第12話

 連れて行かれた先は、ファストフード店だった。



 「どうせなら、ゆっくりとぼくの感想を聞いて欲しいな」なんて魅惑的なささやきを聞いてしまったのなら、行かないわけにはいかないだろうよ、諸君。

 お話会のあとで私と遊ぶ気満々だったミチカを家に届けると、私は双葉と並んで歩いた。


 あぁ、まるで悪魔に魂を売ったような気がするのは、なぜでしょう。

 あぁ、ミチカのうるうるとした目を真っ直ぐに見られなかったのは、なぜでしょう。



「三矢さん、なんか……大丈夫?」

 はっと意識を戻す。

 なんと、私たちは既に店内にいた。

 おそらく、「ミチカのうるうるとした」あたりで自動ドアを踏んでいたんだと思う。

 そういえば、扉が開いた状況は、目に入っていたわ。



 私は双葉の分まで飲み物代を払うと(まぁ、なんとなくね)、トレイを持った双葉の後ろを歩いて階段を上った。

 二階は禁煙席だった。

 人が少なくて、ほっとした。

 ……なんとなくね。


 少し歩くと、双葉が「あ、来てる、来てる」と声を上げた。

 ひょいと双葉の後ろから顔を出すと、少し先に一人の女の子が立っていた。

 ……うーん。これまた、知った顔なんですけど。


「双葉、遅いよ」

 彼女は双葉を睨むと(といっても本気のやつじゃない)、私の顔を見て「拿捕(だほ)されたか、三矢さん」と鈴を転がすような声で言った。

 拿捕って、あなた。


 私を見て拿捕拿捕言っている、この鈴転がしの令嬢は、放送部の岡村 以知子(おかむら いちこ)だ。


 彼女とは、一年の時に同じクラスだった。

 その時、聞いた話によると、中学の頃から放送一筋で、コンクールにも出ているらしい。

 ハネグンの運動会や文化祭での放送も、全て彼女にお世話になっている。

 岡村 以知子の声を知らない奴はもぐりだと、ハネグンでは言われるほどだ。

 岡村さんは、声だけでなく顔もすっきりとした良いお顔だ。

 彼女の将来は、どこかの局のアナウンサーだと思っているのは、私だけではないだろう。   


 その岡村さんが、なぜここに?


「三矢さんも、双葉の美貌に陥落したか」

 だから、陥落って、あなた。

「あ、陥落? 違う、違う。やっぱり、そっち系では駄目だった」


 おいおい! 

 なんだ今の台詞は!

 「そっち系」って、なんだね。

 で、「やっぱり」って、どうやっぱりなんだよ。


 目をまん丸にして、二人を交互にして見ると、「あら、来た、来た」と今度は岡村さんが言った。


 誰が来たんだと振り向くと。――振り向くと、そこには壁があった。


 「うわぁ、四条(しじょう)! おまえ、ほんとに、甘いの好きなんだなぁ」パイにゼリーにアイスまでって、うわぁ。口の中が、あまあましてくるよ、と双葉がぶるりと震えた。


 私は壁から二歩ほど下がり、ぐんと首を上げその全容を眺めると、そこにはたしかに四条 克(しじょう まさる)がいた。

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