第2話 休み明け。

アラームのけたたましい音で目が覚めた。



月曜日。今日から学校だ。


「とゆきー! 今日先出るから、鍵閉めてってね!」


お姉ちゃんの声がリビングから響く。

返事をして食卓に着くと、少しほっとした。


いつもはお姉ちゃんのほうが家を出るのが遅いので、一緒に朝食を食べる。

そのときに、いつも、死んだお母さんの話をしてくる。

今日お味噌汁ちょっと辛かったねー。ごめん! ……そういえば、ママってお味噌汁作るのすんごい上手かったよね! また食べたいなあー。

買い物に行けば、

あ、あの服、ママが着てたのに似てる! 懐かしいねえ。


こんな具合に、なにかしらお母さんと絡ませてくる。



わたしはお母さんのことは好きだったけど、思い出したくない。

生活の端々で、使ってたハンカチとか、お皿とかが目に入るのは仕方ないけど、わざわざ言葉にされると、それが一気に目の前の空気が重みをもって迫ってきて、行く先を遮ってくる。


こんなことお姉ちゃんの目の前で言えないから、いつも小さなわだかまりがわたしの心に積もっていく。

これがいつか、自分でも抱えきれないほど大きくなって、爆発しちゃうんじゃないかと、ときどき不安になる。



いろいろと考えながらご飯を食べてたら、もう7時になろうとしていた。

7時15分には家を出なきゃいけないから、ちょっと急ぎ目で歯を磨いて、制服に着替える。


リュックの中身はもう準備してあるから、髪だけとかして家を出た。









「おっはよ、とっちゃ!」


「…おはよ」


学校に着いて早々、後ろから飛びついてきたのは、桃花ももかちゃん。

誰にでも親しげに笑顔で話しかけて、いつも嬉しそうに喋るから、クラスでは男女問わず大人気。

本当だったら八方美人なんて一番嫌いなタイプのはずなのに、桃花ちゃんだけは、不思議と嫌いにならなかった。


「あ、珍しい! 今日はカーディガン無し?」


「今日はあったかいからね」


「ね! 家出た時、ほんとに冬⁉ってびっくりしちゃった」


桃花ちゃんが腕を組んできて、こういうことが自然にできるから、人気なんだろうなあ、と思いつつ、歩く。


他愛もない話をしながら教室に入ると、入り口付近に固まっていた女子グループの一人が振り返った。


「おはよー、神戸かみど。あ、桃花、またネイル変えた? めちゃかわじゃん」


「……やあっと気づいてもらえた! きこたんが一人目だよおー。もう誰にも気づいてもらえないかも、やばい!って思ってたあ」


桃花ちゃんとその子が話し始めたのを横目に、自分の席に向かう。


リュックを下ろし、時計を見ると、一時間目まであと十分だった。


時間割はだいたい頭に入ってる。一時間目は数学。二時間目は体育だから、あんまり休み時間はゆっくりできない。体育着を机の横に掛けておく。



数学が始まって少し経つと、いつもは眠くなってくるけど、今日はなぜか目が冴え、ついでに頭もしゃきっとしたから、プリントの応用問題まですらすら解けた。


余った時間にぼーっと黒板を見ていたら、唐突にひなを思い出した。

あの子も今頃は学校かあ。

やっぱりギャルの友達ばっかりなのかな。スクールバッグをデコりまくるってよく聞くけど、あの子はリュックだったな。


あれこれ考えてたら、一時間目が終わった。



「きこたん、まりり‼ 次体育だから早く行くぞ!」


桃花ちゃんの声で我に返った。わたしも行かなきゃ。

貴重品と体育着を持って更衣室へ向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る