第3話

 『イマドキ、みんなで何かをするなんて、だるくない? かえって良かったと私は思うよ』


 部活が潰れたことを、違う高校に通う中学時代の文芸部仲間にメールをしたらそう返事がきた。


 彼女は生島展子といって、高校に入ってからは帰宅部となり、小説はケイタイで書いていた。ケイタイでのサイトも持っていて、そこそこ人気もあるようだ。

 ちなみに生島が書くのは、ホラーだ。

 犬が苦手で、小さな犬がいても怖がって私の後ろに隠れるくせに、スプラッターは大丈夫だなんて人間って不思議だ。


 私がそう言うと「すっごい冷めたとこあるのに、そよが童話を書くほうが不思議だっていうの」と返される。


 私が冷めているかどうかは置いておき、童話を書いているのは本当だ。

 いとこたちとの体験から、私はすっかり物語作り、それも子ども向けの物語にはまってしまったのだ。


 そしてそれこそが、廃部寸前の文芸部をもり立てられなかった理由でもあった。

 私の書く童話には、オリジナリティがない。

 私が書く童話は、既存の物語のパロディなのだ。


 題名を言えばピンとくると思うけど、たとえば「マッチ売りの三匹の子豚」とか、「一寸法師頭巾ちゃん」だったり。

 ちなみに、「マッチ売りの三匹の子ぶた」はラストがあまりにも強烈で、いとこたちから号泣者が続出したため母からは、「子ぶた物語禁止令」などというものが出された。


 お母さんだって、豚肉好きなくせにさぁ、なんて拗ねながらそのことを生島に報告すると、あんたの童話にはホラーの魂があるね、と褒められた。

 ホラーの魂ってどんなのだよ。

 それに、そもそも童話だって、そうかわいいだけの物語じゃないんだけど。

 とはいえ、嫌がる人に無理にそれを語り通すほどには、私もそこに拘りはなかったし。


 まぁ、そういったこともたまにはあるものの、古今東西の昔話や伝説といった民話や古典ともいえる創作童話の数々を読むうちに、これとあれがくっついたら面白そうとか、これはこんな展開になったほうが面白いんじゃないかって、私の興味の対象はもっぱらそっち方面だった。


 生島や文芸部の先輩たちみたいに、何が何でも正真正銘のオリジナル小説を書くんだ、といったことにあまりこだわりはなかった。


 そして、そんなオリジナルを追求する人の中にいると、同じ「創作」といった括りの中いても私は完全にイロモノだった。


 とはいえ、いろんなものを書く人がいるのはいいことだと先輩たちは優しかったし、私が書くものを喜んで読んでくれた。


 しかし、先輩は卒業され、残ったのはイロモノの私だけになった。

 イロモノは、正統派があってこそ光るのものであって、単体となると消えそうな電球の光みたいな存在だった。

 当然そこに魅力を感じてもらえるほどの威力はなく、同学年の部員も私一人から増えることもなければ、新入生も入らなかった。


『かえって良かったと私は思うよ』なんて、多分生島は慰めの意味で言ってくれたんだと思うけど、いろんな意味でまだそれを受けとれるほどには、私の気持ちは上がっていなかった。

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