第5話 昼休み。

「じゃあ、来週は確認テストやるから、忘れないように」



四時間目終了のチャイムが鳴り、物理の今川いまかわ先生が教室を出て行った。


えーだっる、とか、なんでー、とか言う声がそこら中から響く中、わたしはさっさと購買にお昼を買いに行く。



今日は火曜日だから、惣菜パンがあるはず。


うちの学校の購買は、菓子パン、駄菓子、惣菜パンとかが日替わり。

固定なのは火曜日と木曜日の惣菜パンだけで、ちゃんと確認して行かないと、お昼ご飯が駄菓子、ということになりかねない。


売ってる側(地域のボランティアの人らしい)からすると、「いつも勉強を頑張る生徒たちへのささやかなサプライズ」なるものらしいけど、普通に不便だからやめてほしい。


多分、みんなそう思ってて、だから、惣菜パンの日はすぐ売り切れるのに、他の日は昼休みギリギリまで購買用の机に色んなものが残ってる。




急いで行ったのに、目茶苦茶並んでた。

机には張り紙がしてあって、今日は、数量限定のメロンパンがあるらしい。


メロンパンって菓子パンじゃないの?


まあいい、わたしはチキンサラダサンドを買う。



ここに売ってる惣菜パンの中で、わたしはこれが一番美味しいと思ってる。


紫キャベツのマリネ、レタス、クリームチーズ、そして本命のグリルチキン。

単体がそれぞれ美味しいものが集まると、こんなハーモニーが……と、初めて食べたときの感動が忘れられず。


いつも購買ではこれを買う。


前に、ベーコンと卵のサンドを買ったけど、ちょっとベーコンの塩味が強くて卵の主張が弱くて、やっぱりチキンサラダに勝るものは無し。



……と、(実は食へのこだわりが強い)わたしの脳内解説はこれくらいにして、と。







無事百円のチキンサラダサンドを手に入れ、教室に戻ったら、何故か教室がガラガラだった。


誰もいない……? と見渡すと、ひとり、窓際の一番うしろの席に、ヘッドホンをした小波こなみさん。


スマホを凝視してて、わたしが帰ってきたことに気付いていない。


どうしよう、邪魔しちゃうかな。

……でも、話しかけるには良いタイミングかも。


肩を軽く叩くと、一瞬はっとした顔になり、そしてわたしを見ると、ヘッドホンをゆっくりと外した。


センター分けの長い前髪の間から、真っ白なおでこが見える。


「……あ、えっと」


「この前の、文化祭のグループ分けの①グループは家庭科室でネイル講座やってて、③グループは美術室行ってた。うちらのグループは、たまたま、他全員部活とか委員会の集まりでいない」


聞きたいことを、聞いてもないのにぜんぶ答えてくれた。


「あの……? 神戸さん…?」


察しの良さと、なにより、わたしが同じグループだったことを覚えて貰えてたってことに、いい意味で衝撃を受けて、ちょっとぼーっとしちゃってた。


「あっ、ありがと。……あのさ、今日集まるって言ってたっけ?」


「エンエア」


エンエアトークか。

これは、現代の中高生がほぼ全員使っているであろうメッセージ交換アプリ。

ちなみに、エンエアとは、WhenWhereの略。

つまり、いつでもどこでもってことらしい。


スマホを見る。


……通知オフになってた。


クラスのグループトークを開いてみると、たしかに、それぞれのグループのリーダーが、今日の昼休み、集まる旨を書いてた。


もも『グループ①のみんなあー! 今日お昼休み、かていかしつー!!』

小波『グループ②のひと、13時くらいにとりあえずわたしの席に集まってください』


小波さんのメッセージの下には、今日は部活のミーティングがあるだの、委員会の集まりがあるだのと②の人たちのメッセージが続く。


「ごめん、通知オフになってました……」


「いいよいいよ、次から始まるから。……いなかったらうちが呼びに行くから」



初めて、小波さんから、こんなくだけた話し方をされた。


そして、一際記憶に残ってるのは、初めて見た笑顔。いつものクールさとのギャップが激しい。

きらきらしてるとこが、ひなと似ていた。


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