第3話 白銀美桜01

 そうだよね。

 そろそろ、潮時。

 わたしはアイドルになりたかったってわけではない。

 なんか佐那や一夏となんかやりたかっただけ。

 確かに歌を歌うのは好きだし、これからも歌いたいと思っている。

 でも、みんながいっしょでなかったら、たくさんの人の前で歌うことなんてできなかったと思う。

 

 カラオケで歌ったときの動画を友達がネットに上げて、バズってしまった。

 それで、いろいろな歌を歌ってネットに上げることとなった。

 もちろん顔出しNGで。

 そしたら、なんかネットでは歌うまJKとして有名になった。

 カラオケ番組とかに呼ばれることもあったけど、もともとあんま人前が得意じゃなかったから、断りまくった。


 ジュエルボックスに入ったのも、クラスの友達の佐那に強引に誘われたから。

 佐那は優柔不断なわたしをこのステージにひっぱりあげてくれた。

 それから、楽しいことも苦しいこともあった。

 とくにわたしにとって売上目標がいちばんきつかった。

 CDやグッズ、チェキでかせがなくていけない数字が与えられたのだ。

 まあ、ファンの人が応援してくれていつもなんとかなった。


 さて、今日はリーダーの美羽から話があるってことだったな。

 たぶん、そこで話になるのは解散のこと。

 親にももう夢を追いかけるのはやめるように言われている。

 でも、なんかあきらめたくなかった。

 それで、10年が経ってしまった。

 もう、無理だろう。

 27歳というのは、アイドルとしてはもう終わっている。

 そろそろみんなとお別れする時なんだろう。


 劇場の控室に入る。

 ここは練習や打合せでいつも使ってた部屋。

 わしがドアを開くと、みんなもう集まっていた。


「これで全部だね」

 美羽が部屋を見回す。

「じゃあ、始めるね。

 みんなわかっていると思うけど、ジュエルボックスの今後のこと」


 みんな真剣な顔でうなづく。


「このままやってても、もう上に行くなんてないと思うの。

 だから、解散して、あとはひとりひとりが考えるってことでいいかな」

 美羽の言葉に返事はない。

 でも、この沈黙が答え。

 今日の会議は解散を確認するためのセレモニーだったのだ。


「異論なし」

 佐那がしぼりだすような声で言う。


「異議なし」

 みんな、それに続くよう、小さな声でいう。

 これで、ジュエルボックスは終わりだ。


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