第149話 王都軍兵卒アボット01

 ぼくは王都軍の兵卒アボットだ。

 革命が起きるまではぼくが王都を守るために戦うなんて思ってもみなかった。

 だってぼくはただの酒場の料理人なんだから。

 ただ、友達のマルクスくんが大統領になってしまって、ぼくも王都を守るために戦うこととなったんだ。

 でも、いやいやというのじゃない。

 王が支配していたときのこの国ってひどかったんだからね。

 王は国民のことを自分の奴隷とでも思っている国だった。

 国民に重税を課して、そのお金を自分と貴族のためにしか使わないといった国の仕組み。

 もし王に逆らう者と判断されたら、重い刑罰が課せられる。

 そんな国で誰もがんばろうとは思わないだろう。

 民の心も荒れて、自分さえよければいい、みたいな空気が充満していた。

 だから、マルクスくんが王を倒してくれたのは歓迎なんだ。

 

 それに以前のぼくは希望なんて持つことはなかった。

 毎日、起きて仕事をして帰って寝ての繰り返し。

 その中になんの意味を見いだせなかった。

 そんなぼくの前に現れたのがジュエルボックスというアイドルグループだ。


 鬱屈した世の中に現れた一筋の希望。

 ぼくたちは光につつまれた。

 まるで女神降臨。

 ぼくは彼女たちのライブに行くようになった。

 それで、人生に希望を持てるようになった。

 それまでのぼくは生きているとはいえなかった。

 だけど、ライブを見てるとき、ペンライトを振っているときは、生きているって実感を持つことができた。


 この国なんてどうでもいい。

 王都がどうなろうとどうでもいい。 

 ぼくがどうなろうとどうでもいい。

 でも、ジュエルボックスだけは守りたい。

 彼女たちのライブは続いてほしい。

 人々に希望を与え続けてほしい。


 いままで戦ったことなんてない。

 本当は怖い。

 それにぼくひとりに何ができるかわからない。

 ただの一兵卒だもんな。

 でも、できることはやろう。

 ジュエルボックスのために。

 一夏たんのために。

 

 明日門を出る前に出陣式があるらしい。

 マルクス氏からの激励の言葉。

 それになによりジュエルボックスのミニライブがあるらしい。

 最高だ。ぼくたちのためにジュエルボックスがライブをやってくれる。

 それだけで死んでもいい。


 ぼくは明日のための準備をする。

 槍や防具を磨いたり、荷物の確認をしたりだ。

 自然と気持ちが高ぶってくるのがわかる。

 早く寝なくてはね。

 明日は国を、いや、ジュエルボックスを守る戦いなんだからね。

 

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