第4話ハッピーバイトエンド?!


「———おい、起きろ。馬鹿享」


「……沢村?」



 次に金田が目を覚ますと、バックヤードのソファに寝かされている状態だった。ああ、あのまま倒れてしまったのか……と、軽く先ほどの出来事を思い出しながら起き上がると、近くの椅子に座っていた沢村が彼のおでこを軽く小突く。



「バイトは睡眠が命だって言われてるだろ、夜更かししてたのか?」


「っ、いや、浜田サンのことが気になってなかなか寝付けなくて……」


「はぁ、なんだよ、連絡先交換する夢でも見て緊張したのか?それとも諸星さんが女とは知らずに恋愛対象だとでも思いこんでた?彼女からの告白で、彼のことが好きなんです~って言われたりでもしたか」



 スパスパときつい切り口で浜田と会話を続ける沢村は、ペットボトルの水を手渡しながらもう一度椅子に座りなおす。



「なんか内容が具体すぎて怖いな、エスパーかよ……まぁその通りなんだけど……って、沢村、諸星さんが女だって知ってたのか⁉」


「ん、まぁ」


「なんで黙ってたんだよ!」


「いや、面白かったから……で、どした?」



 いや面白いって人をなんだと————ともやっと来た金田だったが、瞬間真剣な表情で向き合う友達に対し、こいつはずるいと思うとともに、涙腺が軽く崩壊しそうになった。



「沢村ぁ、俺浜田さんに、コンビニを恋人にしたいって言われたんだよ、これってもう脈無しだよな⁉」


「……どうだか」


「無理だよなぁ!?」


「———じゃぁ、金田はそれであきらめるのか?」



 何か意味ありげに、沢村がそう切り返す。その瞳の鋭さに一瞬詰まりかけたが、金田はかぶりを振って大声で叫んだ。



「いや、あきらめはしない! 連絡先を好感して、もっとかっこよくなって、コンビニ寄り合いされるようになる!」



 一度は泣きそうな表情だったのが、一気に闘志に燃える金田に、沢村はふっと口元を緩めた。



「だってさ、浜田サン」


「⁉」


「あ、どうも……体調、大丈夫?」



 沢村の呼びかけに固まった金田が見たのは、バックヤードのドアからひょこりと顔をのぞかせた浜田だった。羞恥心に一瞬で顔が赤くなる金田だったが、すぐにこれが沢村の策略であることに気が付き叫ぶ。



「沢村!」


「まぁ、ずっと片思い頑張ってたし、これくらいのサポートあってもいいだろ。ちなみに俺は監査来るのも知ってたし、浜田サンがコンビニが好きなんてことを言った意味も分かってるけど。じゃ、邪魔者は退散しま~す」


「沢村ぁ‼ ……ありがとよ‼⁉」



 先ほどの出来事を聞かれていたという事実に沢村に対し怒りがわいてきたが、それもなんだか自分のためだったという意味深なセリフを残して消えていく彼に対し、金田はいまいち怒れないな、とため息をついた。



「はぁ、ごめん浜田サン、うちの友達が」


「あ、沢村君だよね? 私も知ってるよ……それに、金田君の体調も気になってたし、ちょうどよい機会だったというか……」


「よい機会?」


「!」



 聞き返すと、浜田の顔が一瞬で染まったので、これは何かあるのか? と金田は首を傾げた。そういえば、さっき沢村が浜田さんのコンビニ好き宣言の翻意を見抜いたと言っていたが……



「どういうこと?」



 金田が疑問を浮かべながらそう問い返すと、浜田はなぜか顔を赤らめて、スマホを差し出した。



「あのね、私、金田君と一緒にバイトする空間も好きなの。ほ、ほら、コンビニを愛するうえで、やっぱレジ係のパートナーは一緒のほうが心地よいというか⁉」


「なるほど、……?」


「だから、連絡先交換してください! 後、これからも一緒に働きませんか……?」


「え? あ、ハイ……⁉」



 金田がその意味を理解するころには、お互いの顔は真っ赤に染まっていた。連絡先を交換、さらには自分の思いを知ってもらったうえで、コンビニのバイトのパートナーとしてこれからを望んでくれている。ここまできてようやく、金田は先ほどの浜田のセリフが照れ隠しであることにようやく気が付いた。


 しかしその種明かしをする勇気はないので、彼女の設定に乗っかったうえで会話を続けようと試みる。が、うれしい気持ちが競りすぎて、実質答え合わせをしているのではないかというほどまで確信に近いことを口にする。



「それはつまり、俺が浜田サンからコンビニっていう恋人をとっていいって意味……?」


「っは、ハイ!」



 動揺しながらも、確かにうなずく浜田を見て、金田はようやく長きに渡しる恋が実った瞬間を実感したのであった。









『あ、今日はなんだか暑いね』


『は、クーラーきいているはずなんですけどね……!』


『水、飲む? さっき沢村にもらったんだけど』


『いいよ、金田君がのみなよ』


『じゃぁ、なんか好きなジュース一本奢ろうか? 迷惑かけちゃったし……』


『え、大丈夫だよ————//////』




 そんなドア越しからのくぐもった声を、耳をぴったり張り付けながら聞いていた沢村は、ふうと一息ついてから立ち上がった。



「あ~ようやく連絡先交換しましたよ、チーフ」


「はは、あの二人は何かにつけて不器用だったからね。金田君の背中を押してくれてありがとう、沢村君」



 同じく耳をつけていた諸星も立ち上がって笑みを浮かべる。その顔には



「いえ、こちらこそ。浜田さんもなかなかガード固いですからね。最初はほんとの脈無しかと思ってましたよ」


「お互いくっつけさすのには苦労するねぇ、はは」


「ですね。ははっ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コンビニレジバイト、今日もうまく話せない……大好きな人についての憂鬱 成瀬 栞 @naruse-siori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ