第1話 少年と浅草

「起きろ!」と声がする。看守だ。僕は眠い目を擦り、看守に聞く。

「今日ですか?死刑執行日」

「違う。お前の刑が変わった」

死刑から刑が変わる。死刑以上の刑なのか、それとも優しくなるのか。まぁ優しくなる事はないだろう。

「あれだけ殺してしまったのだから」

僕は殺してしまった。300人。これでも世界では軽い方。だが人を殺してしまったという事実は変わらない。

「何一人事を言っている。お前の刑を発表する。これに着替えろ!」

「…Tシャツに…ジーンズ?」

刑務所では見た事がない服だった。しかも綺麗な服だ。新品か?

「これは何のじょう」

「お前の刑は日常を過ごす事だ」

「はぁ」

日常を過ごす?意味が分からない。

「一体どこで…」

「浅草だ」

一気に顔が青ざめた。この刑務所があるのは、吉祥寺。東京の中でもっとも人を殺さなかった人が暮らす場所。平均は大体200人から300人程殺した人が暮らす。それと相反し、浅草は、東京の中でもっとも人を殺した人間が暮らす場所。平均は大体3000人から40000人辺りだ。

「浅草って…それなら死刑の方が」

「決定事項だ。今日からお前は浅草のあるアパートで暮らして貰う。金はこっちが持つ。早く着替えろ」

「…分かりましたよ」

Tシャツにジーンズ。それと大きめのリュック。中には、携帯電話と財布。あとは何故か千切れた鎖が入っていた。

「この鎖は…?」

「?入れた覚えはない。まぁ持っておけば良いんじゃないか。役に立つかもしれないからな」

僕はある程度準備をし、牢屋から出た。出口に向かいながら、看守がこの後の説明をしてくれた。

「お前はこの後パトカーで浅草に向かう。その後50万円を渡す。生活費だ。お前は浅草で1年暮らしてもらう。それと…これは俺の電話番号だ。何かあったら俺を頼れ」

痛々しい罰を受け続けてきたが、この人の事は最後まで嫌いにはなれなかった。僕に唯一「人」として接してくれた、この都祁看守の事は。

「ありがとうございます。都祁看守」

「礼を言われる筋合いはないな」

照れたのか。こちらも見てはくれなかった。その後僕は、パトカーに乗り、雷門前に着いた。都祁看守に50万を貰い、アパートの住所を貰った。

「元気でやれよ」

「それここで言われても」

都祁看守は笑いながらパトカーを走らせ行ってしまった。僕はアパートを目指し、雷門を通った。

「111-の…ここか」

道中では、殺人者等見ず、平穏な雰囲気だった。

「逆に怖いよなぁ…はは」

僕はそう言いながらアパートの階段を登る。一歩ずつ一歩ずつ、最後の階段を登った瞬間、扉が開き、黒髪の男が来た。

「どっ…どい…おぇぇぇ」

顔に思いっきり嘔吐物をかけられた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る