第2話 プロローグ02

 アイドルグループは売上によって淘汰されていく。

 彼らの報酬は歩合制。

 チケット代、物品の売上等。

 それから劇場代や衣装代そのほかの経費を引いたものが彼女たちの収入となる。

 赤字が続けば、いつの間にか退場していく。


 ジュエルボックスは、そのぎりぎりのところにいた。

 たしかな歌やダンス。楽曲も音楽の天才である緑山詩織が作っている。

 わりと楽曲の提供には費用がかかるものなのだ。

 それが内製化できるのは大きい。

 それにジュエルボックスにはコアなファンが多かった。

 それで苦しいながらもこの劇場で生き残ってこれたのだ。

 それはラッキーなのかどうかはわからない。

 ほとんどのグループは1年くらいで消えていくのだ。

 そうなったらあきらめて他の道を目指すことができる。

 ティーンズのときなら、まだやり直しは聞く。


 しかし、ジュエルボックスはここまで来てしまった。

 もう、ここから上に上がっていくなんて不可能なのはみんなわかっている。

 でも、あきらめきれないのだ。


「まあ、がんばるしかないっしょ」

 楽天的なことを言うのは、青海一夏。

 生粋の体育会系キャラだ。

 とんでもない身体能力を持つ。

 いちおう、元空手チャンピオンだが、球技でも体操でもなんでも一流になれる素質を持っている。

 しかし、彼女が選んだのはアイドルという道だった。

 それは親友である白銀美桜が選んだ道だったから。


 白銀美桜は一夏と同じ学校で目立たない方だった。

 しかし、一夏とはなぜかウマが合うって感じで、一緒にいることが多かった。

 美桜には、得意なことがあった。

 それは歌だ。

 他の友達に押されて、動画をアップしたらすごい再生数がとれた。

 あまり目立つのが好きなほうではなかったが、歌うのは大好きだった。

 歌姫として生きる道もあったのだが、もう一人のクラスメイトである赤目佐那に押された形でジュエルボックスの一員となった。

 あと、美桜の歌にほれ込んだ音楽の達人緑山詩織が参加するようになった。

 そして、ジュエルボックスの結成のときの募集で選ばれたのが美羽だった。

 芸能界での経験から、美羽がリーダーをすることとなった。


「でも、がんばるだけじゃダメだよ。

 もっと具体的に戦略を考えないと。

 動画の再生も伸び悩んでいるし」

 理論家詩織が分析する。


 いずれにしても、ここからの巻き返しの可能性はゼロに近いのだった。

 このまま、コアなファンのために活動していくという方法もあるが、美羽の頭の中には解散の文字もはっきり見えていた。

 

「そうだね。

 じゃあ、一週間考えよう。 

 それで答えを持ち寄ろうよ」

 美羽はみんなにそう告げる。

 そして、みんな無言のままで、今日は解散し、荷物をまとめ始めるのだった。


 

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