第13話

まるで格闘家のような体形をした四条君が、虫も殺さぬほど大人しくインドア派なのは、学年のみなが知るところ。


 というのも、彼は一年次文化祭の、見た目と中身の「ギャップコンテスト」の優勝者だったからだ。

 四条君は、手芸全般や絵を描いたりとか、そういったことが好きなのだそうだ。

 実際そのコンテストでは、四条君が作ったパッチワークの枕カバーが披露された。


 パッチワークというと、作品もおとめチックなものを想像するだろうが、四条君のそれはモノトーンな色合いで、男の子っぽかった。

 へぇ、こんなのもアリなんだなぁと、自分の思い込みが一新されて、驚いた記憶がある。

 その四条君が、甘いものが大好きなスイーツ男子だとしても、素直に納得できることだった。

 

 そしてそんな四条君や岡村さんを見ているうちに、私の中にあったもやもやとした思いが、ふいに形となり目の前に現れた。


「ん? あぁ? あ!! あぁ、そうか、これ紙芝居のメンバーってことね」

 双葉との話を思い出すと、こういった展開は充分アリだ。

 なのに、今頃になって気がつくなんて、遅すぎる。


「ってことはさぁ、国府田君。……感想なんて、嘘なんでしょ」

 双葉は、何も言わずににこにこしている。


 あぁ、双葉め! 

 物書きの純情を返せ! 

 でなきゃ、せめてコーヒー代百五十円を返せ!

 誰もいなけりゃ、髪をかきむしりたいところだった。

 

 そんなこっちとは違い、人をだましながらも優雅に笑い、しかもその姿もまた美しい双葉を見ていると、こいつをコールタールよりも黒くドロドロとした罠に、思いっきり嵌めてやりたいといった強い欲望が生まれた。


 生島に連絡しちゃろうか。


「あ、三矢さんの目つきが、極悪だ。でもさ、その怒りの矛先は、ぼくでなく夢にしてね。ぼくは、お告げ通りに三矢さんを連れてきただけだから」

「……え? 夢?」


 夢って。


「そう、夢のお告げの夢」


 あぁそういえば、一番最初に私を見た時、双葉はそんなことを言ってたっけ。

 私はそれをてっきり、「双葉が見た夢」の「お告げ」だと、勝手に思ったけど。


「あ、ごめん。三矢さん。俺が双葉に頼んだんだ」


 声のする方向に視線を戻すと、四条君の後ろからひょいと顔を出した男子がいた。

 その顔の出し具合が、さっき私が岡村さんを見ようと双葉の背から顔を出したのと似ていた。


 親近感というか、仲間というか、つい顔がほころんでしまう。

 けど、四条君の後ろにいた男子はそんな気分ではなかったようで、私と目が合うとぷいと横向いた。

 

 ……全く。どいつもこいつも。


「彼の名前は、伍代(ごだい) 夢(ゆめ)」

「ねぇ、夢」と双葉が呼ぶと、紹介されたその子は「名字で呼べ、アホ」と言った。

 確かに双葉はアホかもしれないので、それに文句はないけど、「夢のお告げ」には文句がある。


「あなた、伍代君ね。なんで私を――」

「ねぇ、三矢さん。ここ、通るお人の邪魔になると思わない?」


 鈴転がし岡村さんの言葉に、私は何の反論もできなかった。





 店の奥に行くと、少し囲われた場所に席があり、岡村さんのものと思われる飲みものが置かれていた。


「三矢さんは、私の隣にくる? それとも双葉の隣?」

 ふふふと笑うと、岡村さんは、一番奥の席に座った。

 なんで私が双葉の隣なのよと、と鼻息を荒くしながら、岡村さんの隣へと座った。

 双葉は岡村さんの前に座わり、その隣に夢……じゃなくて伍代君が座った。

 そして、お誕生日席には四条君が座った。

 飲み物しかない私たちに比べ、四条君のテーブルの前は華やかだ。

「四条、アイス溶けるぞ」

 伍代君の言葉に四条君は頷くと、両手を合わせ食べだした。


 ここのアイスは、そのカップの大きさでお得感を打ち出していて有名なのだけど、四条君が持つとそれが全く大きく見えなかった。


「四条君って、何センチ」

「18……5か6」

「へぇ、また伸びたんだぁ」

 双葉が驚いたように、言った。

「ねぇ、いつ頃から伸びたの?」

「あら、三矢さんって身長伸ばしたいの?」

 そう言うと岡村さんは、長い足を組み替えた。


 今のは……わざとか?



【後書き】

「通る人」でなく、「通るお人」とわざとしています。

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