第2話
「いやぁ、本当に残念だけど」
文芸部顧問の山中先生は、前置きも少なく部が正式に廃部になったことを伝えてきた。
放課後の職員室は先生たちの姿もまばらで、開け放った窓からは運動部のかけ声やホイッスルが聞こえていた。
廊下からは、吹奏楽部の音合わせが聞こえてきた。
ブーとかボーとか。高くなったり低くなったり。
私にとって少し間抜けなブーボーにだって、聞く子が聞けばそれぞれに音があるんだろうなぁと思った。
私に、聞く耳がないだけ。
あぁ! みんな部活をしてるんだ!
自分の好きなことをしているんだ!
そう思った途端、足の裏が熱くなってむずむずとしてきた。
こうして一人職員室に突っ立って、私はなんでこんな話を聞かなきゃならないんだと、恨めしい気持ちにもなってきた。
不公平だ。
不条理だ。
そもそも、去年、私が高校に入学したときから、文芸部は虫の息だった。
新入生は私一人で二年生はゼロ、三年生が四人(そのうち幽霊部員が二人!)といった具合でようやく部として成立している状態だったのだ。
だから、こうして先生から廃部を告げられることは予想できることであったし、客観的に見ても妥当だと思えた……。
しかし!
しかしですよ!
自分の代で部が潰れるなんて、胸くそが悪いったらありゃしない。
潰すなら、去年の時点でそうして下さいっていうの。
まだ、先輩たちがいる時点で。だったらその傷を、みんなで舐めあえたものの、今潰されたら私しかいないじゃないかよ、おいっ、てな感じよ。
あぁ、でも。
この顧問がいるといえばいるか。
「本当に残念だけど」なんて言いながら、ちっとも残念な顔をしていないこの顧問がっ。
がーっ!
つまり、私の紹介の仕方じゃダメだったってことか。
今年の新入生はゼロだったってことよね。廃部になったってことは。
つまり、そういうこと。
くー! 脱力。
この間やった新入生向けの部活紹介、部員が私一人だけになった文芸部では、当然私がそれをした。っていうか、するしかなかった。
はっきり言って、一人で部を背負うなんて重荷だし、それに一人で部の紹介をしたとこなんてうち以外はなかったし、それって恥ずかしいし、もうこんな部なんて潰れちまえって思ったことは確か。
……まぁ、確かに。
そうは思ったけれど、悲しいかな、ほんの少しは期待してしまいましたよ。
もしかしたら、物語好きの新入生が何人か入ってくれて、でもって「先輩~」なんて呼ばれたりして、なんて。
そんな夢を見なかったといえば、嘘になる。
「三矢、おい。聞いてるか」
おおっと正気に戻る。聞いてはいましたが、ちとちがう世界に行ってましたよ。
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