第10話
「太陽は、ぽかぽかとした日差しを親子に送りました。
すると、女の子にマフラーをあげ、寒い思いをしていたお母さんの顔が、笑顔になりました。
あたたかくなって、ほっとしたのですね。
その笑顔を見た太陽は、もっともっと喜んでもらいたくて、ぽかぽかの日差しをたくさんたくさん送りました。
ぽかぽかぽか。
すると、どうしたことでしょう。
お母さんの顔から、笑顔が消えました。
女の子が立ち止りました。
お母さんもつられて止まります。
女の子は、ぐるぐると巻かれたマフラーとコートを脱ぎだしました。
暑くなってきたのです。
慌てたお母さんは、女の子が外したマフラーを自分の首に巻き、女の子が脱いだコートを手に持ち、さらに女の子のぬいぐるみまで持ちました。
マフラーにコートに、ぬいぐるみ。
暑くなったお母さんの顔は、おさるさんのように真っ赤っかです。
汗も、だらだらと出てきました。
とても苦しそうな顔です。
それを見た太陽はしまった! と思いました。
そんな太陽の隣で、次は私の番ですね、と雲が言いました。
雲は、太陽と親子の間にすっと入ると、陰を作りました。
すると、お母さんの赤かった顔は元通りになりました。
女の子もお母さんが持っていたコートを着て、クマのぬいぐるみも自分で持ちはじめました。
二人は顔を見合わせると、くすくすと笑いだしました。
なんだか変なお天気だったわね、とお母さんが言うと、変な天気だね、と女の子も言いました。
そして二人はもう一度、くすくすと笑ったのです。
そのとき初めて、お母さんは、女の子が持つぬいぐるみに、風車がついていることに気がついたのです。
お母さんは女の子の頭をそっと撫でた後、少し屈み、ぬいぐみが持つ風車へ、ふぅと風を送りました。
クルクル。
風車は回ります。
それを見た女の子は、自分でもふぅと息を吹きかけました。
クルクル。
風車が回ります。
女の子の顔が、笑顔で輝きます。
それを見たお母さんの顔も、笑顔になりました。
お母さんは思いました。
このお天気なら、急いで洗濯物を取り込まなくてもいいわね。
それに、夕飯の買い物だって、考えてみたら昨夜(ゆうべ)のシチューがまだ残っていたじゃない。
お母さんは女の子と手を繋ぎました。
そして今度は、女の子の歩く速さに合わせて、ゆっくりと歩き出したのです」
聞いている子たちの顔も、物語の女の子と同じように輝いている。
「ずるいずるい、雲さんずるい!
突然、大きな声がしました。
北風です。
北風はそう言って怒りだすと、雲に向い風をびゅうと吹きました。
だってだって雲さんは、ぼくと太陽さんが寒くしたり暑くしたりしたから、勝てたんでしょ。
ってことは、ぼくたちがいないと勝てないってことでしょ。
そう思わないかい、太陽さん!
雲の勝ちだと思っていた太陽も、北風の話を聞いているうちに、それもそうかもしれないなぁと思い始めました。
でも、何かが引っ掛かります。
……ええと、うん。でも。
太陽は一生懸命考えます。
そして、自分たちが、寒くしたり暑くした親子を思い出しました。
待って、待って、北風さん。
私は、この勝負に勝ったのは、やっぱり雲さんだと思います。
北風さん、思い出して下さいよ、あの親子のようすを。
太陽に言われて、北風も一生懸命に思い出しました。
そして、わかったのです。
雲があの親子二人に、笑顔を与えたことを。
北風は、女の子のことしか考えませんでした。
そして太陽は、寒そうなお母さんに気がいってしまいました。
けれど、雲はお母さんと女の子、二人のことを考えたのです。
二人を笑顔にしたのです。
北風と太陽は、雲に謝りました。
何にもできないと思って馬鹿にしていた雲に、謝ったのです」
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