ハネグンのほらふき娘
仲町鹿乃子
第1話
いとこの中で一番の年長者である私は、ことあるごとに、年下のいとこたちの面倒を見るように頼まれた。
「そよちゃん、遊んで」
幼なじみ同士で結婚し地元に残った両親は、それぞれの親(つまり私の祖父母同士)や兄弟姉妹との仲もよく、何かあるとすぐ集まり、それはとてもにぎやかなものになった。
そんな中、わらわらと群がってくるいとこたちの相手をするのは、当然のように年長者の私で、その一番手っとり早い方法が、絵本を読んで聞かせることだった。
昔から本を読むのが好きだった私は、そこらへんの、お子さまが好きな物語のツボってやつを、自らの経験で知っていたからチョイスには自信があったし、幸い物語好きDNAは他のいとこたちにも流れていたようで(あ、流れるのはDNAじゃなくて、血か? まぁ、いっか)、それがうまい具合にマッチしたってこと。
大人たちが酒盛りをはじめた隣の部屋で、私は延々とそれこそ声が枯れるまで絵本を読んでいた。
絵本がなくなると、短めの童話を読んだりもした。
まぁ、本当はそこまでやらなくてもいいのかもしれないけど、物語の続きをきらきらとした瞳で待ついとこの顔を見ると、ついつい読んであげたくなっちゃうっていうのは、その気持ち――物語の続きをわくわくと待つ気持ちが、すっごくわかったから。
転機になったのは、親戚みんなで旅行に行ったときのこと。
またまたの大集団で、注目を集めながらの旅行だったんだけど、その移動の電車の中で、とんでもないハプニングが起きた。
私が、絵本を持ってくるのを忘れてしまったのだ。
けど、そんなことを知るはずもなくお構いなしのいとこたちは、いつものように私に物語をねだり始めた。
予めわかっている集まりや旅行の際には、新しい絵本を必ず一冊は仕入れる(勿論、親からのお金で)ことにしているのも知っているいとこたちは、今日の物語はなんだろう、なんてうきうきしだした。
絵本はない、なんて言ったもんなら暴徒化しかねない、いとこたちの姿を想像した私は、玄関の靴箱の上に置き忘れた絵本の内容を思い出し、なんとか話しはじめた。
話しながら、最初こそ忠実にその内容を辿ろうとしていた自分が、徐々にその内容を無視し、自分が楽しいと思うように話を変えながら話してしまうこと、そしてそれを楽しいと感じてしまうことに気がついた。
結果、当然のことながら、終わるころには全く違う内容の物語になった。
いとこたちには、ウケた。
最初こそ、絵本がないことに戸惑っていたようだが、物語好きDNAのなせる業か、はたまた運の良さか、いたくお気に召していただけたようだった。
更に、思いがけないことに、本を見ずに物語を語る私に、いとこたちはくすぐったいほどの、尊敬のまなざしを向けてきた。
そして、「もっとそよちゃんのお話が聞きたい」なんて可愛いことまで言ってきた。
その言葉に気を良くし調子に乗った私は、今まで読んだ多くの物語に、私なりのアレンジを加えて次々と語って聞かせたのだった。
―― 思えばそれが、全てのことのはじまりだったのだ。
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