第51話

 結局、「八郎」については、秋田弁がらみで保留となったが、そこがクリアできれば、是非読みたい一冊となった。


 プログラムも決まった。


 一番最初の病院では、紙芝居と絵本。

 幼稚園では、紙芝居の上演と絵本の朗読のあと、折り紙で紙飛行機を作り飛行機大会をすることにした。

 小学校では、紙芝居に絵本。

 そして、一校目の学校はプレイルームでの上演となるため、体を動かしての遊びもOKとのことで、フルーツバスケットやハンカチ落としといった、古典的な誰でも楽しめる遊びもすることにした。

 一方、最後のミチカの学校は、本来の図書室がこの梅雨に入ってからの雨漏りのため工事中だそうで、校庭に建てたプレハブの仮図書室で、上演することになっていた。

 そのため、スペースもそんなに広くはないということなので、紙芝居と絵本だけにした。


 毎回絵本は数冊持ち、集まった子たちの年齢層や様子を見て、そのうちの一、二冊を読むことにした。

 当日の、紙芝居と絵本の担当は、岡村さんと伍代君。

 遊びの担当は、四条君と私になった。

 そう考えると、四人というのは、ギリギリの数だ。


「人数、増やさないと駄目ね」

 岡村さんの言葉に、伍代君がかたまる。

「もう、夢は。ほら、三矢さんとも、心配していたけど仲良くなれたでしょ。だから、他の人ともなれるって」

「え。そこまで、人見知りだったの?」

「伍代は、いまだに、馴染み以外には、話しかけないしなぁ」


 ちょっと待って。

 でも、でも、それなのに、紙芝居を探す時には、誰かれ構わず聞いていたよね。

 それも、取り乱すことなく冷静に。

 相当、頑張っていたんだ。伍代君。


「でもね、岡村さんが言うように、これからのこと考えると、人集めは大事だよ」


 文芸部の事を思った。

 私はもう、自分がいる場所をなくすのは、いやだと思った。

 せっかくできた仲間と一緒に、活動を続けたかった。

 それには、「なかよしさん」だけじゃダメなんだ。

 同じ学年だけでなく、できたら一年生の参加もあったほうが、ずっとずっと繋がっていくから。


「ほら、夢のお姫様もそう言っていることだし。夏休み明けたら、考えようね」

「ん? 夢のお姫さまって誰?」

 四条君が、もしかして三矢さんのこと? と言って私を見た。

「……は? 私?」

 自分で自分に指を指して、姫? と聞いた。


「以知子、なんだそりゃ」と、伍代君が怪訝そうな顔をする。

「あら? あらあら、照れて。夢、言ったじゃない。三矢さんの夢を見た時、お姫様が出てきたとかさ」

「……俺? 言ったか?」

 お姫様って? 伍代君が、私のことを?


「うん。『ハメルーンの笛吹き』みたいな女の子が、小さな子を引き連れて」

「で、その子に双葉が声をかける、だろ?」

 そうそう、と頷いた後、ありゃりゃ、と岡村さんが首を傾げる。


「でもね、あれ。私と双葉の間では、三矢さんは夢のお姫様だって認識があって」

 なんでだろう、と岡村さんが唸る。

「あれよね、夢が私に三矢さんが出てきた『夢』の話をしたじゃない。それを私は、双葉にしたわけよ」

 うんうん、そうそう、と岡村さん。

「で、双葉が『夢が、女の子を見るなんて珍しいね』って言ったのよ。だから私は。――あっ」

 岡村さんが、えへへなんて誤魔化したような笑いを浮かべたあと、「すみません、犯人、私です」と手を上げた。


「おまえ、双葉になにを言ったんだ」

「まぁまぁ落ち着いて、夢君。うん、だからね。夢が、女の子が出てくる『夢』を見るなんて珍しいって話になって、私が『三矢さんは、夢のお姫様ね』なんて言いまして」

 岡村さんは、えへへと再び笑いながら、今度は段々と顔が青くなっていった。


「やばいっ。……どうしよう」

 あちゃー、と岡村さんは暫く一人で悩んだ後、「まぁ、いっか」と言った。

「以知子。多分、それ、よくないとぼくは思うけど」

 四条君の言葉に、岡村さんがごくんと唾をのんだ。

「そうか。そうだよね。……私、言った方がいいかな」

 岡村さんが聞くと、四条君は「勿論」と答えた。


「え、なんだよ。結局、何がなんなんだよ」

 伍代君が仔犬のように、キャンキャンと二人に吠えている。


 そして私は。


 わかったようなわらかない会話を脳内で転がしながら、つまり、なにがどうなったんだ、とやっぱりわからなかった。

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