第3話 出し物。
落ち葉が、がさっと音を立てた。
左右交互に動かす自分の足をぼーっと見ていると、今日が金曜日であることを思い出した。
つまり、先週、ひなと会ってからもう一週間が経つということ。
今週は、一ヶ月後の文化祭の準備に追われてて、火曜日頃までは常にひなのことが頭にあったけど、すっかりそっちに夢中になってた。
わたしのクラスでは小さな店を三つほど出すことになってる。
各クラス何かしら出し物をしなくちゃいけない。わたしのクラスは(本当はもう決めていなくちゃいけないんだけど)何一つとして確定事項が無かった。
誰からも案が出なくて、教室の空気が、みんなのいらいらと早く終われっていうピリピリで煮詰まってきた頃、
もういい加減嫌になってきたっていう顔をして教卓に頬杖をついてた学級委員の
「……
と、さらに嫌そうな顔をして指した。多分、桃花ちゃんが、場違いに明るい笑顔を浮かべていたから。
みんな、桃花ちゃんの方を一瞬で向いて、桃花ちゃんの発言を待った。わたしも、固唾をのんで見守る。
「……ネイルの店を、出したいです」
笑顔に似合わず、声は小さかった。
桃花ちゃんが言い終えた瞬間、教室の空気が動いた気がした。
みんなほっとした表情で、
「……いいんじゃない?」
「なんか楽しそー」
とか言い始め、ぽつぽつと拍手が聞こえた。
そして、わたしも、もう決まりか、と拍手しかけたとき。
「……それじゃあ、あたしもシフォンケーキ屋出したい」
私を含めて、桃花ちゃんに気を取られていたクラスは、一瞬、驚きで固まった。
小波さんは、いつもはほとんど喋らないで、昼休みはずっとヘッドホンを付けて、自分の席で目を閉じてる。
わたしは一回しか話したことがなくて、でも、そのときに聞いたハスキーボイスにはっとしてまともに目があったのを思い出した。
大人しそうだ、という印象が覆った、力強い目。一瞬のことだったけど、強烈なインパクトがあった。
そんな彼女が、クラスの話し合いで、自分から手を挙げて発言する、という一大イベントのお陰で、沈黙から一泊置いて、さらに拍手が大きくなった。
わたしは、強く、少し近寄りがたいと思っていた彼女からシフォンケーキという言葉が出たギャップでくらくらし、しばらく拍手ができなくなる。
結果的に、さらにもう一人フェイスペイントをやりたいっていう男子が出て、三店舗の出店ということで落ち着いた。
メインの三人以外は、くじで人数をだいたい三等分くらいにして、それぞれを手伝うことになった。
わたしは、小波さんのシフォンケーキ屋を手伝うことになり、くじを引いて②の数字を確認した瞬間、頭から足先まで熱いものがすうっと通ったような気がした。嬉しい。
当日のその場での販売だけでなく、シフォンケーキを作る工程も手伝える。
さっそく来週の放課後から練習だそう。
小波さんがスイーツを作るところが想像できないから、いまから楽しみで仕方ない。
✧
今日も、足早に電車を降りて、本屋に向かう。
ひな、先に来てるかな。
いままで、ひとりで来ていたときとはまた違う高揚感に、胸が包まれる。
信号が青に変わるのさえ待ち遠しい。こんなにも短い時間なのに。
約束、という二文字が、なんだかふわふわした気分を底上げしてくれてるような、不思議な感じに、さらに足が軽くなった気がして、二階までの階段を駆け上がった。
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