、私程度の聖女の力など蹂躙するほどの力を得た…だからこそ…」
「つまりは、僕達の決着を付けるための時間を貰う為に、ブラウン領土への不可侵が欲しい…と?」
「そういうことですわ。だって…」
クリスはそういいかけて、右手に籠められた魔力の光を上空に上げた時、ブラウン領側の茂みから松明の光が灯ると共に、金属で出来た大型のゴーレムがゆっくりと歩いてきた。
「私も、少々ながら魔導を使った工業力を得ましたので」
それを見たカイは通信の魔導具を使い、音声を飛ばした。
「コレット、後方で駐屯している戦車部隊に連絡入れろ。あと、対岸の警備兵に明りを」
『了解。直ちに連絡を入れます』
カイの通信により、キクルス領側からサイレンが鳴り響き、対岸の警備兵は一斉に起き上がって配置に付き、茂みに隠れている
無論、橋の近辺の住民にも警戒心を与えると共に待機していた戦車部隊も一斉に川の対岸まで駆けつけ、向こう岸で立っている金属のゴーレムに向けて砲身を構えた。
一連の行動が終わるまでの時間をカイは持っていた懐中時計で時間を計り、完了したと同時に呟いた。
「サイレンを鳴らすまで30秒…探照灯の照射まで1分20秒…戦車隊の戦闘体勢までの時間が発令から約2分50秒…既に僕達は死んでいるな」
「…カイ様。まさかとは思いますが、一般の兵にそれを求めているのですか?」
「当たり前だ。兵は鉄の血でならねばならない。強大な化け物を倒す為に、統率された兵の群集にならねばならない。
カイは言葉を続けながら手を振り上げ、そして…
「容赦はしないだけだ」
振り下ろした時、戦車の砲から火が吹き上げ、向こう岸に配置されたゴーレムの群れを一撃で破壊尽した。
魔法障壁等による、ある程度の通常兵器への対策は取っていたとはいえ、金属のゴーレムが一撃で破壊された事にクリスは驚きを隠せなかった。
「
「魔族国から産出する
カイの言葉に、余裕を見せていたクリスに焦りが出始めた。
まさかの反魔法の物質にまで手を出していた事…
完全に容赦はしない意思を示された事に…
一方のカイは、力を示すとはいえブラウン領土に砲撃した事に気付き、その対応に苦慮していた。
「…派手に軍事的行為をしてしまったな」
「ブラウン領に反乱分子によるテロ行為があった上で、我々キクルス領の兵団がブラウン家の支援要請を受けて鎮圧した…これで良いのでは?」
「そうだな…それでいこう。当主代行殿はそれで宜しいですかな?」
ミリーの案を使って問いかけるカイに、クリスは考え込むのを止め、扇子に力を込めながらも落ち着いて対応し始めた。
「…王国への報告はそういたしましょう」
「お願いしよう。双方の名誉の為にもな」
「ええ。それと…改めてお願いがございますが」
「ああ、君の言う我が
「ええ。あくまでもキクルス家と我がブラウン家の間の不可侵。二つの公爵家からの侵攻は対象外に致します…」
あくまでもキクルス家がブラウン家の領土への侵攻はしない代わりに、ベルフェ・セィタンの二公爵からの侵攻は対象外とクリスは宣言した。
個人の家同士に戦争での侵攻はないものの、連合軍としての侵攻はありえると示唆したようなものだ。
無論、これはクリスの本意ではない。
本来ならば魔導兵器を見せて連合軍への不可侵を約束を謀ろうという考えであったが、魔導兵器どころか勇者と聖女への有効兵器を作り上げた事に、先程の約束が結ぶ事が出来ないと分かった為だ。
はっきり言えば無意味とも言える宣言ではあるが、やはりかつての思い人によって真っ先に討たれるのは御免被るもの。
それゆえに、カイの実家であるキクルス家が侵略しない程度の宣言が欲しかった。
勿論、カイはそれを知った上で改めてクリスに問いただしたのだ。
「分かった。我がキクルス伯爵家はブラウン伯爵家の領土に侵攻しない事を改めて宣言しよう」
「…寛大な措置に…感謝致します」
カイに譲歩されたという形で約束を交わされた事に、クリスは苦い思いをしながら受け止め、その怒りを持っていた扇子にぶつける形で圧し折り、カイとミリーに対して睨みつけ、レイアに支えられながら魔法陣を展開した後に転移して去った。
残ったカイとミリーは溜息を付きながら、駆けつけた兵士達に匿われながらその場を後にした。
「これで僕達も逃げられんな…」
「うん…」
カイの言葉に、ミリーは頷くのみしかなかった…
ブラウン領側で未だに燃え続けるゴーレム達の残骸を後にして…
カイ達とのやり取りの一方で…
魔族国内で最大の都市で穏健派が集う大都市ドレスデンにて、ベルフェ家とセィタン家の代表と穏健派の代表と深夜遅くまで会談を行っていた。
「聖女の一部が我々の計画を知っていたみたいですな」
「多少の報告をされた所で、神に縋る連中の耳には届かんよ…」
セィタン家の代表のルーデルはセントーラ王家に対して愚痴りながら、妻であり副官の一人である竜人の女性ウルスラに酌を受けていた。
「だが、油断はされない方が宜しいですかもな。閣下」
カイの兄であり、ベルフェ家の代表のベルトーラの夫オイゲンはルーデルに進言しながら、妻であるベルトーラが悩みながら書面とにらめっこしているのに気がかりしていた。
その時、ベルトーラの使いである執事が通話の魔導具が鳴ったと受け、魔導具を受け取ってから通話をはじめ、そして更に渋い顔を作って言葉を発した。
「カイ様がブラウン家の令嬢と密会を行い、その場で互いに威嚇を行ったらしいですわ」
「なんと…!?」
「待ってくださいまし。仕掛けたのは向こう側で、何でも魔導工学を使った金属のゴーレムを配備され、起動までされたとの事ですわ」
「ふむ…あの愚弟が…」
「貴方怒らないでください。他にも、脅しも受けていたとの事。工作隊から、キクルス領内にて暗殺者が多数発見されたの事ですが全て撃退。ならびに、件のゴーレムの撃破と共にブラウン家との不可侵を結んだとの事ですわ」
「家族を守る為にか…件のシャックス元侯爵の娘の事で色々調べていたのに」
「それを調べるのが我々であろう…全く、あの小僧はやってくれるな。やはり、俺の目に狂いはなかったな…」
「本当なら、こういう汚れた仕事はあの子には背負わせたくはないんですがね…」
「貴族として生きるならば当然であろう…それに、いずれは統率せねばならんからな…さて、貴殿等の方はどうなっている?」
ルーデルの問いに、穏健派の亜種族の代表の二人が動いた。
「さしずめ、計画通りに動きましょう。我らの主様はそう望まれております」
東洋の衣装を着こなす黒の九尾狐の獣人女性、アカギはクスクスと笑いながら副官である白の九尾狐の女性を愛でていた。
「そうだな。畜生以下の魔物に落ちた同胞を駆逐する機会でもあり、人間の古き慣習を棄てる機会も得た。これを逃せば女神の一人勝ちだ。ゆえに、我ら不完全な亜種族は貴殿等と共に命を差し出そう」
黒の軍人服を着こなす頭部に羊角を生やす男性、ビスマルクは決意の眼差しを二つの家の代表に向けて立ち上がった。
そして、人間側の代表側であるルーデル達も立ち上がり、胸元に右手を当てた後、右手を水平に伸ばした後に斜め上に掲げた。
「我ら、赤き鉄血で結ばれた
『ジーク・ハイル』
開戦まで、残り二日を迫っていた…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます