第53話 動き出す状況

 父さんと一緒にイベントスペースに戻ると、母さんにメチャクチャ怒られてしまったが、事情を話してなんとか納得してもらった。

 そして、探知魔法を使いながらイベントのスタッフさんに手伝ってもらい、ステージのあるイベントスペースにいる人を通路の反対側のスペースへと誘導した。


 こちらのスペースにはトイレがあるので、救援が来るまで立て籠もるのに適しているのだ。

 通路からの入り口は閉めたが、ガラス戸なので中が見えないようにポスターなどを貼り付けて、展示用の机などを積んでバリケードを作った。


 籠城の準備を終えると、盛んに聞こえていたヒヒの咆哮が、あまり聞こえなくなってきている。

 時折、連続して発砲音が響いたり、重たい爆発音のようなものは続いているが、探知魔法で捉えている反応の動きも減っているように感じる。


「誠、お前、魔物の動きを捉えられているのか?」

「うん、さっきまでは盛んに動いてたんだけど、今は動きが少なくなってる」

「それじゃあ、今のうちに逃げられないか?」

「うーん……下のフロアに、いくつも反応があるんだよね」

「じゃあ、あっちはどうだ? 広場を抜けてスペイン階段で下まで降りれないか?」


 父さんは、さっきヒヒが近づいてきたサンシャインガーデンの方向を指差した。

 探知魔法をそちらの方向へ向けてみると、植え込みの南側に一頭、それとサンシャイン60ビルの中に二頭の反応があった。


「今は動いていないけど、いくつか反応があるし、小さい子が多いから移動の速度も限られるし、難しいと思う」

「もし、さっきみたいに襲い掛かってきたら、撃退できるのか?」

「それは大丈夫。そういえば父さん、あの指輪持ってる?」

「指輪? あぁ、これか……持ってるぞ」


 父さんは、反射の魔道具である指輪にチェーンを通して首から下げていた。


「それ、ちゃんと持っていてよね。それを持っていれば、ある程度の攻撃は防げるから」

「ある程度って、どの程度だ?」

「分からないけど、たぶん、あのヒヒの攻撃だったら防げると思う」

「そうか、誠も身に付けているんだな?」

「うん、これね」

「なんで左手の薬指なんだ?」

「えっ? い、色々あるんだよ」

「ほぅ、誠も隅に置けないな」

「違うから、これはそんなんじゃないからね」

「分かった、分かった、皆まで言わなくていいぞ」

「だから……もういいよ」


 トイレに行けるようになっただけで、状況はあまり良くなっていないのだが、魔物の動きが少なくなったせいで、少しだけ気が緩んでいたのだと思う。

 このまま大人しく待っていれば、真行寺さん達と合流できて、一緒に避難している人達も無事に

外に出られるものだと思い込んでいた。


「ホオォォォォォ!」

「ウオッ、ウオッ、ウホオォォォォ!」


 突如として、魔物達が一斉に吠えだした。

 それと同時に、建物の外、サンシャイン広場に大きな魔力の塊が出現した。


「どうした、誠」

「なんか……ヤバいのがいる」

「ヤバいのって……あっちか?」

「駄目だよ、外に出ちゃ駄目」

「そんなにヤバいのか?」

「何だか分からないけど、魔物の何倍も大きい魔力を感じる」


 階下からは、重たい爆発音が連続して響いてくるし、遠くからも銃声が連続して聞こえてきた。

 動きが無くなっていたと思った魔物達も、大きな魔力に引き寄せられるように、サンシャイン広場へと集まってきている。


 そして、イベントスペースにいる人達を探るように探知魔法が使われた。

 ルカ師匠に言われ、魔力の大きさを他人に悟られないようにする隠ぺいの特訓をしてきたから、僕の存在はバレなかったと思うけど、見つかるのは時間の問題だろう。


 大きな魔力の持ち主は、さっき僕が倒した魔物の死体に近付いて足を止めている。

 一昨日、真行寺さん達が相手をしたのもヒヒの魔物だと聞いている。


 だとすれば、この大きな魔力が黒帽子なのだろうか。


「ホオォォォォォ!」


 突然、大きな叫び声がして、一頭の魔物が文化会館ビルからイベントスペースを隔てる通路を駆け抜けていった。

 イベントスペースのあちこちから悲鳴が上がったが、幸いにして魔物は足を止めずに走り去って行った。


 再び、探知魔法が使われたのを感じた。

 避難している子供の中には、魔力の感受性が高い子もいるようで、数人の子供達が泣き出し始めてしまった。


「ママ……怖いよ、ママ!」

「大丈夫、大丈夫よ」

「何してんだよ、黙らせろ! 魔物に気付かれちまうぞ!」


 三度、探知魔法が使われた。

 今回は、前の二回よりもへばり付くような魔力を感じる。


 最初の二回が、生暖かい風を服から出ている顔や腕だけで感じたとすると、今回は服の中にまで流れ込んで撫でまわすようにして通り過ぎていった。


「いやぁぁぁぁ……ママぁぁぁぁ! 怖い、怖いよぉぉぉ!」


 感受性の強い子が、火が点いたように泣き叫ぶ。


「おいっ、黙らせろ!」

「あんたが黙れ! 怒鳴ったら、余計に子供が泣くだろうが!」

「何だとぉ!」


 イベントスペースに避難している人達は、こうしている間にも、続々と魔物が集まってきているのを分かっていない。

 そして、四度目の探知魔法が使われ、今度は指輪に組み込んだ術式が反応して魔法を反射してしまった。


「マズい、気付かれた」


 魔物達が一斉にイベントスペースを目指して動き出す。


「ホオォォォォォ!」

「皆さん、奧へ、なるべく奧へ移動して下さい!」


 通路とイベントスペースを隔てているのは壁一枚だ。

 ヒヒの魔物の動きからしても、一撃で砕かれてしまうだろう。


「ホオォォォォォ!」

「ウホオォォォォォ!」


 集まってきた魔物は全部で三十頭以上、一気に雪崩れ込まれたら、対処しきれる自信は無い。


「誠、お前も下がれ」

「父さん、母さんを頼むよ」


 父さんに、母さんを守るように頼んで、僕は避難している人よりも前で迎え撃つ準備をする。


「来るなら、来い!」


 魔物達がイベントスペースまで、あと10メートル程の距離まで近付いてきた時だった。

 ドン! ドン! ドン! と重たい爆発音が立て続けに鳴り響き、何頭かの魔物が吹き飛ばされた。


「クソ爺ぃ、覚悟しやがれ!」


 聞き覚えのある女性の叫び声と共に、またしても連続して爆発音が響いた。

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