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〇NGカット


『禁断の惑星エグザビア』という映画がある。

基本的には凡庸な映画だ。

エイリアンと物体XのちゃんぽんのようなモンスターSFなのだが、クリーチャーのデザインも(幼体時の蛹の造形は悪くない)、主人公も、ストーリー運びも、便乗元にははるかに及ばない出来である。

脇役も酷いもので、主人公がレーザー殺菌処理が必要なラボに入っていきなり出くわすのが、血まみれの白衣を着てやたら咳ばかりしている研究者という出オチギャグとしか言いようがないヤツなのである。

食事中も血まみれ白衣のこの科学者が、クリーチャーによって異様に変容させられた同僚の死体(この造形も良い)を医療室だか分析施設だかに一人で運んで行った時は、確実に次の犠牲者になると確信した。

しかし、そうはならなかった。

それどころか、こいつはこの映画で最もまともで勇敢な人物だったのだ。

他の生物の遺伝子情報を取り込むというクリーチャーの生態を利用して抹殺するために、自らの肉体を蝕んでいたガン細胞(咳はこの伏線だったのだ)を肝臓ごと麻酔無し切開手術で主人公に取り出させて息絶える科学者の姿に、浅井は嘘偽りなく感動した。

「なぜあえてB級映画を見るのか」と理由を尋ねられた際、答えた内容に嘘はなかったが、あえて口にはしなかったことがある。

浅井がB級映画を見るのは、実はこういう思わぬものとの幸福な出逢いを求めてのことなのだ。

どんな酷い映画にも、ひとつくらいは美点がある。

設定の妙、印象的な台詞、やけに気合が入っているSFX、記憶に残る脇役…。

例えるなら、その映画を1000倍の予算と才能あるスタッフで作り直すとしても、そこだけはそのまま残す価値があると確信できるもの。

そういう予想外で密やかな輝きと出逢うのが、浅井には何より幸福なのだ。

これは浅井という人間の、かなり根幹に触れる繊細な部分であり、小っ恥ずかしくておいそれと他人に教えられる性質のものではない。


でも。

もしかしたら、沼さんには、いつか聞いてもらう事もあるかもしれない。

沼さんなら、浅井の気持ちを理解してくれるような気がするから。



〇使い所がなかった、棒読み日本語吹き替え忍者・服部の台詞集


行くぞ!散れ!

旋風斬りだ!

連続斬りだ!

飛び斬りだ!

覚悟しろ!

逃げ延びたな!?

さらばだ!

散らばって探せ!

お前は先生に負けたのだ

もう先生と戦う資格はない

死んでも…言わない…

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