第54話 役者が揃う
キューティーシリーズのイベントが行われている会場へ迫っていた三頭のヒヒの頭を打ち抜いた蘭虎は、素早くマガジンを入れ替えると薬室に弾を込めて叫んだ。
「クソ爺ぃ、覚悟しやがれ!」
蘭虎の次なる狙いは、サンシャイン広場の側に立つ季節外れのダークスーツ姿の男、黒帽子だ。
ドン、ドン、ドン……蘭虎は、重く大きなアンチマテリアルライフルを羽根ペンでも扱うように軽々と操作し、精密な狙いを維持したまま連射した。
黒帽子は、飴色の細い竹の杖をひょいと掲げると、その先で初弾を弾き飛ばしたが、直後に顔色を変えた。
二発目の弾丸が杖を粉々に砕き、三発目の弾丸は……躍るように身を翻した黒帽子のダークスーツの襟を引き裂いて飛び去った。
「ほっほっほっ、また物騒な……ぐぅ」
余裕を見せつけるように、笑みを漏らしつつ蘭子を振り返った黒帽子の胸元を鈴音の抜き打ちの一刀が斬り裂く。
鈴音は距離限定、回数限定の切り札でもある短距離転移を使った居合抜きを初手から使った。
「浅いか……」
黒帽子を逆袈裟で斬り裂いた一刀は、致命傷を負わせるには僅かに足りなかった。
すかさず返しの袈裟斬りを振り下ろすが、黒帽子は大きく飛び退って刀を避けた。
ドン、ドン、ドンと再び重たい銃声が響き、黒帽子は迫りくる銃弾を素手で叩き落として高く飛び上がった。
5メートル以上の上空へと退避した黒帽子の胸元は大きく斬り裂かれ、12.7×99mm NATO弾を弾き落とした左掌はグシャグシャに潰れ、ボタボタと青い血が滴り落ちていた。
「人間ふぜいが……」
金色に底光りする瞳、のっぺりとした青い肌、口許からのぞく牙……魔族としての本性を現した黒帽子に、鈴音が再び短距離転移の居合抜きを仕掛ける。
「それは、もう見た!」
「ぐふぁ……」
刀を振り抜く前に繰り出された黒帽子の前蹴りが鳩尾を捉え、鈴音の体が蹴り飛ばされる。
黒帽子の近くに集まってきていたヒヒ達の頭上を飛び越え、鈴音は広場を転がりながら受け身をとった。
「鈴音さん! クソ爺ぃが!」
流れるような動きでマガジンを入れ替えた蘭虎は、黒帽子を目掛けてトリガーを引いた。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン……まるでオートマチックピストルを撃っているかのようにM95から放たれた弾丸は、黒帽子に届くことなく見えない壁に弾かれてしまう。
「なるほど……人間ふぜいにしては、なかなか楽しませてくれたが、そろそろ底が見えたようだな」
一時は感情を露わにした黒帽子だったが、今は余裕を取り戻したようで、切り裂かれた胸元や潰れた掌は、ゆっくりと時間を巻き戻すように元通りになっていく。
「撃ち方、始めぇぇぇ!」
唐橋の野太い号令と同時に、サンシャイン広場へと駆け上がってきた討伐部隊のM4カービンが一斉に火を噴いた。
フルオートで発射された弾丸が、横殴りの雨のように黒帽子に降り注ぐが、あと1メートルほどの距離を残して動きを止めると、バラバラと引力に引かれて落下していった。
「ほっほっほっ、そこな脆弱な人間どもも、非力な割には良く頑張っておるが、そこまでじゃな……」
体もダークスーツも修復を終えた黒帽子は、内ポケットに右手を滑り込ませると、真っ白な指揮棒を取り出した。
「真行寺、奴が黒帽子で間違いないな!」
「そうだ、今更言うまでもないが、油断するなよ唐橋!」
「おうよ! 全員リロード!」
討伐班全員と蘭虎もマガジンを入れ替える。
「では、そろそろこのステージも終わりにするとしようか、用意は良いか?」
「舐めるなよ、黒帽子」
起き上がった鈴音は、愛刀を鞘に納めて居合の姿勢をとったが、銃弾さえ弾き返す障壁の中まで短距離転移が可能なのか確証が持てない。
それに加えて、黒帽子の周囲には三十頭ほどのヒヒが集まって来ている。
ヒヒどもの相手をするだけでも、戦力的にはギリギリか、少し足りていない気がする。
ニタリと笑みを浮かべた黒帽子が、右手の指揮棒をゆっくりと掲げた時だった。
サンシャイン60ビルを西から回り込むように飛来したヘリコプターが、広場スレスレに高度を下げて通り過ぎ、急上昇してワールドインポートマートビルを掠めて飛び去った。
直後、重たい落下音を響かせて、一人の男が鈴音達と黒帽子の間に降り立った。
巌のごとき体格を黒のスーツで包み、短く刈った金髪、ミラーレンズのサングラス、両手の全ての指には複雑な装飾の施された太い金の指輪が嵌められている。
「面白そうなことやってんじゃねぇか……まぜろよ!」
「善杖! 貴様、病院を抜け出して来たのか!」
「病院? 何の話だか分からねぇな?」
呼び掛けた鈴音には目もくれず、善杖が硬く握った両の拳を打ち合わせると、金の指輪が火花を散らした。
善杖の視線は、黒帽子を睨みつけたまま動かない。
「ザコが何匹いようが関係ねぇ、手前のその面、叩き潰してやるから覚悟しろ!」
「ほっほっほっ、ザコが何匹増えようと、結果は同じじゃな。それよりも、切り札を隠したままで、守り切れるのかな?」
「ホオォォォォォ!」
黒帽子が高く掲げた指揮棒を振り下ろすと、ヒヒたちが一斉に咆哮を上げて動き出した。
特務課の面々は臨戦態勢を整えていたが、ヒヒの一部はそちらに背を向けてイベントスペースを目指して走り出した。
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