第8話
「冬のある日、北風は太陽のところにくるとこう言いました。太陽さん、太陽さん。あなたとぼくのどちらが偉いかを決めませんか」
「北風と太陽」はイソップ寓話だ。
「イソップ童話」として馴染んでいた私は「寓話?」と思ったけれど、調べると寓話とは道徳的な内容が含まれる物語を指すそうで、なるほどなぁと思った。
イソップ、イソップと当たり前のように私たちが呼んでいるこの人物は、紀元前の生まれのギリシャ人で、奴隷だったともいわれる。詳細は不明だ。彼に関して調べると果てがないように思えた。なにせ大昔の話である。
けれど、もしこの情報が本当だとすると、紀元前の人が関わった物語が、ネットだゲームだといわれる今の世でも、私を含めた日本の子どもたちが一度は聞いたことがある物語となり残っていることは、愉快に思えた。
世の中がどんなに変わっても、人の本質は変わらないって、だから通じる物語なんだって思うことができたから。
「北風と太陽」の続きはこうだ。
北風と太陽は、旅人の上着を脱がせたほうが勝ちだと決めた。
結果は、太陽の勝ち。
旅人は、北風が吹けば吹くほど上着をぎゅっと体に巻き付け、反対に太陽のあたたかさを感じることでそれを脱いだのだ。
またこの物語には別のバージョンがあって、それには上着対決の前に帽子対決があり、北風が勝っている。
初めてこの物語を聞いたとき、太陽が勝ったことに胸がすっとした私だが、しばらくするとどうして勝負をしたのが、北風と太陽だけだったのだろうと思い始めた。
例えば、雲が参加していたらどうなっただろうと。
北風といると良い存在の太陽が、雲がくることでかわるんだろうかってことも気になった。
そうした思いが、今回の物語の発端だ。
物語に対し、こうしたらどうかなと思うことはよくあることだけど、それはあくまで自分の頭の中だけのことだ。
これを誰かに物語として話すとなると、それなりの展開やオチも必要になってくる。聞く方が、納得できなきゃ物語の意味がない。ここが、一番頭を使うところだった。
「北風さん、太陽さん、こんにちは! そこにやって来たのは、空にぷかぷかぷかと浮かぶ、ねずみ色した雲でした」
雲の登場で、物語はイソップから私の物語への扉を開けた。
「雲?」
「雲だって!」
子どもたちから、興味津々の声があがる。
これが快感。
よしよし、と微笑んだら、オトコマエと目があった。
……なんかいやな感じ。
「やぁやぁ雲さん、こんちには。北風と太陽は、ぷかぷかと浮かんでいる雲に挨拶をしました。雲はにこにことしながら、北風さん、太陽さん、いったいなんの相談をしていたんですか? と尋ねました。すると北風は、実はぼくたち、勝負をしようと話していたところなんだ、と威張ったように冷たい風をぴゅうと雲に吹きました。勝負、ですか? 雲が聞くと、今度は太陽が、そうなんですよ、私と北風さんのどちらが偉いか、勝負をするんですよ、と少し威張った声で言うと、ぼかぼかとしたあたたかな日差しを雲に向けました。するとどうしたことでしょう。その勝負にぼくも参加させてくれませんか、と雲が言ったのです」
「雲が?」
「雲なんて」
「なにも武器ないじゃん!」
予想通りの反応に、またにまり。
そしてみんなのその思いは、北風と太陽と同じでもあることも、物語を続けながら語った。
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