13.閑話:腐敗する果実 ■
アスモデ公爵家の次男セシル・アスモデが勇者の選定を受けてから一ヶ月。
王都にも冬の到来を訪れを告げる雪が降り始めていた。
王都では以前と変わらず人の往来が絶えないでいたが、大通りから見えない路地裏などでは王国の暗い影が見え隠れしていた。
王国内にて農作物の不作に続いて輸入品の高騰化により、店の経営が上手く行かずに倒産して失業する平民が出始め、家等の家財を売り払って路頭に迷う商人や職人などの平民が増え始めていた。
その上、王家と当代の勇者を輩出したアスモデ公爵家に擦り寄る貴族達が恩恵を得る為にこぞって貢物を始め、そのための税を徴収する為に平民に税を重く課せている事が多くなった。
その為、王都にあるスラム街などの下町にある娼館に身売りする女性や口減らしで連れて来られた少年少女が働く事が珍しく無くなった。
そんな娼館の一つとして新設された場所に、クリス・ブラウン
現在の彼女は娼館の主として、聖女認定として連れてこられた平民の女や子爵よりも低い男爵身分の令嬢を娼婦として働かせ、身分の高い貴族や豪商の中高年男性向けに相手をさせた。
無論、何日かに一度はセシルが訪れ、その時はクリスがセシル専属の娼婦として出向き、その日一日はセシルの寵愛を受ける事になった。
娼婦の主として働く彼女でもあるが、聖女の力は依然として衰えを見せず、選定を受けた時よりも力を増していた。
女神とは違う、アスモデ家の祖となった悪魔…肉欲のアスモデウスの加護によって…
今日もクリスは娼館の売り上げとして上がった帳簿を見ながら、媚薬の香草を混じえた水煙草の煙を吸っていた…
「お義姉様?まだお勤めですか?」
「レイア、そちらも終わったのですか?」
かつてのカイ・キクルスの義妹で現在はクリスの義妹になったレイア・ブラウンは、艶めく輝く魔獣の黒皮で出来たスパンコートドレスを着て義理の姉となったクリスに抱きついた。
現在のレイアはクリスの補佐で娼館の副主として君臨し、自分の気に入った女を調教する調教師して働いていた。
しかも、彼女の調教は特殊で、レイアと一晩相手をした女は心が壊れて快楽落ちしてしまう事が多かった。
無論、男の扱いも得意になっており、お得意様には特別コースとして前以外の穴を提供する事があった。
そして、セシルが来店した時は義姉のクリスと共に性の寵愛を受けていた…
快楽に溺れて堕落した二人であったが、一ヶ月前の時と比べれば少し落ち着きを見せてきた。
最初の一週間ほどは毎晩セシルに抱かれていた二人であったが、今現在は数日置きにセシルが抱きに来るぐらい頻度が落ちていた。
原因として、クリスとレイア以外に気にいった女が増え始め、その女達も同じく娼館を新設して働いたり、アスモデ家の下女として働く事が増えた為、必然として抱かれる回数が減ってしまった。
いくら一晩20人ほど相手しても倒れないセシルでも、100人もの愛人を作れば頻度は下がる。
そのため、セシルの勇者の力である魅了の力による洗脳が薄れ、少し我に返る事が多くなった。
そして、自分達がセシルの魅了によって洗脳され、聖女に選ばれなかった女達への強姦などへの幇助の悪事や今行ってる娼婦として働かせる悪事を行ってる事を自覚していた。
しかし、それでもクリスとレイアはセシルの下に付く事を選んだ。
自分達を女としての享受を与えてくれた事と、ミリーに対する嫉妬による憎悪の感情を解放させ、カイに対する愛憎の感情を作らせた事に。
「本当…セシル様は女を手玉に取られるのがお得意ですね…アスモデウスの生まれ変わりではないでしょうか」
「クリス義姉様?」
「
「クリス義姉様…」
狂気に満ちた瞳と笑顔で語るクリスに、レイアもまた狂気の瞳を宿しながらクリスの体を擦り寄らせていた。
「半月前、私がセシル様と共にカイ様との婚約破棄をした事を覚えてますか?」
「ええ。カイ兄様とお母様から冷静に見捨てられた事は確りと覚えてます。さすが、貴族らしい対応でした」
「貴方にとってはそう感じますでしょう。ですが、私はもう一つの感情があの時にありました。もしも…もしもカイ様が私との婚約破棄に戸惑い、セシル様に頭を下げて止めてくださるのではないかという、砂漠の中に落ちた針を探す程度の希望はありました…なのに…フフフッ、カイ様は生き延びたあの女を男として家に招き、そして後ろに立たせていた…これは滑稽と言わざるを得なかったですわ…!アハハハハッ!!」
クリスは既に知っていた。
ミリーがキクルス家まで生き延び、キクルス家の養子として髪の毛を切り、男物の執事服を着てキクルス家の次期当主になるカイを補佐する為に働いてる事に。
あの婚約破棄との手続きの時、男装したミリーの事を興味を無い程度に扱っていたが、内心は憎悪の炎で満ちていた。
だが、あの時はセシルの顔に恥と言う名の
ゆえに、その憎悪の炎は自分の身分よりも低い物に当たる事にし、セシルへのお願いとしてミリーの実家であるベモンド男爵家を不正に働いたという虚偽の証拠を元に領地を没収させ、ブラウン家に婚約の恩賞としてベモンド領の吸収と爵位を上げるように頼み、ブラウン家を子爵から伯爵に上げることで炎を沈静化させようとした。
しかし、それでも彼女の中にある憎悪の炎は消える事がなく、今でもその炎の感情への八つ当たり対象として身分の低い者への調教という名の虐待と強引な客引き接待を行わせる事で解消を図ろうとしていた。
まだ歳が20にもなっていない彼女であるが、半月に及ぶこのような生活によって貫禄化し、以前の大人しい淑女な少女から妖艶でどす黒い感情を持つ大人に変貌していた。
レイアもまた、クリスほど口数は少なく行動も控えめであったがクリスと同じく少女の成り立ちから妖艶な大人になってしまった。
ただ、この二人に関する共通点を上げるならば…魅了の力によって憎しみに焦がれながら快楽や富に溺れつつも肉体の美だけは絶やさなかった。
セシルの好みは完全な美を持つ者で、バランスの良い体系を保ちつつ鍛えられた身体を求められていた。
ゆえに、クリスとレイアは食事に関して一番気をつけており、今の体系を維持する為にも経営の合間に身体を動かす事も忘れなかった。
その上、あと二ヵ月後に行われる七十二侯爵家の上級貴族の令嬢達を交えた聖女の最終選別によって、魔王討伐への出陣メンバーに選ばれる為にも体力の増強も捗っていた。
しかし、クリスとレイアみたいに溺れながらも努力を怠らなかった者もいれば、セシルの寵愛とアスモデ家の権力と富に溺れた下級貴族令嬢と平民の聖女候補もいた。
特に貴族令嬢は酷く、中には富による飽食を行った結果、醜悪な養豚と言える肥満体系になった聖女候補もいた。
無論、そんな聖女候補をセシルが見るわけがなく、アスモデ家の縁のある場所へと飛ばされ、寵愛の対象から外された。
逆に、クリスとレイアみたいに能力的に優秀で、その上美貌に追求する者にはアスモデ家の管轄の事業を任される。
つまり、クリス達は魅了されながらも勝ち馬に乗る事が出来、その上で追い落とされない様に必死になっていた。
ただ、クリス達の汚点を上げるならば…セシル・アスモデがあまり賢くない事であった。
確かに、セシルは女を手玉に取る事には天才であったが、資産などの運用の仕方があまり分かっていなかった事だ。
これはアスモデ家自体の問題で、優秀すぎる事で有名なアスモデ家長男で次期当主のシャルル・アスモデに押されて、セシルに対する教育を疎かにしていた。
これにより、セシルは女遊びが大好きなドラ息子として扱われ、アスモデ家からは期待されてなかった。
しかし、今回の勇者の選定によりセシルが選ばれた事でアスモデ家内部では混乱が生じ、まともに教育していないセシルに対して待遇改善をせざるを得なかった。
セシル自体も、自分があまり知恵が回らない事は自覚しており、その上でクリス達のような”仮にも最終的に聖女に選ばれなくても使える部下”として傍に控えさせる事で自分の立場を確保していた。
それゆえに、完全に無能と判断した者には容赦なく切り捨てる形でセシルは聖女候補の女達を次々と魅了して抱きながら、アスモデ家の為に洗脳して手駒を集め、優秀な者は寵愛と権力を与えて動かす方法で力をつけていた。
このまま行けば、アスモデ家から出て侯爵あたりの上級の爵位を頂くのもあり、あるいは勇者の武勲として上げればまだ婚約発表されていない王家の第二王女と第三王女のどちらかを頂き、王家入りするのもありえる打算をセシルは考えていた。
ただ、クリス達を含めた一部の聖女候補達はそんな甘い考えを持っていなかった。
最初はセシルにさえ付いて行けばいいと洗脳されていた時はセシルを第一優先に考えていたのだが、国内外から徐々に入ってくる情報を知る度にセシルの描く夢物語への実現は段々と消えていった。
特に、カイの実家であるキクルス伯爵領を筆頭にベルフェ家に属してる貴族とセィタン家に属してる貴族が結束を固めて反セントーラへの準備を行い始めてる事…
亜種族で一番の勢力を持つ魔族国の中で過激派達が決起を起こし、亜種族を迫害を行ってる人間の国々に戦争を起こそうと準備を始めてる事…
そして、魔王の活性化によって魔物達が活発になり、各地で暴れまわっている事…
三つ目の魔物の活発化への対処は前騎士団長ルーデル・フォン・セィタンが去った騎士団でも出来ていたが、度重なる戦闘で負傷者が増えて戦力が徐々に落ちていた。
そこでセシルが王家に出した提案が自分の手元にある聖女候補の女達と騎士団を交えた聖女隊を新設する事を提案し、王家とセィタン・ベルフェを除く貴族達全員が全会一致で可決し、設立をした。
実際はセシルが不要として切り捨てた聖女候補達を部隊送りにした結果、通常の癒し手や魔法使いよりも遥かに性能が良い事が分かった上で、左遷送りにしていた。
最も、送られた後も残ってる下級貴族と平民だけで200人以上も居り、クリスとレイアは前出通りに優秀であった為に前線送りは避けられていた。
ただ、前出の二ヵ月後の聖女選別によってはクリス達も立場も危うい為、万が一の保険として自分達の私財を少しずつ蓄えて、いざと言う時は自分達の手で乗り切る覚悟も持っていた。
勿論、魅了洗脳が薄れかかってる現在もセシル第一であるが、万が一の事を考えればクリス達も保身に入る次第であった。
(結局、私自身も貴族の屑なのは分かっていますわ…けれど、もう後戻りは出来ない…)
クリスはそう覚悟しながら、後からやって来たレイアと共に帳簿の経理を行い続けた。
その合間、クリスはふともう一つの思い出を思い出して、レイアに問いかけた。
「そういえば、レイア。私がカイ様と婚約を結んだのは何年前でしたっけ…?」
「…10年前ですね。カイ兄様が8歳の時に、クリス義姉様と婚約をされましたね」
「そうでしたね…ですが、あの時から既にあの女はカイ様の傍に居た…貴方が5歳の時にあったキクルス伯爵様とイライザ様が再婚なされた時も既に居た…」
「つまりは、私達は最初から負け犬だったのですよ…」
レイアがそう答えると同時に、二人の手は激しく握りながら震わせ、爪を食い込んで血を流しても怒りを震わせていた。
それだけ、ミリーに対する憎悪が激しかったのだ。
そんな矢先、クリスが居る部屋の扉からノック音がなり、扉から従業員である男娼が入ってきた。
「クリス様、宜しいでしょうか?」
「…なんでしょうか?」
「先日、キクルス領にあるフリーデンに派遣された第20聖女隊が帰還されましたが…」
「して、結果は?」
「…何も成果を得られずに帰還。帰還理由がルーデル・フォン・セィタンが在中していたとの事です」
「そうでしたか。あと、例のアレらは?」
「対処も出来ずにいた上、ルーデルの威嚇に恐怖を抱いて騎士団の前で粗相したとの事です」
「呼び戻しなさい。あの三人には調教し直します。代わりに別の者を派遣すると騎士団に伝えなさい」
「既に手配済みで例の部屋に隔離しております。行かれますか?」
男娼の問いにクリスは下衆染みた笑みを浮かべ、傍に居たレイアと共に黒いハイヒールの音を立てながら男娼を先導させて歩いていった。
戻ってきた聖女候補である平民出の下女達は、嗜虐好きな客用に作られた部屋にある吊るし鎖に拘束され、下着姿のまま宙吊りにされていた。
「ひっ!?ク、クリス様…ギャンッ!?」
リーダー格だった女は、クリスの持っていた馬用の鞭で顔を叩かれ、鞭の勢いにすりむいて血を流していた。
一方の叩いたクリスは凍えるような眼光で女達を見つめ、無言で女達の顔や体を鞭で叩き続けた。
クリスの後ろに居たレイアもまた、案内役の男娼に下男を呼ぶように指示を出した後下がらせ、クリスの鞭によってボロボロになった下着を剥ぎ取り、大事な所が見えるように身体を広げさせた。
「レ、レイア様もお許しください!私達は…!!」
「まず、謝るお方を間違っているでしょう?貴方達はセシル様に選ばれた人間。その選ばれた人間が例えどんな恐怖が交えようとも耐えるのが主への勤めであり、忠義でもある。その忠義を忘れた上に粗相を晒すなどと言語道断。なので…貴方達には再教育をしてあげます」
レイアが言い終わった頃に、娼婦館で働く下男達がゾロゾロと部屋に入ってきた。
「クリス様。お呼びですかい?」
「貴方達、彼女達を可愛がって上げなさい。それと、もしも死にそうになったらセシル様の血液で造られた薬を飲ませなさい」
「へいっ!お前達、ただで出来るんだぞ。用意はいいか?」
下男のリーダー格が呼びかけると、下男達は一斉に作業服を脱いで、宙刷りになって悲鳴を上げる女達の下へと近付いていった。
そんな下男と女達の様子を、クリスとレイアは世話役の下男に用意された椅子に座りながら、次の手を考えていた…
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