其の伍 二人は骨乳の仲
まだ始業のチャイムまで時間はあったが、どうにも服の入手方法が思いつかなかった。
拙者は開き直ると、上のパンツと下のパンツの食い込みを丁寧に直して、半裸のまま乙組の教室へ向かった。
「おはよう!」
忍び足で教室に入り込んだが、いつもの
「おはよう
失礼にも拙者の名前を呼び間違えると、伊能は椅子ごと後方にひっくり返った。
無理もない。
「ミヤビちゃん、そこまでして『背面デスク割り』に挑むなんて!」
「やだ、ミヤびん頭大丈夫? あ、
伊能の身を案じ、心配そうに声をかける女子生徒たち。
背面デスク割りという
拙者は忍び足で廊下に戻ると、今度は後ろのドアから教室に入った。生徒の視線が伊能に集まっていることを確認し、素早く自分のロッカーまで移動する。
「着衣まで長い道のりだったな……」
黄色いトラックスーツを出して身につけると、途端に半裸ロスの切なさが胸を
「やれやれ」
深い溜め息を
だが、そう思ったのも束の間だった。拙者の安息は数分で破られてしまった。
「ちょっと
目の前に「背面デスク割りのミヤビちゃん」が現れたのだ。拙者は仕方なく顔を上げた。
伊能は怒りの
彼女は童顔にして幼児体型、天よりロリっ
そんな
起源は江戸時代にまで
本来「匕
目の前で殺気立つ
「フッ。この拙者に何の用かな、伊能君?」
拙者は荒ぶる骨遁使いを刺激しないよう、できる限り美声を意識して問いかけた。
「気持ち悪い声を出すな! それよりあんた、どうしてさっき女物のパンツ被ってたんよ!」
美声の効果はなく、激しい
拙者は
「パ、パンツの布教活動をしていたのだ。伊能が欲しいと言うなら
「
「落ち着け、あれはクールビズだ。そしてあの画期的なスタイルがあったればこそ、おまえは感動して背面デスク割りに挑むことができた。拙者に感謝してもいいのだぞ。はっはっは」
これで伊能もパンツと半裸の素晴らしさに納得したはずだ。黙って引き下がるに違いない。拙者は持ち前の洞察力でそう判断したが、なぜか彼女の額には青筋が浮かび上がった。
高笑いが一瞬で凍りつく。
伊能の小さな身体から、大量の妄想オーラが立ち
「あんた、よくも抜け抜けと……」
プルプル震える彼女の右手に、ドロンと煙をあげて白い骨が出現する。骨遁の術を発動したのだ。つまりこれが「
その形状は
「ちょっ……待て伊能!」
拙者は慌てて立ち上がると、荒ぶる伊能を制止しようと両手を前に出した。
彼女の匕骨は、妖怪「子泣き
「キ、キモォ~」
拙者は掛け声を発したが、それは単なる虚勢に過ぎなかった。
そもそも拙者には、妹を位置ズレなしで具現化する
「キモいのはあんたっしょ! 骨をバカにすんな!」
「ち、違う。キモいじゃなくて
拙者の
彼女の振り上げた匕骨が、拙者の目の前で妖しい光を放つ。
「ごぢゃああ……じゃなくて、ひぃぃぃぃぃ~」
拙者は腹の底から恐怖を吐き散らした。
小柄な伊能はとても機敏で、
「くたばれ、歩くワイセツブツ!」
伊能はそう叫ぶと、匕骨を振り下ろしてぽよよーん!
拙者の頭部を容赦なく砕き――いや待て、それにしては打撃音がコミカル過ぎる。それに痛みもなく、拙者はまだ頭を庇っている。どうやら助かったようだが、これはもしや……。
「おお、やはり
「よぉ
そう応えて振り返ったのは、同級生の
充真は入学して最初にできた友達で、伊能と幼なじみの変態少年だった。
「おい
「うっさい、そっちこそ巨乳を引っ込めろ。この『おっぱい
伊能がやり返した言葉は、毒舌ながらも言い得て妙だった。
なぜなら充真は、おっぱい資産家として名を
乳影流とは、偉大なる「
そんな乳遁の極意は「張り、
巨乳無双、爆乳無比!
人智を越えたおっぱいは、敵を討ち滅ぼす優れた武器と化す。弾力を高めた胸は岩をも砕き、また
「胸ばっかり言及しないで顔も
充真はおっぱいだけでなく顔立ちも良い。
それでも先ほどは、巨乳のぽよよーんで伊能の骨を
そんな拙者とは対照的に、伊能はウンザリした視線を充真に向けた。
「はいはい、とにかく色男は邪魔しないで! これは芦辺が悪いんだかんね」
「まあ待てって。是周はパンツだけでも
まさに充真の言う通りだった。拙者は気配を消す努力も惜しまなかったし、何より節度ある半裸だったと自負している。
「俺のダイナミックな巨乳に免じて、ここは一つ穏便に頼む」
充真はそう言うと、大きなモーションで右乳と左乳を交互に揺らしてみせた。
赤面した伊能が、自分の小振りな胸をそっと服の上から隠す。
「わ、悪かったんね。どうせあたいは貧乳よ!」
悔しそうに言い捨て、ギリギリと
「そうやって余裕なのも今のうちだかんね。首を洗って待ってなさいよ、充真」
「よく分からんがいいだろう。望み通り乳首を洗って待っててやるぜ」
「違う、あたいは首って言ったんよ! このおっぱいバカ!」
いいかげん怒鳴り疲れたのだろう。最後に拙者の顔を睨みつけた伊能は、ドシドシと大股で自分の席へ戻っていった。ようやく
拙者は極度の疲労と安堵から、ガクンと
「大丈夫か、
「ああ。おかげで助かったよ、ありがとう」
充真に礼を言うと、拙者は改めて机に突っ伏した。今日から期末試験が始まるというのに、すでに疲れてクタクタだった。
そこへ追い打ちをかけるようにホームルームの予鈴が鳴る。これでは休む暇もない。
「それじゃ、俺も席に戻るぜ」
充真が立ち去ると、
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