其の陸 ガチンコ妄想バトル
「
拙者は、語尾を
充真と交わす妄想トークは常に刺激が強く、授業では得られない
たとえば、二人の連携で具現化を変態させる「合体妄想忍法」や、女性のインナーウェアを妄想力で解き明かす「下着問答」など、新術の開発から紳士の
「確か、曲がり角でパンツを
拙者が楽しい未来に思いを馳せていると、現実を突きつけるように本鈴が鳴った。
教壇には、すでに担任の仲尾先生が気配もなく立っている。
「起立、妄想、着席!」
チャイムの鳴り終わりに合わせ、日直がいつも通りの
続いて出欠の確認だ。仲尾先生が
「
「はい」
「ロリータ大杉ちゃん」
「いやん」
「
「にんにん」
迷惑な話だが、仲尾先生は生徒たちの名前を「ちゃん付け」で呼ぶ。そして一人称は、大柄な男でありながら「あたし」を使う。
つまり先生は、
しかも流派は
「はぁい、本日の欠席者はナシね。それじゃあ皆さん、元気よく校庭に向かいましょう!」
仲尾先生が、胸に提げたホイッスルでピピィーッと合図する。
生徒たちは
これから「妄想コンテスト」の緒戦が行われるのだ。
それは全校生徒が一堂に会し、学年ごとに一対一で競い合う実地テストだった。中間試験は筆記のみだが、期末のそれはガチの妄想バトルである。
拙者は中間試験で高得点を収めた成績上位者だ。しかし、うかうかしてはいられなかった。座学と実技では、圧倒的に後者の配点比率が高く、内申にも大きく影響するからだ。
気持ちを引き締める必要があった。拙者だけ黄色いトラックスーツで浮いていたが、今は恥ずかしがっている場合ではない。
「パンツを被って落ち着けば恥ずかしくはないが……。それだと
玄関で
「なあ
小走りで拙者に並んだ充真が、脇腹の辺りを無遠慮につついてくる。
「おまえ試験勉強した? 実は俺さ、昨日の夜おっぱいを具現化して
揉んで揉まれるという乳遁使いを
「拙者の場合、心が乱れて妄想オーラが安定しないのだ。昨夜も、あと一歩のところで舞衣の全力脱衣の術を見逃してな」
拙者が無念を
「それって、最初から脱いだ妹を具現化すればいいんじゃね?」
「……バカな!」
驚いた拙者はすぐに反論する。
「充真は『脱衣三原則』を知らないのか? 脱ぐ! 脱がせる! 脱いでもらう! ――何も着ていなかったら、脱衣の存在意義が失われてしまうのだぞ!」
あまりの興奮に息が乱れた。
それでも拙者は、更に脱衣の持論を展開しようと勢い込む。しかし、先生方のホイッスルが一斉に鳴り響いたので、続きは断念せざるを得なかった。
いよいよ妄想コンテストが始まるのだ。
緊張した顔の生徒たちが、学年ごとに列を作って校庭に並ぶ。
ただし全員ではない。特に下忍生は、まだ具現化すら
甲組の緒方
「それじゃあ妄想コンテストを始めるわよ」
仲尾先生が、
グラウンドの中央に描かれた三つの円が、学年別の対戦フィールドになる。その広さは直径にして一〇メートル。下忍生が使うのは、校舎から見て右側の円だった。
「最初は……誰が呼ばれるかな?」
女子生徒の一人が、不安を隠せぬ様子で
対戦相手は全クラスから無作為に選ばれ、試合順と合わせて戦う前に発表される。つまり、先生に呼ばれるまでは何も分からない仕組みなのだ。
「まずは対戦者指名制度の試合からよ」
仲尾先生がそう告げると、生徒たちは顔を見合わせて一斉にどよめいた。
対戦者指名制度とは、生徒が事前に対戦相手を指名できる例外的な措置である。自分よりも成績上位の者だけを指名でき、勝てば一割アップの点数が得られる。具現化未習得者の単位を救済するのが目的だった。しかし理不尽ゆえに「一発逆転制度」の
現在の点数は中間試験の結果によるもので、まだ今学期の成績に大きな開きはない。
それでも
二人は対戦フィールドに入って静かに
「充真、ちゃんと首は洗ってきたん?」
「なるほど、さっき教室で言ってたのは指名制度のことか。おまえ座学ダメだもんな」
「そういうこと。悪いけど、あんた殴って点数稼がせてもらうかんね」
伊能は、唇の端を吊り上げて悪そうな顔をした。
「お互いに名乗りを上げたら試合を始めてちょうだい」
審判役の仲尾先生が、二人に指示を与えて円の外側まで退がる。いよいよ対戦開始だ。
「
「
短く名乗り終えると、二人は腰を落として低く身構えた。両者の妄想オーラが一気に高まる。具現化は
伊能の右手にドロンと現れたのは、子泣き
「くたばれ巨乳男子!」
後手にまわった充真は、しかし慌てた様子もなく具現化した胸に両手を添えた。乳を下から揉み上げる防御の構えである。
そのとき拙者は、充真のおっぱいに微かな違和感を覚えた。Gカップを超越するその爆乳が、いつもより小さく感じられたのだ。
「
勢いよく振り下ろされた匕骨を、充真の乳がぐにゅっと吸収する。
「さ、させるかぁ!」
伊能が「双丘無刀の術」から逃れようと片足で踏ん張る。充真はそれを見ると、すぐに
「もらったぜ雅!」
隙だらけの伊能にボイ〜ン! 充真が、彼女の顔面に容赦のない
「きゃっ」
短く悲鳴をあげて倒れた伊能は、そのまま後ろに転がり充真から距離を取った。
激しい
「なかなかに屈辱的なんよ。手抜きのFカップに吹き飛ばされるなんて……」
真っ赤に
「やはりそうか!」
拙者は、伊能の「手抜き」という言葉に思わず声をあげた。
さっき充真の胸に違和感を覚えたのは、彼が「
妄想オーラには三つの節約術があり、それらは「省エネ妄想」と総称される。その内の一つが矮化の術で、具現化対象を従来より小さくして妄想オーラの消費を抑えるのだ。
「Fでも巨乳の破壊力だ。強がるなよ雅。ほら、脚がプルプル震えてるぜ」
「くっ……」
一度は立ち上がった伊能だが、ダメージが残っていたのか、すぐに
この機を逃す充真ではなかった。
「これで終わりだ!」
巨乳を感じさせない鋭い踏み込みで、充真はあっという間に距離を詰めた。
だが拙者は見た。伊能の引き結んだ唇に、ニヤリと不敵な笑みが浮かぶのを。
「いっひひひ。引っかかったんね、充真!」
伊能は笑いながら言うと、
「な……んだとっ!」
にわかに攻撃対象を失った充真が、胸の遠心力に振りまわされて
充真には
いや……そう見えたが、実際はそうではなかった。
「うおっ!?」
胸に小石の一撃を受けた充真は、あっさり
「ぐわぁぁぁぁー!」
ふざけているのかと思ったが、充真の口から漏れる悲鳴は本物だった。
「どう、重いっしょ? これが骨遁『子泣き
伊能が勝ち誇ったように言う。
子泣き爺は、身体を石のように重くして人間を押し潰す妖怪である。その骨を具現化したという伊能の匕骨も、同様に重くなる能力を秘めているのだ。
「じゃあ、この小石みたいなのは……」
「気づいた? 矮化の術で極限まで小さくした、あたいの匕骨よ」
伊能は意図的に匕骨を消して、いつもより小さく具現化し直したのだ。省エネ妄想を従来の「節約」としてではなく、戦術の一部として組み込んだのである。
まったくもって見事な戦略だった。座学の成績は壊滅的だが、彼女の戦闘センスには誰もが
ともあれ、これで形勢は逆転した。
乳揺れで骨を
「ギブギブギブ! 降参だ雅、助けてくれ! 重い、俺の谷間がより深く――」
「そこまで! 勝者、伊能ちゃん」
白熱の第一試合が終わりを迎えた。逆転劇に興奮する生徒たち。割れんばかりの大歓声で、たちまち辺りは拍手喝采の
伊能が
「伊能ちゃん、高得点よ。よく頑張ったわね。じゃあ次の試合を始めましょう」
観戦の余韻に浸る暇もなく、仲尾先生が次の組み合わせを告げる。
すると生徒たちの歓声が、再び大きなどよめきへと変わった。またしても対戦者指名制度の試合だったのだ。まさかの二試合連続である。
そして指名されたのは、まさかまさかの
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