第9話

「ちょうどその時、お母さんと女の子といった親子連れが、道を急いでいる姿が見えてきました。

女の子はまだ小さく、腕には大きなクマのぬいぐるみを抱えています。

お母さんは、急いでいました。

あぁ、早く帰って洗濯物を取り込まないと。

それにそれに、夕飯の材料も買わないと。

お母さんには、しなくちゃいけないことが、たくさんあったのです。

そのことだけを考えていたので、女の子を引きずるようにして歩いていることに、少しも気がつきませんでした。

お母さんに引きずられながら、女の子はぬいぐるみを見ていました。

ぬいぐるみの手にある風車(かざぐるま)が、気になっていたのです」



 クマのぬいぐるみが風車を持っているんだよ、ってことをアピールするために、みんなに見えるように手を上げると、徐にぎゅっと握った。

 集まる子の年が少しばらけていたので、言葉だけじゃなく、ゼスチャーを入れたほうがわかりやすいかなと思って、たまにこうしたこともしていた。

 でもこれをあまりすると、お話会じゃなくて一人芝居になってしまうので、その加減は難しいなって思う。



「北風は、風車を見るとにやりと笑い、誰があの親子を笑わせることができるか勝負しようと言いました。

そして、風をぴゅうと吹き、風車を回したのです。

クルクルクル。

風車は勢いよく回り始めました。

それを見た女の子は、嬉しそうに笑いました」



「なんだよ。だったらもう、北風の勝ちじゃん」

「あぁ、もう、終わったぁ~」

「そんな、まだわかんないよ」

「そうだよ」

 子どもたちのいろんな意見が出る。これも楽しい。私は物語を続けた。



「北風は、自分が勝ったと思うと嬉しくなりました。

そして嬉しくなった北風は、嬉しくなりすぎて、ぴゅうぴゅうぴゅうと、風をたくさん吹いたのです。

風車が回って喜んでいた女の子でしたが、ぴゅうぴゅうと吹く北風に、ぶるぶるっと震えました。

そして、クシュンとくしゃみを一回しました。

お母さんは、女の子のくしゃみに気がつきました。

そして、自分のマフラーを外すと、それを女の子の頭から首へとぐるぐる巻きにしたのです。

ハァークション! 

寒くなったお母さんは、大きなくしゃみを一回すると、また女の子を引きずるようして歩きだしたのです。

それを見た北風は、しまった! と思いました。

そんな北風の隣で、次は私の番ですね、と太陽が笑いました」


 子どもたちは、黙ったままじっと私の顔を見ている。集中している。よしよし。



【後書き】

「 」の中の物語ですが、字が詰まると読みにくいと思い、一文ごとに改行しています。

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