第4話 スカウト

「まぁいいだろう。私としては魔改造の詳細についても把握しておきたいところだが、プライベートな部分に関しては誠君も話しづらいだろうしね」


 真行寺さんが追及を諦めてくれたのは、僕が魔改造発言をしてから三十分以上も根掘り葉掘り問い詰めた後だった。


「ところで誠君、学生生活と警察の仕事が両立できるとしたら、協力してくれるかね?」

「そんな事が可能なんですか?」

「渋谷インパクト以後、魔法が使える人が徐々に現れているが、その多くは十代の若者だ。有能な人材を確保すると同時に、才能ある若者が悪の道に進まないように、我々は警察学校にも特務課を新設して学生をスカウトしている」


 将来、強力な魔法を使える人間が犯罪に手を染めた場合、従来の警察組織だけでは対処が難しくなることが予想される。

 そうした事態を未然に防ぐために、魔法の才能を持った若者を集めて、警察活動への協力を要請しているそうだ。


「我々が提供するのは、快適な学校設備、魔法を行使するための資格、そして警察活動に協力した場合の報酬だ」

「報酬って、どの程度なんですか?」

「警察活動に協力した場合、拘束時間に応じて時給五千円、更に魔物を討伐した場合などには別途報酬が出る。ゴブリン一頭で五万円程度、オークやオーガは大きさにもよるが倍から三倍程度にはなるだろう」

「うーん……あまり討伐は好きじゃないんです。というか、ルカ師匠からは基本的に生き物は殺さないようにしろって言われているので」

「ほぅ、それはどうしてかね?」

「自衛のためとか、命を繋ぐ糧として殺すのは仕方ないとしても、無益に殺すことは自然の摂理に反するというのがルカ師匠の主義なんです」


 大森林の賢者と呼ばれるルカ師匠は、僕から見るとチートの塊のような戦闘能力を有しているが、無闇に魔物を殺さない。

 ゴブリンなんて、それこそ指先一つで殺せるぐらい強いけど、森の中で遭遇した場合には戦いにならないように避けて進んだり、襲いかかってきた場合にも威圧する程度で命までは奪わない。


 ゴブリンにはゴブリンの存在意義があり、それを面白半分で奪うのは傲慢だと教えられた。

 真行寺さんには伝えていないが、僕の体も魔改造によってルカ師匠に負けず劣らずのチートな性能を有している。


 ゴブリン程度ならば、それこそ遠隔で探知して討伐出来てしまうが、ルカ師匠ならば日本にゴブリンが現れたことにも意味があるのだと言うだろう。


「なるほど、それならば討伐以外の仕事ならば協力してもらえるのかな?」

「そうですね、魔法を使って痕跡を探したり、行方不明者を探知するとかなら協力できると思います」

「そうか、それならば是非、警察学校に入ってくれないか? それに、クラス転移に巻き込まれたのに、誠君だけ復学したら色々と噂されてしまうのではないか?」

「あぁ……確かにそれはあるかもしれませんね」


 僕の他にも、異世界に召喚されたが日本に戻ってこられた人が、過去に何人か存在している。

 異世界帰りや魔法が使えることでマスコミに騒がれ、芸能人の真似事をしている人もいる。


 そうした生活に全く興味が無い訳ではないが、それよりも僕は普通の学生生活を体験したい。

 それに、将来魔法によって生計を立てていくなら、資格を手にしておくのは悪くないだろう。


「転校するかどうかの返事は、両親と相談してからでもよろしいでしょうか?」

「構わないよ、その方が良いだろう」

「あの、ちなみに学校は何処にあるんですか?」

「府中市の朝日町、最寄り駅は京王線の飛田給駅か、西武多摩川線の多摩駅だけど、誠君の家から通うには少々遠いね。でも学生寮があるから大丈夫だよ」

「学費とか寮費はどのぐらい掛かるんですか?」

「それは無料だから心配要らないよ。制服とかも支給されるから大丈夫だ」

「学生寮って、週末には家に戻って構わないんですか?」

「勿論、帰宅は自由だし、嫌になったら退寮しても退学しても構わない。何かの制約を受けるような事は無いから安心したまえ」


 警察関係者からそう言われると、逆に心配になったりもするが、とにかく両親と相談してから決めることにした。


「ところで誠君、一つ聞き忘れてしまったのだが、君が日本に戻って来られたのは、ルカルディアという人物の魔法のおかげなのかい? それとも、君自身が魔法を使って戻って来たのかい?」

「えっと……ノーコメントでは駄目ですかね」

「構わないよ。その答えで十分だ。自力で戻って来られない人は、誰かのおかげと言うものだし、そうでなければ悪用されないように特殊な魔法が使えることを隠そうとするだろうしね」

「あぁ、やられた……マスコミに発表しませんよね?」

「勿論だよ、無駄に騒がれるのは、我々としても本意ではないからね」


 真行寺さんは、満足そうな笑みを見せて事情聴取を打ち切った。

 最後の最後に迂闊な返事をしてしまったおかげで、僕が転移魔法を使えることがバレてしまったようだ。


 今後、どんな要求をされるのか少々心配だが、理不尽な要求は突っぱねるつもりでいる。

 僕がルカ師匠の魔改造によって手に入れた力は、そうした理不尽を突っぱねて叩き壊すためにあるのだから。

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